『謎の独立国家ソマリランド』
高野秀行、2013、『謎の独立国家ソマリランド』、本の雑誌社
10年前、オーストラリアのブリスベンで不思議な経験をした。
2005年8月30日、ダーウィンからの便で到着して、タクシーで市内に向かった。タクシーの運転手はアフリカ系だったが彫りが深く、肌の色も明るい。それで、どこから来たか聞いたところ、ソマリアだという。初めて見た印象だったが、ソマリの顔はこんなかんじかと印象を持った。その時の記録がこれだ。
次の日の夕方、友人がブリスベンに到着するというので、市内でタクシーを拾って空港に行った。すると偶然だが、拾ったタクシーのドライバーが彫りの深いアフリカ系だった。「どこから来たか当ててみようか」といって、半分冗談のつもりで「ソマリアだろう?」と言ったら、「何で分かるのか」といわれて、経緯を説明した。ブリスベンでソマリア人がいるのかとか、ひょっとして難民かなどと聞いた。その頃、映画は見ていなかったが「Black Hawk Down」という映画のことは知っていて、ソマリアで起きていることについて、簡単な事を知っていた。だから、「難民か?」と聞いたのだ。だが、この運転手は、難民ではないという。彼は、ブリスベンのソマリア人のコミュニティは300人ぐらいで、大きなコミュニティはメルボルンにあるといった。
これだけだったら、ありがちな話で終わったかもしれないが、念を押したのが、その晩のことだった。この夜、空港に迎えた日本人の友人とブリスベンの友人と夕食を食べ、夜遅くまで飲み歩いた。夜中すぎの時間、宿に帰ろうと流しのタクシーを拾った。ところが、そのドライバーがまたまた、ソマリア人だった。あなたは三人目のソマリア人タクシードライバーだと言ったら、さすがにかれも驚いていた。コミュニティの全員を知っているわけではないし、その中のタクシードライバーの友人もいないと。ドライバーの名前を覚えていないかと言われたが、さすがに、偶然のことなので覚えてはいなかった。実は、この時、ブリスベンでタクシーに5回乗ったのだが、そのうち3台のドライバーがソマリア人というのは、とんでもないという印象だった。
さて、本書は、第3回梅棹忠夫「大和探検文学賞」というので購入して読んだ。くわえて、ブリスベンのタクシードライバーの一件でソマリア人の顔を知ったのだが、本書では、誠に興味深い事実も知ることとなった。ソマリアという国は無政府状態であるというのは仄聞していたが、ソマリランドという自称国家、プントランドという自称国家、首都のモガティシオの無政府状態と大きくは三分され、ソマリランドはソマリ民主国家とでも言うべき平静を保っていることを本書で知った。本書の述べるところによると、ソマリアは氏族社会であって、その氏族連合が民主的な連合をとっているのがソマリランド、また、氏族が海賊となって沿海を航行する船舶に海賊行為を仕掛けるのがプントランド、さらには、日本の戦国さながらに合従連衡しながら氏族が争うのが首都周辺の南部ソマリアという。本書では説明のためにと言って日本の中世の氏族の名前(たとえば、源氏とか平氏とか)にあてはめて記述するのだが、わかりやすいようで分かったようでわからなくなってしまう。それでも、ソマリ人の氏族社会の様子は大変面白い。
かといって、同時代の人々であるので、メールを使い、ネットを使った換金システムがあり、また、海外に脱出した同族からの仕送りがソマリ経済をささえているという。とんでもなく面白がって本書を読むことができた。ましてや、私個人はオーストラリアでソマリア人を見かけているので(しかも、短期間のうちに三度も!)、とても印象深かった。
10年前、オーストラリアのブリスベンで不思議な経験をした。
2005年8月30日、ダーウィンからの便で到着して、タクシーで市内に向かった。タクシーの運転手はアフリカ系だったが彫りが深く、肌の色も明るい。それで、どこから来たか聞いたところ、ソマリアだという。初めて見た印象だったが、ソマリの顔はこんなかんじかと印象を持った。その時の記録がこれだ。
次の日の夕方、友人がブリスベンに到着するというので、市内でタクシーを拾って空港に行った。すると偶然だが、拾ったタクシーのドライバーが彫りの深いアフリカ系だった。「どこから来たか当ててみようか」といって、半分冗談のつもりで「ソマリアだろう?」と言ったら、「何で分かるのか」といわれて、経緯を説明した。ブリスベンでソマリア人がいるのかとか、ひょっとして難民かなどと聞いた。その頃、映画は見ていなかったが「Black Hawk Down」という映画のことは知っていて、ソマリアで起きていることについて、簡単な事を知っていた。だから、「難民か?」と聞いたのだ。だが、この運転手は、難民ではないという。彼は、ブリスベンのソマリア人のコミュニティは300人ぐらいで、大きなコミュニティはメルボルンにあるといった。
これだけだったら、ありがちな話で終わったかもしれないが、念を押したのが、その晩のことだった。この夜、空港に迎えた日本人の友人とブリスベンの友人と夕食を食べ、夜遅くまで飲み歩いた。夜中すぎの時間、宿に帰ろうと流しのタクシーを拾った。ところが、そのドライバーがまたまた、ソマリア人だった。あなたは三人目のソマリア人タクシードライバーだと言ったら、さすがにかれも驚いていた。コミュニティの全員を知っているわけではないし、その中のタクシードライバーの友人もいないと。ドライバーの名前を覚えていないかと言われたが、さすがに、偶然のことなので覚えてはいなかった。実は、この時、ブリスベンでタクシーに5回乗ったのだが、そのうち3台のドライバーがソマリア人というのは、とんでもないという印象だった。
さて、本書は、第3回梅棹忠夫「大和探検文学賞」というので購入して読んだ。くわえて、ブリスベンのタクシードライバーの一件でソマリア人の顔を知ったのだが、本書では、誠に興味深い事実も知ることとなった。ソマリアという国は無政府状態であるというのは仄聞していたが、ソマリランドという自称国家、プントランドという自称国家、首都のモガティシオの無政府状態と大きくは三分され、ソマリランドはソマリ民主国家とでも言うべき平静を保っていることを本書で知った。本書の述べるところによると、ソマリアは氏族社会であって、その氏族連合が民主的な連合をとっているのがソマリランド、また、氏族が海賊となって沿海を航行する船舶に海賊行為を仕掛けるのがプントランド、さらには、日本の戦国さながらに合従連衡しながら氏族が争うのが首都周辺の南部ソマリアという。本書では説明のためにと言って日本の中世の氏族の名前(たとえば、源氏とか平氏とか)にあてはめて記述するのだが、わかりやすいようで分かったようでわからなくなってしまう。それでも、ソマリ人の氏族社会の様子は大変面白い。
かといって、同時代の人々であるので、メールを使い、ネットを使った換金システムがあり、また、海外に脱出した同族からの仕送りがソマリ経済をささえているという。とんでもなく面白がって本書を読むことができた。ましてや、私個人はオーストラリアでソマリア人を見かけているので(しかも、短期間のうちに三度も!)、とても印象深かった。
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