和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

朝日の登録商標「加藤周一」

2013-03-07 | 短文紹介
産経新聞の正論欄に、
ときどき平川祐(ネは示)弘氏の文章が載ることがあり、
そのたび、いつか一冊の本となるようにと願いながら読みます。

今日の「正論」欄が平川氏の文でした。
加藤周一氏が登場しております。
最初から引用したいのですが、ここは
加藤周一氏が登場するあたりから

「今井(俊満)の猥談も迫力があった。だが時に真剣な感想を述べ、学者評論家を手厳しく論難した。『自己の感性に忠実でない。本質に直行しない。左翼に色目を使い、時代の風潮に合わせてものをいう』。そう言われると、私もたじたじとした。たしかに加藤周一が『日本の風潮に合わせて外国通信も書く』と当時から感じてはいた。
戦後まだ10年余、ドイツへ行くと『この前はイタリアに裏切られて負けた。今度は日本とだけ組んでやろう』と酔っ払い老兵に何度も絡まれ私は閉口した。ところが日本人にドイツを理想化する風潮があるのを知ってか、『そんなことをいうドイツ人はいない』と加藤は朝日新聞紙上で断言した。加藤は『頭の回転をよくする読書術』というベストセラーで、誰かがこちらの読んだことのない本の話をしだしたときは間髪入れず『あれは面白い』と言って会話をつなげ、と『読まない読書術』を披露した。頭の切れる加藤は察するに大新聞の主張に沿って、『あれは』と調子を合わせたのだ。
だが、加藤が『第二次大戦後、ドイツ社会は「アウシュビィッツ」を水に流そうとしなかったが、日本社会は『南京虐殺』を水に流そうとした。その結果、独仏の信頼関係が『回復』されたのに対し、日中国民の間では信頼関係が構築されなかったことは、いうまでもない』と独礼讃を書いたのには憮然とした。ナチスの指令によるユダヤ人全滅の組織的な虐殺organized atrocity と個々の兵士による虐殺とは違う。
加藤の方は大新聞に調子を合わせて書き、論説委員の方は『知の巨人』の大先生のご高説に耳を傾けて社説を書いただけかもしれない。だがそれは、朝日歌壇に社論に同調する歌を選ぶ選者がいるのと同じ類いの自家中毒症状だ。・・・」

うん。いい例が思い浮かばないのですが、
たとえば、池上彰著「学び続ける力」のなかで、
東工大で教えることになった箇所に、

「私が東工大で教えるきっかけになったのは、・・2011年3月11日の東日本大震災、そして福島第一原発事故がきっかけでした。」

その講義で学生をひきつけるのに
「大事なことは、どれだけ身近な話に持っていくかということです」

そして、その例として出ていたのが

「水俣病の原因は工場廃水の有機水銀ではないか、と地元の熊本大学医学部が発表していたにもかかわらず、当時、東京工業大学のある教授は、原因は、魚の腐ったときなどに出る有毒物アミンだという説を唱えました。
これを受けて、当時のメディアの報道は、両論併記のようなかたちになってしまいました。両論併記とは、『こういう原因だと言う専門家もいるけれど、一方こういうことを言う専門家もいます』というスタイルです。
なぜ東工大の教授がそう唱えたのか、憶測はできますけれども、何とも言えません。ただ、結果として、東工大教授が異論を唱えたことによって、水俣病の原因究明、ひいては患者救済の遅れにつながりました。
『研究者のモラルって何だろう』ということを、これから研究者や技術者になる学生に考えてもらいたい。同時に、東工大というのがブランドだということも意識してもらいたいと思いました。東工大の教授というだけで何となく世の中に影響力を持ってしまうようなことまである、その社会的な責任を考えてほしい。そういうことを、メッセージとして述べました。」(p61~62)


う~ん。加藤周一ブランドを、まだ通用させようとする人たちに引導を渡す平川氏の文なのでした。
コメント
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