(26日投稿で、25日付に)
[写真]国家公安委員会・警察庁、東京都千代田区霞が関、2017年5月20日、筆者・宮崎信行撮影。
おとといの通常国会で「安保法」「派遣法」に次ぐ第3の焦点とされ、きょねんの通常国会で参議院修正を得て成立した「改正刑事訴訟法」(改正法律は平成28年法律54号)にもとづき施行段階の実施状況を、国家公安委員会・警察庁がまとめました。
可視化、取り調べの録音・録画について、警察庁の平成29年5月25日の調査概要では、裁判員裁判対象事件での実施状況が93・8%にのぼりました。きょねん10月からことし3月までの数字で、1事件あたり平均13・2回、平成25時間9分、録音・録画されていました。できなかった理由として「機器の故障など」が70件ありました。改正法施行の例外となる「録音・録画の拒否など」は87回、「指定暴力団員にかかる事件」が89回。ただ、例外自由となる「加害のおそれ」は0件でした。このほか、取り調べの機能が著しく損なわれる場合として警察庁が定めたガイドラインの但書の適用が93件ありました。
知的障害者・精神障害者・発達障害者である被疑者に対しては、対象3412件(半年間)のうち、3399件で可視化し、99・6%の実施率となりました。
改正刑訴法は、公布から3年以内の政令で定める日に施行されるため、2019年4月よりも前に施行されます。
法律の附則は、「政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、取調べの録音・録画等の実施状況を勘案し、取調べの録音・録画等に関する制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」との見直し規定を置いています。法案よりもまずは、警察庁が対応を協議していくことになりそうです。
この記事の内容は以上です。以下は、(1)参議院作成の議案要旨、(2)刑訴法改正の国会審議について、当ブログ内の関連記事をいくつか、抜粋でコピペします。それで終わります。
[参議院作成の議案要旨からコピペ、はじめ]
(法務委員会)
刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(第百八十九回国会閣法第四二号)(衆議院送付)(本院継続審査)要旨
本法律案は、刑事手続における証拠の収集方法の適正化及び多様化並びに公判審理の充実化を図るため、
刑事訴訟法、犯罪捜査のための通信傍受に関する法律、刑法その他の法律を改正し、所要の法整備を行おうとするものであり、その主な内容は次のとおりである。
一 取調べの録音・録画制度の創設
1 裁判員制度対象事件及びいわゆる検察官独自捜査事件について、逮捕・勾留中の被疑者取調べ又はいわゆる弁解録取手続の際に作成された供述調書等の任意性が公判において争われたときは、検察官は、原則として、その被疑者取調べ等を録音・録画した記録媒体の証拠調べを請求しなければならない。
2 検察官、検察事務官又は司法警察職員が、逮捕又は勾留されている被疑者の取調べ等を行うときは、一定の例外事由に該当する場合を除き、その全過程を録音・録画しておかなければならない。
二 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設並びに刑事免責制度の創設
1 一定の財政経済犯罪及び薬物銃器犯罪を対象として、検察官が、弁護人の同意を条件に、被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述等をし、検察官が不起訴や特定の求刑等をする旨の合意をすることができる。
2 裁判所は、検察官の請求を受けて、決定により、免責を与える条件の下で、証人にとって不利益な事項についても証言を義務付けることができる。
三 犯罪捜査のための通信傍受の対象事件の拡大及び手続の効率化
1 現行法が規定する傍受の要件に加えて、あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われると疑うに足りる状況があることを要件とした上で、現行法上薬物銃器犯罪等に限定されている対象犯罪に、殺人、略取・誘拐、詐欺、窃盗等の罪を追加する。
2 暗号技術を活用することにより、傍受の実施の適正を確保しつつ、通信事業者等の立会い・封印を伴うことなく、捜査機関の施設において傍受を実施することができるなどの措置を講じる。
四 弁護人による援助の充実化
被疑者国選弁護制度の対象事件を拡大し、死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役・禁錮に当たる罪について勾留状が発せられている被疑者から、勾留状が発せられている全ての被疑者とする。
五 証拠開示制度の拡充
1 公判前整理手続等において、検察官請求証拠の開示後、被告人又は弁護人から請求があったときは、検察官は、その保管する証拠の一覧表を被告人又は弁護人に交付しなければならない。
2 検察官、被告人又は弁護人は、裁判所に対し、事件を公判前整理手続等に付することを請求することができるとするとともに、開示の対象となる類型的な証拠の範囲を拡大する。
六 犯罪被害者等及び証人を保護するための措置
1 証人等の氏名等の開示について、証人等の身体又は財産に対する加害行為等のおそれがあるときは、防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、検察官が、弁護人に当該氏名等を開示した上で、これを被告人に知らせてはならない旨の条件を付することができ、特に必要があるときは、弁護人にも開示せず、代替的な呼称等を知らせることができる。
2 裁判所は、証人を尋問する場合において、証人が加害行為を受けるおそれのある場合等に、同一構内以外にある場所に証人を在席させ、ビデオリンク方式によって尋問することができる。
七 その他
裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化、自白事件の簡易迅速な処理のための措置、犯人蔵匿等及び証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げ等を行う。
八 施行期日等
1 この法律は、一部を除き、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
2 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、取調べの録音・録画等の実施状況を勘案し、取調べの録音・録画等に関する制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
なお、本法律案は、衆議院において、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度について検察官が合意をするか否かの判断に当たり考慮すべき事情の追加、合意のための協議への弁護人の常時関与、傍受記録に記録されている通信の当事者に対する通知事項の追加、通信傍受についての国会報告事項の追加、法施行後三年を経過した場合の検討条項の範囲の拡大等の修正が行われた。
[参議院作成の議案要旨からコピペ、おわり]
[当ブログ内記事から、関連個所をいくつか抜粋引用、はじめ]
刑事事件の2~3%にあたる殺人など裁判員対象事件や、特捜部独自捜査事件での、取り調べの可視化・録画録音を義務付けるとともに、経済事件での司法取引や、通信傍受法の対象を拡大するなどの、刑法・刑事訴訟法・通信傍受法などの改正の答申案を法制審議会の部会が2014年7月9日まとめました。秋の法制審総会で法相に提出するはこび。刑法・刑事訴訟法・通信傍受法などの改正法案は、第189回通常国会(2015年1月召集)に提出する見通し。
法制審の他の部会が進めている、民法債権編(債権法)の施行以来120年ぶりの大改正法案の要綱と同じく、「骨抜き」があるようです。ともに民主党政権の法相が法制審に答申し、数年かけている間に、自民党政権となって官僚、既得権益者、審議会委員、族議員らにより骨抜きされてしまった要綱となったようです。
さらに、来年の通常国会で両方が議論されるとなると、ともに成立させるのは、至難の業となりそうです。
ただ、第46期衆議院では、法務省提出法案が増えており、第2次安倍内閣の法案のうち、提出から成立までもっとも時間がかかっている「テロ組織への資金提供禁止法案」(183閣法30号)は、衆・法務委が1日審査しただけで、継続審査となっています。
もともと、債権法改正は2009年に千葉法相、刑事訴訟法改正は2011年に江田法相が法制審に諮問した順になります。ともに重要法案であり、衆議院先議になる見通し。
さらに、法務省関係で特別委員会が設けられたことはありませんし、だいいち、答弁に立つ法務大臣は一人です。内閣法制局は第2部が担当しますが、集団的自衛権を行使する自衛隊法など安保法制再整備法案も第2部の担当になります。民法改正と刑法改正を通常国会の衆議院予算通過後に審議入りしても、会期内に参議院で両方成立させるのは常識的に不可能と考えられます。性質からして、与野党など議院修正はかなり難しい法案です。法務省内の「刑事局は民事局よりも偉い」という対立が白日のもとにさらされるかもしれません。
債権法では「会社・社長以外の連帯保証人を無効とする」、刑訴法では「全事件を可視化する」という部分は骨抜きになっており、民主党の対応が焦点になりそうです。いずれにせよ、両方のうち、少なくとも片方は、衆参選挙イヤーの2016年通常国会までもつれると思われます。衆参法務委から国政全般を巻き込んだ大政局が起こるとは思えませんが、二大政党の「姿勢」を「見る人は見ている」ということになりそうです。まさに、谷垣さんの口癖、「民、信なくんば立たず」になりそうです。
法制審部会の答申案はまだ法務省ウェブサイトには掲載されていませんが、報道によると、次のような内容です。
・裁判員裁判対象事件(殺人・放火など)や検察独自捜査事件の取り調べについて、全過程を可視化するよう義務付け、機材などが整ってから開始する。
・企業、汚職、薬物犯罪などで容疑者・被告に不起訴処分や求刑の軽減を約束したうえで、他人の犯罪について供述させる「協議・合意制度」(司法取引)の導入。
・振り込め詐欺、組織的窃盗など9種類の犯罪でも通信傍受ができるように追加する。
・国選弁護人の対象を全事件の容疑者に拡大する。
・検察官が弁護士に対して「証拠一覧表」を交付する。
・犯人隠避、証拠隠滅、犯人威迫などの罪の法定刑を引き上げる。
・ストーカー、性犯罪などの被害者の氏名・住所を、証人尋問や証拠開示で被告側に明かさない制度を導入する。
細川・羽田内閣を含めて、非自民法相はほとんど死刑を執行しておらず、戦後の死刑執行は自民党員の法相が9割5分以上になります。しかし、小川敏夫ネクスト法相(元法相、参・法務委)は谷垣法相よりも前に死刑執行命令を出した当事者経験があります。(「死刑執行を発表する小川法相記者会見要旨」はこちら)、私は刑法訴訟法第475条などによる死刑執行こそ我が国法体系を守るために必要であり、究極の政権担当能力であると考えています。
鳩山元法相が自民党に復党したようですから、現在、二大政党以外に死刑執行経験者はいません。公明党、維新、みんなに刑法・刑訴法に関する議論をする資格はない、その党内法務部会に何の意味もない、と私には思えますが、いかがでしょうか。
大臣の心の重荷は情報公開法が軽くします。民主党政権の千葉景子法相は、実際に死刑執行を見ました。死刑執行経験者同士の静かなバトルという、政権交代ある二大政党政治のひっそりとしながらも本格的な幕開けです。
[追記 2015年1月6日 午前9時]
昨年末に衆議院解散があり、第188回特別国会が開かれました。このため、2015年1月召集の通常国会の回次は「189回」となりました。タイトルを「189回」に修正しました。
[追記終わり]
領域警備法案などが実質審議入り 刑事訴訟法改正案はホリエモン参考人質疑 きょうの国会
【同日 衆議院法務委員会】
「刑事訴訟法改正案」(189閣法42号)のロングラン審査がなおも続きます。私も含めて「労働法制、安保法制なみに重要法案なのになかなか目を注げない」状態が続いていましたが、きょうのたぶん合計4回目の参考人質疑は1人だけ意見を述べ、1人に質疑するという珍しい形式。ホリエモンこと堀江貴文さん(SNS株式会社創業者)が登場し、ライブドア事件で東京地検特捜部に逮捕され、拘留されたときの経験と、その後の活動で得た知見を披露しました。このもようは、一部テレビニュースでも報じられ、ようやく関心が高まりそうです。
[画像]衆議院法務委員会で、刑事訴訟法改正案で参考人として陳述する、堀江貴文元ライブドア代表取締役、2015年7月10日、衆議院インターネット審議中継からスクリーンショット。
堀江さんは、ライブドア代表取締役として拘留されていた時に「精神的なプレッシャーで脳の記憶が書きかえられてしまう。会ったことがない人と共謀したかのように錯覚してしまう」とし、「民主党議員の偽メール事件が拘留中に起きた時は、『ひょっとして自分が酔ったときにそんなメールを送ったのかな』 と思うほどプレッシャーを感じながら過ごした」、「私は公判前整理手続きで裁判官の裁量保釈により保釈された。今回の改正法案には司法取引が入っているが、今は検察審査会もあるが、検察官だけが起訴できる、検察官起訴便宜主義であり、(ライブドア事件のような)検察官独自捜査事件では、『不起訴にする、起訴猶予にする』と言って主犯格を追い詰めることができる」などと語りました。
議員からの質疑に答えて、「(捜査中に)おかしいと思っていたことが、証拠開示制度により、部下の巨額の横領だったことが裁判で分かったこともある」、「拘置施設の職員が少なく、金曜日、土曜日に弁護士の面会がしずらい。そのため、特捜部は土曜日、日曜日の取り調べでぐっと攻めてくる。今後は弁護士が同席して取り調べてほしい」と語りました。
一人だけの参考人質疑なので、1時間強で終了し、法案審査に。
来週からは、民主党の山尾志桜里筆頭理事、維新の党の井出庸生理事が、与党・自民党と法案修正協議にのぞむことになります。
なお、徹底審議により、少しずつ与野党がほぐれてきた面もあり、自民党の元法務副大臣(元日産自動車取締役、世襲議員)の奥野信亮委員長が特定の野党系無所属議員に対して、「これからはなるべく出席してくださいね」と促しながら、「次回は14日に開く予定ですが、最終確認してから、公報をもってお知らせします」と語りました。与野党間の堀が狭まってきたので、ぜひ修正をして、国会が検察より上位にあることを超党派で示してほしいところです。
【平成28年2016年5月20日(金)参議院本会議】
「区割り審(衆議院選挙区画定審査会)設置法及び公職選挙法を改正する法律」(190衆法26号)が、投票総数233、賛成152、反対81の賛成多数で可決し、成立しました。
「改正地球温暖化対策推進法」(190閣法51号)が投票総数232、賛成153、反対79の賛成多数で可決し、成立しました。公布日に施行。
「改正個人情報保護法」(190閣法48号)は投票総数233、賛成216、反対17の賛成多数で可決し、成立しました。
「刑事訴訟法改正案」(189閣法42号)は投票総数231、賛成216、反対15の賛成多数で可決し、衆議院に送られました。採決に先立つ討論では、共産党の仁比聡平さんが強く反対しました。
この後、「国の統治機構に関する調査会」の報告書に関して説明がありました。
さらに、「国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会」の報告書も説明されました。これで、第22期・第23期参議院はひと段落というムードになりつつあります。
【同日 衆議院法務委員会】
「民法の再婚禁止期間を6か月から100日間に退縮する改正案」(190閣法49号)の審査。自公民が「附則で3年後の見直し」を盛り込んだ修正案を提出。採決の結果、全会一致で修正可決されました。
続いて、参本会議から、「刑事訴訟法改正案」(189閣法42号)が回ってきて、即時付託されました。前の国会で審議しているため、趣旨説明は省略。質疑は共産党の清水忠史さんだけ。岩城法相の衆での刑訴法答弁は初めてになりますが、「長時間ていねいな審議をしてきた。なんとかご賛同いただきたい」と答弁しましたが、共産党は緒方靖男国際部長(元参議院議員)の神奈川県警察本部による盗聴事件など、盗聴法の4分野から9分野への拡大などを厳しく批判しました。討論は清水さんが涙ながらに反対。採決の結果、共反対、自公民の賛成多数で可決しました。来週の衆本で可決し、成立のはこび。公布から3年以内に施行。
採決の直後に、傍聴席から「恥を知れ」との声があがりました。それ自体、国会法やそれにもとづく規則に違反しています。私も政権交代可能な二大政党政治の実現の出鼻で、小沢信者から、政治記者・経済記者の私にはまったく土地勘が無い、検察庁・司法府に関することで妨害を受けました。なぜ私が立法府でも行政府でもない、司法府の話などに関わらなければならないでしょうか。まったく不愉快千万。小沢信者も、きょうの傍聴人も、私のように刑訴法と無縁な人生を歩んでいる者からは、理解不能です。
この後、「ヘイトスピーチを規制する本邦外出身者に不当な差別的言動の解消に向けた取り組みの推進に関する法律案」(190参法6号)が審議入り。参法務委員との質疑の後、全会一致で可決しました。
さらに、「差別の解消推進に関する法律案」(190衆法48号)が趣旨説明されました。ただ、質疑はないまま散会しました。次回は未定。今国会での成立はあり得ないと思われます。
[当ブログ内記事から、関連個所の抜粋引用、おわり]