おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

死してもなお終わりのない兵士

2005-06-12 21:41:00 | 読書無限
 コイズミ首相の靖国参拝問題。週刊誌によれば8月15日説。これじゃ、中国や韓国の神経を逆なでするようなものだと思うが、コイズミさんは本気らしい。こういう行為やそうする人間を、本来の意味での「確信犯」という。「宗教的・政治的信念の上からたとえ悪いことだとされることでも行う」ということだ。コイズミさんは「悪いことだと承知して悪事を行う」のではない。だから、そう簡単にことは終わりそうもない。
 ところで、最近、「靖国神社問題」を、死んだ兵士とその肉体、霊、さらに国家(軍隊)との関わりについて書かれたものを読んだ。新たな視点を感じたので紹介したい。
それは、波平恵美子さんの『からだの文化人類学』(大修館書店)のなかの、「靖国の死なない兵士たち」と題された章である。
 
波平さんは、まず「兵士は戦闘のための要員であり、たとえ破壊力の強い武器を採用したとしても、その身体は軍隊にとって必要不可欠の要素である。兵士の身体は傷ついたりさらには死亡して戦闘力を失うことになったとしても、軍隊にとっては重要な存在である。なぜなら兵士の身体は、軍隊を、そして軍隊をその最大要素とする近代国家の成立以来、国家を表象するものだからである。兵士である限り、生前も死後も、そして国家が軍隊組織を持つ限り、その関係は持続することになる。」と戦(病)死した兵士を位置づける。
 
 軍隊では、兵士の人格は極小化される一方で、兵士の身体の存在は極大化される。軍隊においては、常に、所属するすべての兵士の存在確認を行うことが最重要であり、たとえ一人の兵士でもその不在は軍隊組織をゆるがすことになるとされる。逃亡は絶対に許すべからざる行為であり、罪は大きいのだ。個々の兵士の死亡についても、個々の身体と照らし合わせてその死亡が確認されることになる。戦場において野戦病院において・・・。 
 
 この観点から、筆者は「一世紀以上前に戦死した兵士の個人名が消失されることなく靖国神社で祀られているのは、死亡してもなお、兵士はある場所に集合し組織を守ることを要請され、戦死者は死後も兵士として存在し続けることを意味する。現在の日本には、もはや軍隊組織が存在しないにもかかわらず、戦死した兵士の霊魂が集合体として存在していることが、靖国神社が政治的議論の対象となる理由である」としている。
 
 通常、兵士が無事兵役を全うし軍務から解かれた時には、「兵士」としての個人は終わることになる。しかし、兵士として戦死(戦病死)した者は、靖国神社に祀られているかぎり、軍務から解かれることはない。しかも、太平洋戦争では自分が死んでもおかしくない、たまたま生き残ったにすぎないという(九死に一生を得た)兵士も多い。すでに兵役を終えていた人々、抑留された人々、内地に辛うじて引き上げてきた人々。戦後も生き続ける中で、さまざまな思いを抱きながら生きてきた、多くの生き残りの兵士たち。靖国神社に祀られた僚友への思いも複雑であることを元兵士から直接耳にしたことがある。身代わりに死んでいったとも言える僚友への思い・・・。
 
 そこにまた、波平さんは、靖国神社信仰に、戦死者を非業の死を遂げた者とする「御霊」信仰があること、一般的には、死後50年を過ぎれば特別な者でない限り、「先祖代々」となって個別に祀られることはないにもかかわらず、戦死者のみが永久に祀られることに、そうした信仰の存在を指摘する。そこから、靖国神社に祀られた戦死者たちは、「国難に殉じた方々」とし、「国を護って下さる方々」とみなす発想が生まれ、またそこに、軍国主義の残滓を見る立場も生まれる、と。
 
 さてこうしたところから、我々は何を受け止めるか。
 コイズミ参拝問題は、60年前に終わった戦争の戦死者への追悼という具体的な問題なのだ。直接的に父が祖父が戦争で死んだ、という時代はほぼ終わりつつある。誰も直接の当事者がいなくなってもこれから先、死者への追悼をどう行っていくかにあるのだ。
 引き合いに出すことはあまりよくないが、広島や長崎の原爆慰霊祭は、たとえ100年経っても長く続けていかなければならないものだ、原爆の悲惨さを語り継ぐ上で。
 そうとらえたとき、8月15日を中心としての、戦争の悲劇を後世に語り継ぎ、平和を祈念する行事としては、明治以来の「靖国神社」信仰ではもうどうにもならなくなってしまっているのではないだろうか。日本として、国家100年の計に立って、戦没者ためのどの宗派にもよらない国立の慰霊施設をつくることが今求められていることではないか。
 小異を捨てて、大同につくことも大事だ。

コメント (2)
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