取り残される日本
世界の人口はすでに昨年末に64億人のレヴェルを突破、さらに増加を続けているが、大きな人口減少が避けがたい日本は急速に取り残されてゆくようで、このままでは国家として衰退の兆しが濃い。人口の大きさは「国力」そのものではないが、国力を構成するひとつの重要な構成要因であることは多くの人々が認めている。
こうした状況で、アメリカを初めとして多くの先進諸国は労働力不足の様相を強めている。仕事の機会があっても国内労働者が就こうとしない分野が増加し、移民(外国人)労働者を招きいれないと、経済活動が機能しなくなっている。農業、建設、製造業やサービス業の一部などで、深刻な人手不足が拡大している。他方、国家として競争力を維持、活性化する上で、創造力の高い技術を体得した専門的人材も争奪戦の状況が展開している。
「移民労働者」なしには存続しえない先進経済
はからずも、今週のThe Economist (London)と「エコノミスト」(毎日新聞社)が特集として移民問題を取り上げている。双方を読んでみての印象は、(小生の寄稿も含めての話だが)、率直に言ってやっとここまできたかという思いがする。多少議論が進んだと思えるのは、外国人労働者が珍しい存在ではなくなったこともあって、国境管理の次元ばかりでなく、「社会的次元」への注目が進んだことだろう。それでも、全体の流れは依然として、1980年代頃の議論の繰り返しが多い。それだけ、この問題は答案が書きにくいということかもしれない。それにもかかわらず、認識しなければならないことは、日本やEU諸国などが、もはや移民労働者に依存しないかぎりどうにもならない所まで来ているという事実である。
日本経済を支えている重要産業である自動車や電機産業も、親企業の工場に外国人労働者が見えないとしても、下請け・関連企業まで含めてみると、外国人労働者がいなくなったら、企業活動が停止してしまうだろう。そればかりではない。看護、介護などの領域でも、人手不足が深刻な事態を生んでいる。この分野だけはロボットで代替するわけには行かない。高齢化の進行に伴い、人手不足は加速するばかりだ。
アメリカ南部の農業のように、メキシコ人労働者などに依存する以外にはどうにもならない分野も多い。彼らのほとんどは国境を入国に必要な書類を保持することなく、越境してくる不法就労者である。外国人労働者をなんとか合法的に受け入れ、しかも受け入れ側に負担がこれ以上加わらない方策がないか、模索が続いている。
新味のない「循環」政策
最近、注目を集めているのが「循環」circulation と呼ばれる政策である。EUの「公正と家庭問題」委員会のフランコ・フラティニ委員長などが提唱している。受入国側が必要とする労働者を、送り出し国側である開発途上国から一定の訓練などを条件に受け入れる。そして、受け入れ国側に定住することを認めず、一定期間後に母国へ戻ってもらうというシステムである。いわば、1950年代からドイツ、フランスなどが南欧、旧ユーゴスラビア、トルコなどから「ガスト・アルバイター」と呼ばれる労働者受け入れ、還流させようとした政策の新ヴァージョンともいえる。当時は「回転ドア政策」とも呼ばれた。
「循環」政策の導入で、現在アフリカ諸国とポルトガル、スペイン、イタリアなどの地中海諸国にとって大きな問題となっている小船などでの密入国を企てる者の航海途上の危険、監視体制、麻薬や犯罪問題へ有効に対応できると考えられている。さらに、母国への送金などで送り出し国発展への寄与も想定されている。こうした「還流」政策自体は、とりわけ新味があるわけではない。万策尽きた先進国側が窮余の一策として再提示した方策といえなくもない。
基軸は送り出し国の「内在的発展」支援
他方、こうした「循環」政策を導入したとしても、受入国で働く間にさまざまな理由で定着、定住化する可能性も否定できない。こうした動きは従来、合法、非合法いずれの労働者についても見られたものであり、受入国側は「統合」、「同化」、「共生」などの名の下に、自国民に組み込んで行くことを想定、努力してきた。しかし、1973年末の第一次石油危機以降、、導入された「統合」政策も問題山積であり、十分機能していないことが明らかになった。将来を見通した場合、「循環」、「統合」、いずれの政策もそれだけでは十分なものではない。基本的には、送り出し国内に仕事の機会を拡大する内在的発展の道を関係国の協力で確保することである。この方向を基軸に、「循環」と「統合」を、いかに組み合わせ、新たな時代に対応しうる移民政策を構想、導入してゆくかが問われている。 受け入れ側だけの必要性から作られた移民政策は、いずれ破綻する。
References
「労働開国」『エコノミスト』2008年1月15日
”Open up" The Economist January 5th 2008.