言うまでもなく異説『数学者列伝』(ちくま学芸文庫)は森毅さんの書である。
森さんはもう数を数えるのも面倒なくらい、たくさんの本を書いているが、私はこの書を一番気に入っている。この書は森さんの処女作ではないと思うが、処女作に等しいのではないだろうか。
遠山啓の処女作ともいえる『無限と連続』(岩波新書)を遠山さんのすべてがこの書に含まれていると森さんは評したが、それと同じことが森さんについてもいえるのではないかと思っている。
そしてこの書を編集したのが蒼樹書房の辻信行さんだと聞くと、この辻さんはいま海鳴社の同じ辻さんだろう。辻さんにはまだ面識はないのだが、ひょんなことからメールのやり取りがある。彼は吉田 武氏の『オイラーの贈物』(海鳴社)を出した編集者だと思う。
ところで、昨日は日曜日であったので、久しぶりに異説『数学者列伝』を引っ張り出して読んでみたのだが、ラグランジュは取り上げているのにラプラスを取り上げていないことに気がついた。
ラプラスの伝記の資料があまり手に入らなかったということが理由かもしれないが、ラプラスを落としたことに森さんの何らかの意図があったのだろうか。
こういった数学者の伝記の類では岩田さんの『偉大な数学者たち』がやはり最近同じちくま学芸文庫から再版で出ている。これは評判の書だということなのであるが、どうも私には読んでそれほど面白い本だという気がしない。どうしてなのだろうか。
(2021.2.8付記) 海鳴社社長の辻信行さんとは2015年だったろうか、面識を得た。辻さんは私に著書『四元数の発見』を書くことを勧めてくれて、その後2014年に海鳴社から出版してくれた。
小著の出版は10月であったが、その後上京の折に、同社を訪れて直接に面識を得た。辻さんは京都大学物理学科の出身だが、出版に身を投じられた方らしい。
(2024.3.28付記)その後、昔の同僚であった友人の N さんが昨秋だったか、今年なってだったか忘れたが、私の仕事場を訪れたときに聞いてみたら、Nさんは辻信行さんと京都大学で同学年であり、それも物理実験だったか、化学実験だったかでパートナーだったとか聞いた。世間は広いようで狭いと感じた次第であった。
辻さんはすでに故人であるので、名前を表に出したが、Nさんはまだ健在なのでNさんとイニシャルだけにした。