日本国憲法第73条には、内閣の職務として、「3、条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする」と書いてあります。条約の交渉に参加することは内閣が判断すべきで、議会は後から承認する。これはデモクラシーのルール。例えば、アメリカでは、ウッドロー・ウィルソン大統領が国際連盟を提唱しながら、モンロー元大統領の外交的孤立主義の伝統を残していた米議会が承認せず、国際連盟発足時に同国が参加できなかったのはよく知られているところです。わが国は、日清戦争、日露戦争のおかげで、4ヶ国だけの理事国入りを果たしました。が、リットン報告書に反発した松岡洋右が国際連盟を脱退し、先の大戦へ。そして「航空機燃料の割り当てゼロ」となり敗戦します。TPP交渉に参加するか、しないかは国論を二分する争点です。しかしいずれにしろ、松岡洋右のように国際的に孤立することだけはあってはなりません。
自民党の予定調和的な党内対立とは打って変わって、民主党内で政府外議員の意見集約に手間取り、政府の意思決定が遅れる事態が続いています。
「復興増税」こと「復興債の償還の道筋を明確化する作業」のプロジェクト・チーム(PT)では、民主党議員410人、うち政府外議員340人のうち、50人ほどが国会閉会中にもかかわらず上京し、反対論を唱え続けるシーンが続きましたが、最終的にとりまとめに成功しました。
ここでまとめ役を買って出たのが、岡田克也・民主党最高顧問。
PT座長や事務局長が目を付けていた小沢チルドレンを見つけると、後ろから肩を叩き、
「よお、よろしくな」。
この後の会議では、座長らとは離れ、ヒラ議員席に。しかも、当該小沢チルドレンの真後ろに座りました。
翌日の会議でも、同じく、当該小沢チルドレンを見つけると、後ろから肩を叩き、
「よお、よろしくな」。
この日もほぼ真後ろに席をとった岡田最高顧問。
反対論をチルドレンが続けると、岡田さんは立ち上がり、「私はこの問題で党内の意見の集約はできていると考えています。そろそろ採決すべき時期だと思います」と発言しました。しかし、この後もチルドレンは再度マイクを握り反対論。そうすると、岡田さんは再びマイクを握り、「私はこの問題で党内の意見の集約はできていると考えています。そろそろ採決すべき時期だと思います」とまったく一字一句変わらぬ意見を述べました。
この後、座長が採決をとると、復興債の償還財源の道筋の民主党案は可決され、政府に答申されました。
これについて、小沢チルドレンは「あの人、大人げないよ」と不満たらたらですが、私が小選挙区の対抗馬(自民党比例当選)について聞くと、黙ってしまいました。
その点、偉いのは玄葉光一郎外相。前回の第45回衆院選で、JAの政治団体である「農政連」の推薦を単独で受けたのは300選挙区中福島3区の玄葉さんが野党・民主党ではただ一人なんです。このほかに、小選挙区で自民党候補とともに推薦を受けたのは、「TPPプロジェクト・チーム」座長の鉢呂吉雄さん(北海道4区)、篠原孝さん(長野1区)、羽田孜さん(長野3区)らがいます。昨年の参院選では与党なので増えています。そのただ一人、農政連の推薦を受けた玄葉外相がTPP交渉参加を推進しているので、大したものです。やはり苦労はあるようで、7日付朝日新聞によると、10月21日に福島県内(全県?)の農業者らによるTPP反対集会で「現場(ゲンバ)を知らない玄葉(ゲンバ)が何をやっているんだ」とダジャレで批判されたそうです。昨日は県都・福島市でJA幹部に対して玄葉外相は「何もやらないと福島も日本もどんどん縮み志向になる」と言ったところ、JA幹部は「交渉に入ろうとしている人に何を言っても難しい」と話したそうです。ただ、福島県議選(20日投開票)に立候補する元秘書4人の応援演説では、最後とはいえ、「今のままでも農業は駄目になる。仮に交渉に入ったら、国益確保のために攻めるべきは攻めて守るべきは守る」と語ったそうですから、すごいと感じます。
蛇足ですが、日本に入るコメ(精米)に対する関税は778%だそうですが、小麦は252%なんですね。ただ、わが国の小麦のカロリーベースでの自給率はわずか7%。ですから、小麦は当然、農業者戸別所得補償で現在の国内での生産水準は維持すべきです。ただ、今現在、小麦がこれだけ高関税ということは、パンやうどんの値段は高すぎるんじゃないでしょうか。いろいろなことが見えてくるTPP交渉。人の内面も見えてくるかも知れませんが、とにかく、「松岡洋右」だけはいけません。
[画像]野党・自民党の野次を制した岡田克也外相、2010年2月1日の衆院本会議。
[画像]民主党政府外議員の野次を注意する岡田克也幹事長、2011年。
岡田さんは今週は衆・予算委筆頭理事の仕事があるのですが、あんまり反対論を唱えている議員は、岡田さんに後ろから肩を叩かれちゃうかもよ。間接デモクラシーですが、私たち国民も、難しいことはよく分からない人も、岡田さんと玄葉さんに任せておけば大丈夫です。日本を、あきらめない。岡田さんと玄葉さんに任せておけば大丈夫です。
なお、第3次補正予算案は、一般会計の歳入が11兆6832億円で、そのうち、11兆5500億円を新設する「復興債」でまかないます。この「復興債」は、きょう衆院本会議で審議入りする「東日本大震災の復興財源の確保に関する法案」(179閣法4号)が成立して初めて発行が可能になります。ただ、この復興債の償還期間が10年間なのか、それとも、15年間か、20年間か、3党(民主党・国民新党、公明党、自民党)で合意できていません。この3党幹事長協議がきょうある予定でしたが、輿石東・民主党参院議員会長(兼)党幹事長が長崎での参院議長の告別式に参加するため、あすに延期されたと報道されています。しかし、この法案が修正可決のめどが立たないと、第3次補正の財源の98%が確保できないことになります。兼務できないのなら、どちらかを辞任したらどうでしょうか。日本を、あきらめない。そのために残された時間はそんなにたくさんありませんから。
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