来週1月20日に迫ったドナルド・トランプの大統領就任式。その直前、1月19日ガザの非人間的な殺戮に6週間の停戦合意が成立した。しかし暫定的な合意で、これからどう展開するか、神のみぞ知る世界だ。
ウクライナ戦争の今後もほとんど何も見えていない。そればかりか、気候温暖化、震災、津波、火災などの天災、政治面では覇権争い、国家の盛衰・・・難問が山積する。
常識を破る発想
漠とした不安が世界を覆う中、強引な手法で2度目の大統領の座を奪いとったドナルド・トランプ大統領の言動に世界の視点が集まる。「アメリカ・ファースト」を旗印としているトランプ大統領の目指す方向は、アメリカの覇権の確立だ。しかし、そのために繰り出される政策がいかなる形を取るかは未知数の部分が多い。トランプ新大統領の政策手法は、意表を突くようなスローガンを突如掲げ、相手側の反応を見て次の手を打つ。政策の衝撃が大きく、何が出てくるか分からないというところにひとつの特徴がある。
すでに兆候が現れている。例を挙げてみると、これまで比較的静穏な関係にあったカナダに対して、メキシコとほぼ同等の対応を図る、グリーンランド、パナマ運河をアメリカの手中にするという大方の予想を上回る政策案が政権成立に先立って提示されている。
ドナルド・トランプ大統領は、2017年1月20日 - 2021年1月20日の間、第45代アメリカ合衆国大統領を務め、その後現在のジョー・バイデン大統領の時代を間に挟み、今回は第47代大統領として再びホワイトハウスに入る。これが最後であるから、思い切った手を打ってくるだろう。
現にトランプ氏は大統領就任後ただちに、大量の大統領令や政策文書を発行し、規制撤回を行うべく準備を進めているという。就任式直後に世界を驚かす政策の開示が始まるかもしれない。
両大統領政権下の国境政策
すでに本ブログでも記してきたが、新大統領が就任後直ちに実施に移すと思われる領域が移民・難民などに関わる国境政策である。そこで、ジョーバイデンとドナルド・トランプ両大統領の国境政策の比較を簡単に整理しておきたい。
時系列的に回顧すると、まもなく退任するジョー・バイデン大統領は4年前の就任直後、前任者ドナルド・トランプ大統領の一連の施策に対抗し、大統領令の形で、アメリカ・メキシコ国境の管理に関わる対応を行ってきた。しかし、ハリス前副大統領が大統領選でトランプ候補側からの激しい批判にさらされたように、事態への対応が遅く、失点を重ねた。今回、その主たる部分をNOTEとして、記しておく(本記事最下段参照)。
今回のトランプ大統領が国境政策に関して、一連の施策を実行するに際して立案、実施の役を司るのは、トランプ氏側近の強硬派スティーブン・ミラー大統領上級顧問と国境皇帝 border emperorと言われるトム・ホーマン氏とされる。トランプ政権の国境政策の大きな特徴は大規模な「不法移民・難民」(と見做される)人たちの国外強制送還の実施といわれている。以前の任期中の実績が予想を下回ったこともあり、後が無い今回は思い切った政策が実施される可能性が高い。
強制送還の対象となるのは主として1100万人近いうち、無許可でアメリカ国内に滞在する移民で、彼らは建設現場、農場、レストランなどアメリカ国民が就労しなくなった分野で働いているとされる(Pew Research Center & Others)。
アメリカ国内から上記のような多数の移民を強制送還すれば、アメリカ人の雇用機会が生まれると主張するトランプ氏だが、専門家によればその結果、雇用、消費者物価、財政負担などに与える打撃は厳しく、主張通りの送還の実現はほとんど不可能といわれている。
全世界が固唾を呑んで見守るトランプ政権の滑り出しが如何なるものとなるか。アメリカ国民ならずとも大きな関心を抱かずにはいられない。
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NOTE
第一次トランプ政権下;
2019年1月、トランプ政権は「移民保護プロトコール(MPP)」といわれる政策で、亡命希望者はアメリカでの審査結果をメキシコで待機して知らされることになった。約7万人がメキシコに送還されたが、待ち時間も長く、滞在中に犯罪の被害者などになることも多かった。バイデン大統領はこの措置を「非人道的な政策」と評していた。この政策はバイデン政権に移行後、2022年6月に最高裁判所の判決により終了した。
併せて、2020年3月コロナ・ウイルスのパンデミックの中、トランプ政権は表面上、公衆衛生対策を目的とした「タイトル42」を発動。国境で亡命希望者を含む移民・難民の迅速な追放を図った。トランプ大統領在任中、約40万人が追放された。しかし、この政策はアメリカが法的手続きなく亡命希望者を追放できるとして、「違法であり、人権を無視するもの」として反対派から強く批判されてきた。トランプ政権下では、アメリカ政府は「ゼロ・トレランス」政策を採用し、当局が国境を不法に越えた成人を国外追放することを認めていた。時には親と子供を引き離し、親を母国に送還、子供は政府の勾留の下に置かれたこともあった。バイデン政権下では、この慣行を覆し、一部の家族は再会を認められた。
さらに、ラテン・アメリカに移民センターが設置された。
バイデン政権下:
2021年1月、政権がトランプ大統領からバイデン大統領へ移行。バイデン大統領はトランプ政権の移民政策の「道徳的、倫理的」恥辱と称するものに終止符を打つと誓った。
しかし、パンデミック感染予防を理由に「タイトル42」は維持された。(2021年1月から2023年5月まで「タイトル42」の下でおよそ200万人以上が国外追放されたと推定される。)
移民当局は合法的な入国許可と不法入国者に厳しい罰則を課す「飴と鞭」政策を導入。
2024年6月大統領令により、米国当局は亡命申請を処理せず不法入国した移民を迅速に国外追放(「移民」との遭遇が1日当たり2500件を越えた時施行)することを決定。この中には、施策として移民のアメリカ入国申請支援のためラテンアメリカに地域処理センターを開設することなどを含んでいた。
2021年12月には、バイデン政権は移民関税執行局(ICE)による勾留施設での家族の交流を停止する措置をとった。
バイデン政権の大統領令は、外国人の入国が「国の利益に有害」である場合、大統領が外国人の「入国を停止」できる212(f)条と呼ばれる法律に基づいて発布されてきた。
このように、バイデン政権下の国境政策は「飴と鞭」が混在する不透明な部分があり、現実に迅速に対応できず、ハリス副大統領などが政策遅延などの批判の対象となった。
バイデン政権は、1950年代から続く仮釈放制度に最も頼ってきた大統領の一人といわれている。そこには母国での迫害や拷問などを受けている人々への人道的配慮が含まれてきた。他方、トランプ大統領はこうした不透明な部分を残す措置に強く反対してきた。
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