厚生労働省労働基準局内に設けられた「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」
は、2017年5月30日(月)の会議で最終とりまとめ案を提示し、次回の会合で最終決定することにしました。
「労働契約解消金(仮称)」について、定義づけが多くのページを割いてなされました。
この労働契約解消金という言葉は、私は聞いたことが無く、定番である「菅野和夫著 労働法」にも出てこないようです。解雇の金銭解決を、労働契約解消金と呼ぶことにしたようです。ただ、とりまとめ案を読むと、裁判で、解雇の無効などの地位確認とあわせて実現すべきだとの声が労使とも多い「解雇の事後の金銭解決」と、安倍自民党官邸で、企業経営者が提唱した「解雇の事前の金銭解決」が混在しているように感じます。とりまとめは、この「労働契約解消金」について、その必要性は認めながらも、一定の計算基準を設けるのは難しい、改正民法債権編(来月公布)の施行状況を見極めるべきだとの声が出ており、法改正には慎重、先送りの方向性となりそうです。
上記とりまとめ案から、該当部分を以下に引用します。長文になります。
[透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会の、最終報告案から抜粋引用はじめ]
(イ)労働者が金銭の支払を請求する権利
a 権利の発生要件
労働者が金銭(それが支払われることによって労働契約が終了する効果を伴
うもの。以下「労働契約解消金」(仮称)という。)の支払を請求できる権利(以
下「金銭救済請求権」という。)の発生要件については、後述の権利の法的性
質にもよるが、例えば、①解雇がなされていること、②当該解雇が客観的合理
的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと(解雇権濫用法理)
(※)、③労働者から使用者に対し、労働契約解消金の支払を求めていること
といったことが考えられる。
※ 労働契約法第 16 条の要件に加えて、禁止解雇を対象とする場合については、例えば
「労働基準法等の法律によって禁止されている解雇と認められること」という要件も含
むよう設定することが考えられる。
b 権利の法的性質
(a)金銭救済請求権の法的性質については、労働契約解消金の支払請求後の取
り下げができない仕組みと位置付けること(形成権的構成)が考えられるほ
か、取り下げができる仕組みと位置付けること(請求権的構成)も考えられ
る。
※ 一度提起した訴えを取りやめることを民事訴訟上「取り下げ」というが、ここでは、
労働者が労働契約解消金を請求した後、何らかの理由で翻意した場合等にその請求を
取りやめることをいう。
(b)これについては、
・ 解雇を不当と考えた労働者が、地位確認等の選択肢を考えることなく使
用者に対して金銭を請求した場合であっても、取り下げができないまま、
金銭が支払われたときに労働契約が終了することとなり、労働者保護に欠
けることから、取り下げができる仕組みとするべきという意見があったが、
・ これに対しては、そうした仕組みとした場合、
➢ 「現に継続して労働者が一定額の金銭の支払を求めていること」を要
件とすると、金銭の支払を求めている間は権利があるが、その後求める
意向がなくなっている期間があればその間は権利が喪失するというよ
うに、権利関係が不安定になり
➢ 「金銭の支払を求めたこと」を要件とすると、取り下げを認めない仕
組みとした場合と同様の課題が生じ得る
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➢ 労働者が十分な情報を得て熟慮したうえで金銭救済請求権を行使す
る必要がある
等の意見があり、権利関係の早期安定の観点からは、支払請求後の取り下げ
ができない仕組みとすることが考えられる。なお、この点については、様々
な選択肢について更に検討すべきとの意見もあった。
(c)その上で、そうした仕組みとした場合の課題については、
・ 労働者による慎重な権利行使を求める観点から、裁判上でのみ権利行使
できるものとして設計すべきであり、権利行使を裁判上に限れば労働審判
制度への影響も少ない
・ 広く国民に利用してもらうという今回の制度趣旨に鑑みると、裁判上の
請求に限ることは望ましくなく、また、裁判外の請求は、当該解雇が客観
的合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないこと(解雇
権濫用法理)との要件があるためそもそも事実上それほど行使されない可
能性があることも踏まえると、裁判上の請求に限る必要性も高くはない
・ 労働審判は当事者間の権利関係を確認して行うものであり、この金銭請
求の権利の行使を裁判上の請求に限ると、労働審判では行使できなくなる
ことから、裁判上に限るのは適当でなく、書面により請求することに限る
ような方策を考えるべき
等の意見があった。
(d)労働契約解消金の支払請求後の取り下げができない仕組みとした場合の課
題への対応については、権利行使を裁判上での請求や書面など一定の形式に
よる請求に限ることから、権利行使についての周知広報によって対応するこ
とまで、様々な選択肢が考え得るが、労働者保護を図る観点から、どのよう
な対応が望ましいか、引き続き、議論を深めることが考えられる。
※ このほか、例えば、労働者が金銭救済請求を行ったときに、解雇した使用者が、解
雇の意思表示が無効であって労働者が労働契約上の地位を有することを自ら認めた
上で、労働者に対し労務提供を求めた場合において、
・ 労働者は使用者に引き続き金銭救済を求めることができるのか
・ 使用者が金銭支払を拒否して労働者に労務提供を求め、労働者が労務提供を拒
んだ場合、使用者は、労働者の労務提供拒否(債務不履行)を理由に再度解雇を
行うことが可能か
等の指摘もあった。
(ウ)使用者による金銭の支払及び労働契約の終了
a 金銭の性質
(a)労働契約解消金の構成
イ 労働契約解消金については、①職場復帰せずに労働契約を終了する代わり
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に受け取る「解消対応部分」(+その他慰謝料的な「損害賠償的部分」)及び
②「バックペイ分」(解雇が無効な場合に民法(明治 29 年法律第 89 号)第
536 条第2項の規定に基づき発生する未払い賃金債権に相当するもの)とい
う要素が考えられる。
ロ 労働契約解消金は、このうち、解消対応部分(+損害賠償的部分)が基本
となるものと考えられる。
ハ バックペイ分については、
A 労働契約解消金には含めず、これまでと同様に民法第 536 条第2項に基
づき発生する未払い賃金債権として位置付ける
B 労働契約解消金に含める
という2つの構成の仕方が考えられる。
ニ このうち、Aについては、
・ 簡素でわかりやすい仕組みとすることを考えると、B案は非常に複雑な
設計になるため、A案のようにバックペイは従前どおりの扱いとする考え
方もあるのではないか
・ バックペイを含めない場合には、労働者がバックペイの支払を受けた後
に労働契約解消金を請求するという行動を取り、紛争が長期化するといっ
た懸念がある
・ バックペイを含めないこととした場合には、労働契約解消金請求訴訟と
は別にバックペイ請求訴訟を提起することが可能であり、紛争の一回的解
決の観点からは裁判所の審理上の工夫として弁論を併合するといったこ
とが考えられる
等の意見があった。
ホ 一方、Bについては、
・ 現状では、解雇無効を争う場合には、一般的に和解でもバックペイを考
慮しており、例3の仕組みによる金銭救済制度でも労働契約解消金にバッ
クペイを含めて考えるのは当然
・ バックペイは裁判が長引くほど積み上がっていく性質のものであり、金
銭水準の予見可能性の観点から問題がある
・ バックペイを含めるとすると、労働者の再就職に対するインセンティブ
が阻害され、不適当
等の意見があった。
ヘ また、Aについてはバックペイ分が含まれず、別途未払賃金が請求される
ため、労働契約解消金に係る判決確定後に訴訟が蒸し返され紛争が長期化す
る可能性があり、Bであってもバックペイ分のうち「相当額」が含まれるに
留まる、又は「全額」を含めて上限を設定する場合には、別途、残余のバッ
クペイに係る請求が行われる可能性があって、いずれも紛争の迅速な解決の
観点からは問題があることから、Bのうちバックペイ分を全額含める構成と
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することが適当との意見もあった。
ト これとは別に、欧州諸国においては、バックペイを考慮せずに解決金額を
算定している国もあり、裁判の長期化や申立の遅れ等によりバックペイ額が
膨らむ可能性があることも考慮すると、予見可能性の観点からも、解雇時に
労働契約が終了することと整理した上で、労働契約解消金は解消対応部分
(+損害賠償的部分)のみによって構成されることとし、バックペイを考え
るべき事案であれば考慮要素として勘案すべきといった意見もあった。
チ こうした意見を踏まえ、労働者の保護を図りつつ、紛争の迅速な解決に資
する観点から、どのような整理とすることが適当か、引き続き、議論を深め
ることが考えられる。
(b)バックペイの発生期間
イ バックペイについては、使用者による解雇が解雇権濫用等により無効であ
る場合、民法第 536 条第 2 項の規定に基づき、使用者の責に帰すべき事由に
よって労働することができなかった期間に係る未払い賃金債権が発生する
こととなるが、使用者の責に帰すべき事由によって労働することができない
と認められるには、労働者が就労の意思を有していることが必要と考えられ
る。
ロ 例3の仕組みによる金銭救済制度において、この就労の意思が認められ、
バックペイが発生する期間をどのように考えるかについては、
・ 労働契約解消金の支払時点まで労働者は就労の意思を有しており、解雇
時点から労働契約解消金の支払によって労働契約が終了するまでの間バ
ックペイが発生するとする考え方と、
・ 金銭救済請求権を行使した後は基本的には就労の意思が失われており、
解雇時点から労働契約解消金の支払を請求するまでの間バックペイが発
生するとする考え方
という複数の考え方があり得る。
ハ これについては、バックペイは、民法第 536 条第2項に基づき支払われる
ものであることを基本としつつ、例3の仕組みによる金銭救済制度における
労働契約解消金の中にバックペイをどのように位置付けるか、労働契約の終
了との関係等によってその発生期間が定まってくるものであることから、労
働契約解消金の性質等を踏まえ、引き続き、議論を深めることが考えられる。
ニ なお、これについては、
・ 労働者の救済の観点からは、金銭が支払われて初めて労働契約は終了
し、労働者の就労の意思もなくなったとするべきであり、解雇から金銭
支払い時までは未払いの賃金が認められてしかるべき
・ バックペイについては、「解雇から判決時」または「解雇から金銭支払
時」まで認めるとなると、裁判が長引くほど解決金額が増大することが
懸念されるが、迅速に解決する制度とすることが労使双方にとってメリ
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ットがあるため、バックペイの発生期間については、「解雇から金銭請求
時」までとすることが適当
等の意見があった。
b 労働契約の終了
(a)労働契約解消金の支払により労働契約が終了する根拠は、合意等による労
働契約の終了とは異なり、実定法に新たな契約の終了事由が規定されること
によるものと考えられる。
(b)例3の仕組みによる金銭救済制度において解雇権濫用法理と同様の要件や、
当該解雇が法律で禁止されていること等解雇等が無効となる要件を課すの
であれば、労働契約解消金請求訴訟においてもそれらの要件該当性が問題と
なり、要件該当性が認められた場合には、客観的には解雇が無効である場合
と同様の状況にあることが確認されるため、解雇後も労働契約が存続してい
ると解される。
(c)このため、例3の仕組みによる金銭救済制度において、労働契約が終了す
る時点をどのように考えるかについては、
・ 労働審判や和解においては、解雇時点に遡って契約が終了するとするの
が一般的との意見もあったが、
・ これに対しては、
➢ 労働契約の終了時点が解雇時点まで遡るとすれば、それは限りなく事
前型に近くなる
➢ 労働者保護の観点からは、金銭が支払われた時点で労働契約が終了す
るとすることが穏当
等の意見があった。
(d)こうした意見を踏まえ、労働者保護を図るとともに、原職復帰に代えて使
用者からの金銭の支払を求めるという金銭救済制度の趣旨に鑑みれば、使用
者から労働者に対して労働契約解消金が支払われた場合に、労働契約が終了
することとすることが考えられる。
※ 分割払い等により労働契約解消金の一部しか支払われなかった場合には、契約は終
了していないと考えられる。
(エ)労働契約解消金請求訴訟と他の訴訟との関係
a 労働契約解消金請求訴訟と他の解雇に関係する訴訟(地位確認訴訟や解雇を
不法行為とする損害賠償請求訴訟等)との関係については、労働契約解消金の
性質にもよるが、訴訟物が異なると整理できる場合には、二重起訴には該当し
ない(却下されることなく、内容審理が行われる)と解されることとなり、併
合して訴訟を提起することも可能になり得ると考えられる。
b なお、この点については、
・ 労働契約解消金請求権と地位確認請求権の訴訟物が異なると整理した上で、
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訴訟が錯綜する制度になってしまうという点をどのように考えたらいいの
か
・ 地位確認訴訟の途中で労働契約解消金請求権を行使することや、労働契約
解消金請求権で裁判を提起したけれども、途中から地位確認訴訟を追加的に
訴えることができるのかといった問題について、どのように考えるか
・ 金銭支払の判決が出た後に使用者側が金銭を支払わないと、労働者は地位
確認請求に乗り換えることも想定されるが、撤回が問題になるということは、
一度労働契約解消金請求を行った場合、改めて地位確認請求はできないので
はないか
といった懸念点が示された。
(オ)金銭的予見可能性を高める方策
a 金銭的予見可能性を高める方策の在り方
(a)労働契約解消金の予見可能性については、
・ 解雇の事案は多様であり、現在の実務では個別事案に応じて金額が決め
られていることから一概にルール化することは難しい
・ 労働者側には必ずしも金銭的予見可能性を高めてほしいというニーズは
ない。そうしたニーズは、いくら支払えば解雇できるのか、ということを
知りたい使用者側にあるのではないか
・ 金銭救済制度は判決によって解決金の金額が決まるものであるが、金銭
の考慮要素は多様であるから、上下限をはめることは不可能であり、労使
合意によって決めざるを得ないのではないか
等の意見があったが、これに対しては、
・ 紛争当事者である労働者や使用者にわかりやすい形で金銭的予見可能性
を高めるためにも何らかの枠が必要
・ 労働審判制度が事実上の金銭解決制度として有効に機能し始めているこ
とは事実だが、金銭解決の水準に大きなばらつきがあること、どの程度の
金銭解決になるかということが知られていないという意味で、当事者にと
っては予見可能性が低いという問題点があり、その意味で、金銭水準につ
いて何らかの基準を作るべき。透明、公正で迅速な解決が可能な仕組みと
なるためには、ある程度予測可能なルールの形成が必要
等の意見があった。このほか、問題は、金銭的予見可能性を高めるために、
何を犠牲にしなければならなくなるかということであり、この点の如何によ
り、導入が可能な規律の限界が定まることになるとの意見もあった。
(b)また、金銭的予見可能性を高める手法については、
・ 透明で公正な運営をしていくためにも上限、下限、ガイドラインなどの
設定が必要であり、ガイドラインには、勤続年数、年功賃金の程度、退職
金制度の状況なども考慮に入れる必要がある
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・ 非常に低い金額で泣き寝入りしているような労働者を救うためには下限
額が必要
・ 現状、労働審判においても解決金額には幅があり、労働部がある裁判所
ばかりではないことからすれば、上下限がなければ裁判所も判断ができな
いと考えられるので、混乱を回避するためにも考慮要素に加えて上下限を
設定することが必要
・ 労働審判の解決金額に幅があるのは事案が多様であることに鑑みれば当
然であり、裁判所の判断が難しいからこそ、労使の審判員がいる
・ 労働契約解消金の金額の予見可能性という点では、類型的な考慮要素を
定めておくことは、権利の性質を明らかにするという意味でも必要だが、
金額に上限及び下限を定める方策については、場合によっては、本来考慮
すべき要素を切り捨てることにつながり得るものであり、「紛争の迅速な
解決を図る」ことに資することは事実としても、それだけでそうした規律
を正当化できるかについては、慎重な検討が必要
・ 下限については、労働者保護の最低限度を示すという説明が可能と思わ
れるが、上限については、本来認められるべき超過額部分を切り捨てる機
能を持ち得るのだとすれば、かかる権利の縮減を正当化するに足りる十分
に合理的な説明が要求される。上限については、原則は一定の上限が課せ
られるものとした上で、例えば、「前項に定める金額を超えないものとす
ることが、当事者間の衡平を著しく害することとなる特別の事情があると
きは、この限りでない」といった例外規定を設けることも1つの選択肢
・ 限度額を定めるとしても、上限を設けることは、金銭救済制度の利用を
抑制するため不適切
・ また、上限を定めると、使用者側としては解雇してもその程度の金銭を
支払えばよいのかというモチベーションが生じ、不当な解雇を誘発する可
能性もある
・ 解雇不当であることを認められた後に退職を希望した場合に、金銭で解
決するということであれば、希望退職制度において支払われる、会社都合
退職金+αというのが妥当であるため、希望退職制度類似の基準を設けれ
ば足りるものであり、それに上限、下限をつけるというのは少しおかしい
・ 金銭水準の算定根拠を明確にすることは賛同するが、解雇に至った背景、
労使の責任の度合い、企業の支払能力など個々の事情もあり、企業横断的
に一律に定めるのは難しいのではないか
との意見があった。
(c)紛争の迅速な解決を図るとともに、裁判等における金銭の算定について予
見可能性を高めることが重要であり、そのため、解消対応部分(+その他慰
謝料的な「損害賠償的部分」)については、上記の金銭の性質を踏まえ、一
定の考慮要素を含め、具体的な金銭水準の基準(上限、下限等)を設定する
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ことが適当であると考えられる。この点については、今後の議論において、
事案は多様であり上限、下限等を含め金銭水準の基準を設定すべきではない
との意見や、上限設定は不当な解雇を誘発しかねないとの意見、本来考慮す
べき要素を切り捨てることにつながり得るとの意見があったことを斟酌す
ることが適当である。
(d)この場合、解消対応部分(+その他慰謝料的な「損害賠償的部分」)の考
慮要素としては、労働契約解消金の性質を踏まえ、年齢、勤続年数、解雇の
不当性の程度、精神的損害、再就職に要する期間等が考えられるが、その具
体的な内容やどこまで考慮要素を明示化するか等については、引き続き、議
論を深めることが考えられる。
(e)また、具体的な限度額については、
・ 現行の都道府県労働局におけるあっせん、労働審判及び民事訴訟におけ
る和解の解雇事案の金銭水準や、早期退職優遇制度及び希望退職制度にお
ける割増額の水準等を考慮して設定すべき
・ 下限の水準については、現行の労働紛争解決システムにおいて、解雇有
効の可能性が高い場合であっても、1~3か月という数字が出ていたので、
今後議論する際の目安になるのではないか
・ 今回の金銭救済制度は、解雇無効の場合のことを考えているので、その
金銭水準等を考える場合は、解雇有効と思われる場合での3か月は遥かに
超えるのではないか
・ 今回の金銭救済制度における労働契約解消金のうち解消対応部分は、解
雇無効という労働者に帰責性がない状況で労働契約を解消することの代
償であるから、早期退職優遇制度の割増額が参考となり、その平均値が
15.7 か月分であることから、例えば下限を6か月、上限を 24 か月とする
ような考え方があり得る
・ 労働契約解消金が高額になり過ぎると、中小企業で支払が難しくなり、
折角の制度が機能しなくなるおそれがあるため、中小企業の負担や雇用に
係るコストにも十分配慮したものとすべき
・ 金銭補償額は、賃金の半年分から1年半分の範囲内とし、裁判になった
場合は、裁判所が事案に応じて判断することとすべき
等の意見があったが、その具体的な内容については、引き続き、議論を深め
ることが考えられる。
(f)バックペイ分に限度額を設定するかについては、
・ 未払い賃金が支払われるのは当然であり、そこに上限を設けることは適
当でない
・ バックペイに限度額を入れると、長期化によるリスクが減少し、使用者
側が徹底的に争うため、審理が長期化するおそれが大きい
・ バックペイに限度額を設けない場合は、審理の長期化を招くことになり、
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金銭的予見可能性という点からも問題があり、弊害が大きい
等の意見があり、労働者保護の観点からも限度額を設定しないこととするこ
とも考えられるが、引き続き、議論を深めることが考えられる。
b 労使合意等の取扱い
(a)法律等で考慮要素等を定めた場合でも、別途、労使合意等によって労働契
約解消金の水準に関するルールが定められた場合の取扱いをどのように考
えるかについては、
・ 法定の金銭水準はデフォルトとして、労使が集団的に合意した場合に、
それが裁判所を拘束するという考え方もある
・ 一律の限度額(上限・下限)を設けるとしても、労使合意により一定の
金銭水準を定めることができる余地を残すことで、柔軟性を持たせること
ができるのではないか。なお、その場合であっても下限を下回る水準は設
定できないこととすべき
・ 労働組合がない場合に労働者の代表が適切に選任されるのでなければ、
そのような仕組みは難しい
・ 労使協定または労働協約で労使があらかじめ労働契約解消金の水準を決
めておくということは現実的ではないと考える
・ 労働契約解消金について労使合意により定めるイメージが沸かないのは、
現時点でそのような制度がないから当然であり、仮に制度があれば、その
ような労働契約解消金の水準に関する団体交渉が行われるのではないか
等の意見があった。
(b)法律等で考慮要素等を定めた場合でも、企業の実情等に応じた柔軟な対応
を可能とするためには、別途、労使合意等によって別段の定めを置くことが
できることとすることも考えられるが、その場合、労使合意等の範囲をどう
考えるか、法定の水準との関係をどう考えるかといった課題があるため、引
き続き、議論を深めることが考えられる。
(カ)時間的予見可能性を高める方策
a 時間的予見可能性を高めるとともに、権利関係を早期に安定化させ、紛争の
迅速な解決を可能とするため、労働契約解消金の支払を請求することができる
権利に関する消滅時効の在り方について検討することが適当であると考えら
れる。なお、この点については、労働者の権利を制限する出訴期間制限のみを
議論するのでは、諸外国において使用者に対する様々な解雇制限があるのに比
して、バランスを欠くのではないかという意見があった。
b その具体的な期間については、
・ 迅速性という制度趣旨に鑑みれば、賃金債権の消滅時効の期間(現行2年)
に合わせることが考えられる
・ 民法の改正も踏まえると、一般債権の原則である「権利者が権利を行使す
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ることができることを知った時から5年」より短くすることはあり得ない
・ 解雇の有効・無効の立証の観点からも、5年という期間設定は人的・物的
な立証上の問題から困難。解雇に関する重要な書類の保存期間も、現在は3
年とされている(労働基準法第 109 条)
等の意見があったが、消滅時効の期間の統一化等を内容とする民法改正の動向
を踏まえつつ、労働者の権利保護を図り、迅速な紛争の解決に資する観点から
どのような期間が適当か、引き続き、議論を深めることが考えられる。
(キ)他の労働紛争解決システムへの影響
a 金銭救済制度の制度設計の仕方によって、都道府県労働局のあっせんや労働
審判制度など、既存の労働紛争解決システムに影響を与える可能性については、
・ 金銭救済制度が創設され金銭の水準が定められた場合、都道府県労働局の
あっせんなど ADR における解決金額の水準も底上げされるのではないか
・ 裁判における金銭補償の水準が明確になることにより、行政のあっせんや
労働審判もより上手く機能するのではないか
・ 仮に金銭救済制度が労働審判より著しく有利なものとして設計された場合、
これまで労働審判で解決されていた事案まで裁判に流れてしまう
・ バックペイは使用者が和解を決断するインセンティブとなっており、バッ
クペイに上限を入れると、現状の調停や和解に大きな影響を与え得る
・ 金銭解決制度という新たな選択肢を設けることになれば、結果として労働
審判制度が上手く機能している現状からすると、既存の紛争解決システムへ
の影響が大きいのではないか
・ 新たに金銭救済制度を導入することにより制度的に労働審判制度が使えな
くなるといった影響がある訳ではなく、もし影響があるとすれば、金銭水準
の有利不利による影響のみではないか
・ 審判や訴訟の進め方への影響については、解消金の考慮要素・算定基準が
どの程度のものかによる。従来の解雇紛争において問題とされていた要素と
それほど異ならないのであれば、紛争の解決に係る期間が従来と大きく変わ
るということはないのではないか
・ 個別労働関係紛争が発生したとき、何でも裁判に持ち込まれることになら
ないよう、金銭救済制度を設けるのであれば、都道府県労働局において迅速
かつ的確に解決される措置等も同時にとるべき
・ 金銭救済制度が創設された際に、裁判所が対応できないような件数の申立
がされて混乱が生じることは避ける必要がある。金銭水準等の設計について
は、その観点から考慮する必要がある
等の意見があった。
b また、金銭救済請求権の行使を裁判上に限った場合や、裁判外でもできるこ
ととした場合の影響については、
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・ 労働審判は裁判外・裁判上のどちらに入るのかという問題を考える必要が
あるが、非訟事件であるから、裁判外の解決と見るべきではないか
・ 裁判上の請求に限った場合には、双方の合意に基づき個々の事案に応じて
柔軟に解決できる労働審判と、裁判所が一定の枠の中で解決金額を決定する
金銭救済制度と棲み分けができ、当事者本人のニーズに応じて選択すること
ができる
・ 裁判上の請求に限った場合、労働審判への影響はないとは言えないが、現
在、労使ともに迅速な紛争解決を以前にも増して求めていることからも、簡
易・迅速な仕組みである労働審判から流れてくるとは限らず、心配するほど
の影響はないのではないか
・ 裁判上の請求に限った場合でも、裁判外で合意により金銭解決するという
こともあり得、その際、仮に訴訟に行った場合にどうなるかということを勘
案することとなることから、当然事実上の影響を受ける。その意味で、金銭
救済請求権の行使を裁判上に限るか裁判外でもできることとするかは、本質
的な違いはないのではないか
・ 裁判外での請求を認める場合には、法定の下限よりも低い額での金銭解決
を図ることが脱法行為に該当しないかについても論点として検討する必要
がある
等の意見があった。
c 仮に金銭救済制度を創設する場合であっても、既存の紛争解決システムが引
き続きその趣旨・目的に沿った形で有効に機能するよう制度設計を検討すると
ともに、仮に金銭救済制度を創設した場合の他の労働紛争解決システムへの影
響については、迅速な紛争の解決を図る観点からは、可能な限り、引き続き都
道府県労働局におけるあっせんや労働審判制度が有効に機能するよう、金銭救
済制度を前提とした都道府県労働局におけるあっせんのルール等を構築する
などの方策について、引き続き、議論を深めることが考えられる。
(ク)その他(就労請求権)
上記のほか、解雇無効時の金銭救済制度の検討に当たっては、「解雇は結局
は金銭問題」という規範にならないよう、解雇が無効で労働者が復職を望んで
いるときには使用者が拒んだ場合でも就労を継続させる仕組みとして、就労請
求権を考えるべきではないかという意見もあった。
[透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会の、最終報告案から抜粋引用おわり]
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