渡辺恒雄の後継者、宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

予算関連法案が成立しないとどうなるか?

2011年02月20日 19時43分36秒 | 第177常会(2011年1月)大震災・3党合意

[写真]笠原多見子氏

 テレビなどで「小沢系16人の乱」によって予算案が成立しなくなったという人がいますが、予算は成立します。平成23年度予算案は衆院の「過半数」で可決し、参院では賛成少数で否決。両院協議会での話し合いでまとまらなければ、衆院の議決が自動的に国会の議決になります(憲法60条)。さらに3月2日夜までに参院に送れば、平成23年度予算は4月1日から執行できます。メドが立たないのは予算関連法案です。もちろん予算案と予算関連法案は夫婦のような関係です。

 予算関連法案が成立しなかった場合の影響について試算したペーパーは、すでに新聞で報道されています。私もこのペーパーを以前から、独自のルートで入手していて、熟読していました。2月14日週の衆院予算委員会での政調会長大臣・玄葉光一郎さんの与党からの質問に対する答弁でも内容は一致していました。このペーパーは、財務省・総務省・厚労省が作成し、民主党国対委員会会合で議員に配られたとされています。

 私は、「我が敵は参院自民党だ」と思い、ペーパーの項目毎に支持母体から影響を受けそうな自民党参院議員の名前を書き込んで、切り崩す作戦を模索していたのですが、「小沢系16人の乱」の大激震で大きく局面は変わってしまいました。敵は身内だったのです。

 結論から言うと、「小沢系16人の乱」と小沢信者・小沢支持者の間に、ジレンマが生じています。ネット世論、リアル世論とも、小沢信者・小沢支持者はすべて相対的に、地方者、高齢者、貧困者、情報弱者(以前はTV信奉者→現在ネット信奉者)といった特徴があります。しかし、予算関連法案が成立しないと、より困るのは、まさにその小沢信者なのです。このほかに影響を受けるのは経団連・大企業です。

 まず税制改革法案ですが、離島に行く飛行機の燃料税の特例が切れますので、1キロリットル辺り1万9500円が2万6000円になります。航空券代への転嫁は航空会社の判断になるでしょうが、いまどきこれをかぶれる会社があるとも思えず、値段が上がるでしょう。とくにマリンスポーツの入り込み客が多い離島は、そもそも景気低迷の影響を受けやすいでしょうから、ダブルパンチとなるでしょう。また、農林漁業用A重油への免税が失効するので、漁船の燃料やビニールハウスの加温用燃料が上がります。いか釣り漁で年間17・9万円の負担増という試算もあり、休漁どころから廃業に追い込まれかねません。ビニールハウスの試算は、ペーパーにないのですが、こちらは、おそらく設備投資で融資を受けている農家が多いでしょうから、止めるに止められぬ地獄に陥るかもしれません。

 このほか、住宅用家屋の売買にかかる登録免許税が0・3%→2・0%に上がります。不動産登記に関する政治連盟は、政権交代のかなり前から、民主党も応援してくれていたので、申し訳なく思います。これに関しては、リーマン・ショックから回復しつつある都市部が困るわけですが、とはいえ基本的には大型物件を扱う大企業の話です。地方では、家屋の売買そのものがない状態です。このほかにも「様々な取引などの当事者にとって想定外の負担増が発生」とペーパーにあります。

 さて、次は、ニュースで耳にする「23年度赤字公債法案が成立しない場合の影響について」。当ブログでは「平成23年度赤字国債臨時特例法案」と表現しています。

 大枠では、ご存じの通り、2011年度に40・7兆円の歳入欠陥となります。では具体的にどうか、ということですが、「4月から直ちに予算執行が不可能になるわけではないが、法案成立の見通しが立たない場合には、予算執行を抑制せざるを得ない事態も考えられる」とのこと。

 そして、心理面の不安では、ここがイチバン大きいと思うのは次の一文です。「基礎年金の国庫負担割合2分の1の維持に必要な臨時財源を確保するための特例措置を規定(2・5兆円)」しているにも関わらず、その根拠がなくなります。「臨時財源」のことは、最近は「税外収入」とも呼んでいます。自公政権から、基礎年金の2分の1は税金(国庫負担)となりました。しかし、毎年、どっかから臨時財源を引っ張ってくるという不安定な状況で、恒久財源--すなわち消費税を増税してそれを自動的に毎年充てたいわけですが--、今は臨時財源で、毎年いろいろなところから埋蔵金を掘っています。これも「厚生年金受給者で夫婦で毎月数十万円受け取っている」という人にはあまり気にならないでしょうが、「国民年金で、単身で月7万円」という人も多いでしょう。その半額となると、これはもう生活ができません。もちろん4月15日の支給日から減額ということはないでしょう。が、日本年金機構が6月ごろにハガキで送っている「年金支給額通知書」が遅れるかもしれません。逆にあそこはぼーっとしているから機械的に送ってくるか? とにもかくにも、どうなるか分からない面があまりに多い。年金7万円から月の家賃(3~4万円)を払って、残りは食費というおばあちゃん。唯一の娯楽はテレビでしょうから、これはもうお金の心配で、名実ともに、ご飯がどを通らない。病気になります。

 一方、赤字国債臨時特例法が成立しないと、「予算執行の停滞などに対する懸念が市場に広まり、株価などの不安定要因になるおそれもある」。とはいえ、都会の機関投資家にとって、株価が不安定になれば儲けるチャンス到来です。また、国債市場の長期金利ですが、これはヘッジファンドにつけ込まれる可能性もあり、危険です。かりに長期金利が上がれば、それに連動した住宅ローン金利も上がってきます。一つ付け加えたいのですが、長期金利が下がる(発行済みの国債が買われる)という可能性もある、と私は推測しておりますが、いずれにしろ、変動リスク、不安定リスクです。

 地方交付税法改正案が年度内に成立しない場合は深刻です。4月4日支給分の地方交付税交付金の概算交付額が月で「4・1兆円→2・6兆円」となり、自治体は「一般財源の総額を見通すことができないため、事業着手時期を先送りするなど予算の執行に慎重となり、国民生活や国民経済に悪影響」をあたえます。また、地方特例交付金も、年間で4000億円→2000億円となります。雪害・鳥インフル・火山噴火もあります。ちなみに、東京都庁が受け取る地方交付税は0円です。自治体財政では、人件費・扶助費・公債費の3つを義務的経費といいます。このなかで、扶助費の生活保護費は国の一般会計予算に総額2・6兆円が計上されており、予算は成立しますから、そこから下りてきます。しかし、自主財源比率の低い自治体では、人件費で、職員への給与遅配というわけにもいかず、公債費は過去に発行した県債・市債の満期償還ですので、信用上、絶対に遅らすわけにはいきません。公共事業を先送りにする選択をする自治体が多いでしょう。なお、公明党はまだこの法案の賛否を表明していないので、参院で年度内に可決・成立する可能性はまだ残っています。

【追記 2011-2-23 6:30】

 地方交付税法改正案に公明党が「基本的に賛成する方向で検討する」ことになりました。年度内成立の可能性が高くなりました。2月23日付で予算関連法案が成立へ 公明党代表「地方交付税法改正案」を「基本的には賛成で検討」と明言をアップしましたので、ごらんください。

【追記おわり】

 きわめて客観的にご説明しました。しかし、やはり困るのは、地方・高齢者・貧者ということになると思います。そうすると、郵政解散で小泉純一郎さんに「騙された」と思い、テレビに不信を抱き、インターネットに光明をえて、今度は小沢一郎さんを応援して、「検察不信・マスコミ不信」となっている方が、困る。そういうジレンマが、自称・新会派16人によって生じたと考えられます。

 私は、民主党の敵は自民党だと思っていましたが、これは、明らかに、民主党や、現在政権を預かる政党として、明らかに敵は、渡辺浩一郎・笠原多見子・川島智太郎氏による「自称・新会派」であり、裏で糸を引く小沢一郎さんです。19日~20日だけでもかなり状況の変化はあり、自民党幹部は「菅内閣が総辞職しても予算関連法案に賛成しない」ということで足並みをそろえましたので、菅内閣が総辞職する必要はなくなりました。そして、税と社会保障の一体改革案を6月にまとめたタイミングで、解散総選挙となりそうな気配も出てきました。第46回総選挙は「小沢卒業解散」ではないでしょうか。

 せっかく平成23年度本予算案審議は、民主党、自民党とも良い議論で、日程的にも良いペースで進んできたのに、水を差されました。悔しいです。また、衆院財金委、総務委では、大臣の所信聴取が済んだばかりで、予算関連法案の提案理由説明や質疑はこれからです。厚労委は所信聴取も済んでいません。第46回総選挙で民主党が議席を減らすのは確実ですが、今国会で、予算委、財金委、総務委、厚労委で、泰然自若と何事もなかったかのように国政・国民のためにキッチリと審議をこなした政府外議員や政務三役は、与野党問わず、しっかりと評価して欲しい、と当ブログからお願いしたいと思います。

 泰然自若です。

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