このたびの新型コロナウイルスCovit-19の蔓延による経済への大打撃は、1930年代の「大恐慌」the Great Depression 以来といわれることがある。確かに、このウイルスの蔓延拡大とともに、経済面への影響は急速に深刻化の度合いを強め、グローバル危機の様相を明らかにしてきた。
しかし、多くの人々が口にする「大恐慌」が、実際にいかなるものであったか、その現実を体験、あるいは記憶する人々は、きわめて少なくなった。このところ本ブログで数回にわたり記しているのは、「グローバル危機」といわれる世界史的危機が、いつ頃から発生したかという歴史的認識の確認である。その後、この範疇に入ると思われる世界的規模での経済不況の輪郭あるいは断片について記してきた。
「大不況」をいかにイメージするか
1930年代の大不況については、夥しい文献が蓄積されているが、それだけにその全容を、今日改めて視野に収めることはきわめて難しい。この大不況の終幕については、第二次世界大戦へのアメリカの参戦などにより、民需主体の経済政策の効果を確定することが困難に終わっている。アメリカを中心に行われた大規模な公共事業投資などの経済政策が知られているが、必ずしも共通な認識が得られているとは思えない。
こうした状況で、当時の経済、社会状況を体験しうるひとつの手段が映像、写真、絵画など、視聴覚に訴えるメディアといえる。前回、『LIFE』誌を援用し、その一端を記してみたが、今回も別の例を取り上げてみた。
巨大な造形美
この巨大な建造物の写真、アメリカ 、モンタナ州のフォート・ペック・ダム(Fort Peck Dam) である。このダムは、アメリカ・ ニューディール政策の1つの事業として、 ミズーリ川に建設された。雑誌 『LIFE』創刊号(1936年11月23日号)の表紙を飾った作品である。
この写真を撮った写真家は、マーガレット・バーク=ホワイト (1904 – 1971)
という女性であった。 ニューヨークで生まれ、大学卒業後、活気に溢れる産業都市クリーヴランドで工業製品の撮影を開始した。そしてごくありふれた工場の光景を力強く流麗な産業写真として表現し、大きな注目を集めた。『フォーチュン』誌などで評価を高め、1936年『ライフ』創刊号の表紙を飾り、以後同誌の中心写真家として活躍した。撮影対象も戦争や社会問題に積極的に取り組み、世界的なフォトジャーナリストとして、著名になった。日本でも作品集や作品展が開催されたこともある。
彼女がこの写真を撮影するためにダムを訪れた時、およそ1万人の労働者が建設現場で働いていたが、アメリカ経済は依然として不安定で先行きがおぼつかない状態だった。この写真はそこに働く労働者の力とそれが作り出す巨大な建造物によって、アメリカの当時の姿を象徴しようとしたものだった。
アメリカ経済の本格的な回復はその後の第二次世界大戦参戦による莫大な軍需景気を待つこととなる。太平洋戦争が起こり、連邦政府は見境のない財政支出を開始し、また国民も戦費国債の購入で積極財政を強力に支援した。1943年には赤字が30%を超えたが、失業率は41年の9.1%から44年には1.2%に下がった。しかしダウ平均株価は1954年11月まで1929年の水準に戻らなかった。
マンガ:『必要なのは新しいポンプ』
1935年近くの作品
ニューディールで政府は経済に呼び水を迎えるポンプを作るが、水は至る所に撒かれるばかりで、期待する効果がないと風刺。
Source: Alan Greenspan & Adrian Wooldridge, Capitalism in America: A History, New York: Penguin Press, 2018