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「IKIGAI」を読む生きがい・参

2018年08月12日 | 読書
 この著では冒頭に、読者への覚え書きとして「<生きがい>の五本柱」を挙げている。「小さく始めること」「自分からの解放」「調和と持続可能性」「小さな喜び」そして「<今ここ>にいること」。それらに順番や序列はない。絶対的でもないと記している。自分の好奇心が引っかかる箇所から「小さく始め」ればよい。


2018読了78
 『IKIGAI 日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣』
 (茂木健一郎  恩蔵絢子/訳  新潮社)



 「生きがい」につながる日本人の文化的特性の一つとして、「オノマトペ」を挙げていることが実に興味深かった。日本語はオノマトペが豊富で、特に「とんとん」「ぶらぶら」といったように同じ二音の繰り返しが目立つ。こうした表現は、いかに日本語が得意な外国人であっても完全に習得することは難しいと言う。


 「日本人は、経験の様々なニュアンスの違いを、さまざまな種類の感覚の質に注意して区別しているようだ」として「細かな感覚的ニュアンス」の重要性を指摘している。それは、伝統的な職人の存在や先端機器製造に長けていることと結びつくだろう。そうした精神文化への尊重、共感は私たちの内部に確実にある。


 オノマトペの特異な遣い手として宮沢賢治を思い浮かべる人は多いはずだ。偉大なる人物に何を今さら「生きがい」論とも思うが、彼のあの奔放にも思える表現が「世界を感知する方法」であったことは間違いない。それは細部への注意をどこまでも追求した表現であり、時代が変わっても揺らがない魅力の源なのだ。


 賢治の生き方に近づくなど到底叶わないが、細部に向ける注意を維持する努力を見習い学ぶことはできるし、それは「生きがい」に結びつく。「控えめで抑制された自己表現」を持つことは、競争と勝利至上のグローバルな文脈の中で、「持続可能な生き方を見つける」ことに有効だと筆者は言う。一段高い「」である。