和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

堂々とほめる。

2011-02-06 | 短文紹介
朝日の古新聞が来ました(笑)。
さっそく整理。といっても天声人語を読むこともなく、
地方版を気にしながら、読書欄を切りとるくらいです。
他紙と比べ、紙面に広告がのさばる構図が顕著で、
ついつい広告に視線が奪われます。
いつもながら落着かないなあ。などと思いながら、
ありました。ありました。
1月30日(日曜日)に
筒井康隆×丸谷才一×大江健三郎の鼎談。
その写真がいい。丸谷さんを真中に。筒井さんが嬉しそうです。
まるで映画監督と並ぶ淀川長治さんみたいにニコニコ。

ちなみに、三人の写真の下に
  丸谷才一  1925年山形県生まれ
  筒井康隆  1934年大阪市生まれ
  大江健三郎 1935年愛媛県生まれ

とあります。
うん。そういえば、読書欄での筒井康隆氏の連載をページごと切り抜いて読まずに段ボール箱へ入れといた。あらためて、連載順に並べると、結構な連載が中途で途切れております。彫刻でいえば、手と足のないトルソーみたいに連載が切れております。なんとも適当。これが私の切抜きの正体、いつもこんな感じです(笑)。
それでも、何でとってあったかといえば、毎回筒井氏の写真が連載中に掲載されるのが、めずらしくおもしろく思ったものですから、捨てるには忍びなかったわけです。
たまに、奥さんとお子さんと三人での家族旅行のスナップ写真が載っていたりで、連載中に、ちらりとそれを見るだけでも楽しめました。単行本『漂流 本から本へ』のほうは、あのアルバムのような写真は消えちゃうんだろうなあ。と買いもしないで残念がったりしております。

さてっと、鼎談の最後に丸谷才一さんが語っておりました。

「本というのは、おのずから他の本を読ませる力があるものなんです。ある本が孤立してあるのではなく、本の世界の中にあるのだから、感動すればごく自然に、他の本に手が出る仕組みになっているんだ。」

こうもありました。

丸谷】 我々が子どもの頃、読むに値する本は本当に少なかった。最近の出版文化論は『本が売れない』という話ばかりで愚の骨頂。昔、吉行淳之介は文学がわかる人がそんなにいるわけないから売れないと悲しむ必要ないとよく言ってた。本なんて、そんなに売れるもんじゃないんだ(笑)
筒井】 その通り。戦後すぐは、子どもが読めそうな本を古いものでも手当り次第に探したりしたんです。
丸谷】 いまはいいよ。翻訳読んでも意味がわかるんだもの(笑)。昔は訳が悪かったからねえ。


さてっと、なぜこの三人がそろったのかは、
筒井さんの『漂流』の連載を読むとわかってきます。
たとえば、

「なにしろ十年に一度しか長篇を書かないと言われている丸谷才一の作品だから常に待ちかねていて、そのほとんどすべてを読んでいたのだが、この『女ざかり』には感心した。当時の書評(注:これは筒井さんが書いた書評のことだと思います)には『ディケンズ的な長篇の技法が駆使されていて、その巧みさたるや退廃的ですらある』と書いている。この評は丸谷氏のお気に召したようで『退廃的とまで褒めてくれたのはありがたい』という礼状が来たりもした。実際この作品の面白さたるやただごとではなく、ベストセラーになり、映画化されたのも当然と言える。作者の最高傑作のひとつであろう。・・・」

ちなみに、これは2010年7月18日に連載された箇所で、その時の写真は全集完結のパーティーで、後ろに奥さんの着物姿が写っておりました。それが連載第65回で、その時の文の最後は

「今この小説があまり読まれていないらしいことが不思議だったのでamazonで検索してみたところ、なんと品切れ。さっそく丸谷氏にそのことを伝えると、しばらくしてから 『増刷になりました。友情に感謝』というはがきが来た。その昔『ベトナム観光公社』を書評で絶讃され世に出してもらった恩返しになったのかなと思い、そのはがきは大事にしている。」

ついでに、2010年5月30日の連載第58回は、写真がパーティーでの大江さんとのツーショット。そのはじまりは

「共通の友人だった塙嘉彦が亡くなる少し以前から大江健三郎との交際が始まっていたように記憶している。『同時代ゲーム』が出た時には率先して褒め称え、『失敗作である』という悪評が出た時にも『失敗作であることさえ度外視すれば傑作』と書いて、このフレーズは大江さんのお気に召したようだ。なんとしてもこの作品を不評から守りたくて・・・・・」


ここらで、また鼎談へともどります。
そこで、丸谷さんは

「『失敗作であることさえ度外視すれば傑作』というあの批評、面白いね。文学作品の魅力という一筋縄ではとらえられないものを、上手に言っている。」

大江さんは、鼎談の初めのほうで、丸谷さんと筒井さんについて語っております。

「二人とも堂々とほめるんです。ほめ言葉が大げさなくらい丸谷さんはほめる尺度が歴史的、世界的で・・・・・筒井さんはハチャメチャ的なほめ方。新聞にふつう載らない桁外れの言葉を押し出す。でも二人とも声がよく通り、客席の隅ずみに達する。違う個性で並び立つ、説得的な批評家。」


おたのしみは、これくらいで(笑)。

コメント
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