災害時に放置されたクルマを、警察官・消防士・自衛官のみならず、道路管理者である国道交通省・県庁などにも撤去する権限を与える「災害対策基本法改正案」が第187回臨時国会(2014年の9月・10月ごろ召集)に提出されるかもしれません。2014年7月25日付読売新聞が報じました。
道路管理者のほか、保守を委託されている高速道路会社なども、レッカー車などを使って撤去できるようになる見通しです。ただ、憲法29条「財産権」の但書「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」にもとづいて、放置されていた車に傷がついた場合の補償などの法整備は検討中で、法案提出に間にあわない「二段階改正」の可能性もありそうです。
「前へ!東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録」(麻生幾、新潮文庫)は、震災国会(第177回通常国会)で、公明党の高木陽介・衆議院国土交通委員が進めていたので気になっていたのですが、文庫版が出たので、読んでみました。
国土交通省の出先機関、東北地方整備局の3000人を束ねるトップだった、徳山日出男局長が、災害対策室で、東日本大災厄(東日本大震災)発災直後に、阪神大震災とはまったく違う津波型震災が来ると気づき、災害対策室のマイクを握り、混乱する部下たちに「ちょっと聞いてくれ!おそらく経験したことがないような地震が来た。おちついて各自の役割を果たしてほしい」と呼びかけます。
その後、同局が1機のみ持つヘリコプターが離陸し、情報を集めている間に、離陸した仙台空港が津波で水没したり、電話した道路事務所長が「詳細は不明だし、そもそも町長の行方が分からない」と繰り返すなど未曾有の災害の実態が明らかになっています。
夜、本省の大畠章宏・国土交通大臣とのテレビ会議が始まるやいなや、徳山局長は「阪神淡路大震災とは違います。津波型災害を想定すべきです」と進言すると、大畠大臣は「すべて任す。国の代表と思ってあらゆることをやってくれ!」「とにかく人命救助を最優先してやっていただきたい!」と、全権委任を取り付けます。
そこで、徳山局長は再び災害対策室のマイクを握り、「みんな聞いてくれ!無駄な動きは致命傷となる。内陸部の災害にいちいち対応すべきじゃない。重要な被災地を見誤る。目標は、太平洋沿岸部の都市だ。明日から、人命救助と救援のルートを確保するため、そこへ向かう道(国道)を、我々は啓開によって開ける!今からその準備を徹夜で行ってほしい!明日からが勝負だ!」と語ります。
こうして2011年3月12日の夜明けからの、東北自動車道の「啓開」とそれに接続する国道を、太平洋沿岸に向かって啓開する「櫛の歯作戦」によって、陸上自衛隊が被災地に行き、東日本大震災福島第一原子力発電所の原子炉の冷却作業もできることになりました。
2009年9月17日の民主党政権発足以来の「行き過ぎた政治主導」は、国土交通省においては、2011年3月11日の大畠大臣の徳山局長に対する「国の代表と思ってやってくれ!」の一言で、正常化されました。
その後、きょねん2013年8月1日付で、徳山さんは本省に戻り、道路局長となりました。また、同日は偶然にも、野党・民主党の大畠章宏幹事長の就任後最初の定例記者会見があり、そのとき私が撮ったのは、上の写真です。
民主党と道路局長は浅からぬ縁があり、第169回通常国会(ガソリン値下げ国会)では、冬柴鉄三大臣(故人)を支える、宮田道路局長がターゲットになり、首相、財務相、国交相らとともに、政府参考人ながら答弁回数ベスト5に入りながら、閉会後、退職しました。
徳山道路局長は1年足らずの2014年7月8日付、で技監に昇進。事務次官は事務系(文系)であり、技術系(理系)職員としてはトップになりました。また、同省事務次官は、3人に1人の割合で技監が昇格していますが、徳山さんの前2代の技監は事務次官になっておらず、次の事務次官は技監からの昇格の可能性が高いといえそうです。
徳山さんが道路局長として、答弁した第186通常国会の本予算審議の分科会で、自民党1期生の安倍チルドレンから次のような質問をしました。
[国会会議録データベース(2014年2月26日の衆議院予算委員会第8分科会)から引用はじめ]
「同じ道路の質問ですけれども、地元ではございません。地元ではないんですけれども、質問をさせていただきます。(略)我が党の幹事長であります石破衆議院議員が地元に行ったときにどのような発言をしたかという記事でございます。国道百十三号をもっとよくしなければならないと語り、(略)石破氏は、日本海側の道路や鉄道整備が太平洋側と比べておくれていることを踏まえ、国道百十三号はもっとよくしなければならない(略)これは選挙前でございますので、選挙後に自民党は何かしてくれるんじゃないかということで大きく期待しているのが、地元の実際の心情だというふうに私自身も思っているところであります。(略)幹事長が行って約束しているわけですから、友党の公明党の大臣にも、我が党の幹事長がこういうふうに地元にて発言をしたんだということをぜひ御理解いただいて、そして副大臣、政務官には、我が党の幹事長がこれだけの発言を地元に行ってしているんだということを踏まえて、この国道百十三号の今後の進捗をぜひ図っていただきたいというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか」
[引用いったん終わり]
この1期生は、太平洋岸選出ながら、自民党幹事長の選挙時の公約を実現するよう、連立与党・公明党の太田昭宏国土交通大臣に約束してほしいと迫ったのです。
これに対して、徳山道路局長は大臣を制して、自ら答弁に立ちました。
[引用再びはじめ]
「この国道百十三号でございますけれども、新潟と山形県を結んでおります。実は、東日本大震災の際に、東北自動車道が一般車が走れなくなりました。結果的に、例えば新潟の港に揚げた物資を、この百十三号を通って、雪の中でございましたけれども、山形から仙台へと運ぶ貴重なルートになったわけでございます。震災の直前と直後で、この百十三号の交通量は一気に二・三倍になったというデータもございます。そういうことを見てもわかるように、地域の数少ない幹線道路でございまして、国道百十三号の一般部だけではなくて、もう少し規格の高い新潟山形南部連絡道路という道路としてつないでいってほしいという期待があるわけでございます。(略)早期開通に向けて全力で取り組みますとともに、調査中区間についても必要な調査を進めてまいります」。
[引用おわり]
これに対して、自民党1期生は「進めてまいるということですけれども、数十年間そのままでございますから、地元としては一刻も早い事業化というのを望んでおりますので、進めるということは本当に強くお願いを申し上げます」と応じました。
このように、自ら語らなくても、徳山さんは東日本大震災の話をして、答弁しているので、説得力があったことになります。平成6年政治改革4法の成立時にも、小選挙区になると、党幹事長のガバナンスが強くなりすぎるのではないかとの懸念はすでにありました。実際にこの小選挙区選出の1期生は、太平洋側選出なのに、日本海側選出の石破茂幹事長の選挙区時の発言が実現するように国会で質問し、しかも「友党の太田大臣、前向きな答弁を」と迫りました。それを、大畠大臣から「国の代表と思ってやって欲しい」として、少なくとも、自衛隊が原発まで行って水で冷やす道路を開いた、原発を冷やすのは別の省の管轄ですが、その命の道を開いた徳山さんの方がずっと国を想っていたということになります。
まあ、議会制民主政治にはよくあることであり、1期生は国を想うよりも地元を回って声を吸い上げるのが仕事です。
東芝出身の経団連会長は、大蔵大臣に対して「もう君には頼まない」、野党第1党党首暗殺の際には「刺殺犯の気持ちも分からないでもない」と語りましたが、日立出身で、連続7期当選(現在は8期当選)の「すべて任す」「人命最優先でやってくれ」。
なかなか、こういう目に見えない成果は報道に載らないし、民主党も情報発信できないのですが、今後も国会審議の中でアピールしていくしかないでしょう。
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