時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

トランプ政権は何を変えるか:国境政策(2)

2025年01月27日 | アメリカ政治経済トピックス



ホワイトハウス入りしたトランプ大統領は、選挙期間に掲げた案件を次々と実行に移し始めた。なかでも国境政策(移民・難民政策)、関税政策などで、「アメリカ・ファースト」という直截に国民にアッピールする政治を全面に打ち出している。強権を手中に予想外に勢いのついたトランプ支持の流れに乗ろうとしているようだ。バイデン前大統領の政策は、分かり難く、実行にも時間を要していた。もっとも、バイデン政権も在任中は強制送還も実施しており、2024年中には27万人余の移民を192カ国に強制送還した。

南部のアメリカ・メキシコ国境を越境する人の流れ、とりわけ移民、難民の制御、コントロールは、アメリカを二分するとまでいわれる国家的課題となっている。トランプ政権にとって、対策の柱となるのは、アメリカから不法移民を排除し、「大量国外追放」を実施に移すことだ。

変化した国境風景
こうした時代背景の下、トランプ大統領は1月22日、急増する不法移民問題への対策として、南部メキシコとの国境地帯に国家非常事態を宣言した。事態を目にしたことのない人々には、大袈裟に聞こえるかもしれないが、日々越境、流入してくる数多い移民、難民との衝突は南部諸州に多大な重荷となってきた。

国境の光景もこの半世紀近くの年月の間に激変していた。筆者が最初訪れた1960年代のアメリカ南部メキシコ国境には、川や砂漠などが自然の要害として使われることが多く、人工的障壁のようなものは少なかった。ブラセロ・プログラムといわれた政策の下で、アメリカ・メキシコ間で農業労働者を季節的に受け入れ、送り戻すためのバンガローのような施設がカリフォルニア州などに目立つ程度であった。それ以外の目的でアメリカへ入り込もうとする移民は、背中にわずかな携行品を結びつけ、監視の目が行き届かないリオ・グランデ川を泳いで渡るような人々だった

「ウエット・バック」wet backと称されるが、今は卑語とされている。

第一次トランプ政権の時に強化された見上げるような鋼鉄の障壁は、国境のイメージを大きく変化させた。物理的な障壁の冷たさ、厳しさが見る人の前に聳え立つ。

軍隊の派遣
トランプ大統領は、就任直後の大統領令で南部のメキシコ国境へ約1500人の米軍兵士を追加派遣すると明らかにした。これはすでに派遣している2500人に追加されるとされる。現時点では兵士が越境者を逮捕するなど、直接に法執行の役割を果たすことは意図していない。しかし、ホワイトハウスが公開している国境の実態を写した画像などをみると、多くの陸軍車両などが集結し、空にはオスプレイが飛び回って監視を始めたようだ。

国防総省はメキシコ国境での5000人以上の強制送還のために軍用機を用いるとしている。すでに1月24日から米軍の軍用機を使った不法移民の国外送還を開始した。レビット大統領報道官によると、23日には不法移民538人を送還した。メディアによると、南部テキサス州の基地から中米のグアテマラに送還されたようだ。米政府としては、犯罪歴のある不法移民を最初の強制送還の対象にするとしている。犯罪歴のある人は40万人を越えるとみられる。トランプ大統領が考える犯罪歴を持つ人は60万人近いといわれ、そうした犯罪者を最初の送還対象にすることで、今後不法に入国を試みる者をあらかじめ防ぐことを目指すとされる。

トランプ大統領は米国への不法移民の「入国を全面的に停止し、国境警備パトロールは難民申請の審査を行わずに入国を拒否する」よう指示した。それまでは、移民は米国国境に到着することができ、国境警備パトロールに亡命を求める法的権利を保持していた。

トランプ政権第1期のメキシコ国民以外の亡命申請者は、米国での申請が解決するまでメキシコ国内で待機することを強制する措置も復活した。さらに移民が米国の国境パトロールとの面接を予約できるCBP One アプリも廃止された。

これらの動きについて、メキシコのクラウディア大統領などは、今の段階では強い反発を見せてはいない。アメリカとは密接な関係を持ちながら、政治・経済的にも弱い立場にあるメキシコとしては、アメリカと強く対立うることは得策ではないと考えられ、もう少し事態の推移を見たいのだろう。

威嚇に屈せざるを得ない小国の立場
トランプ大統領が高率関税などの手段を武器に、強権を持って移民などを出身国に送り返す動きは、1月26日軍用機を使い、南米コロンビアに移民を送り戻すという形で実施に移されており、一時はそれに反対したコロンビアのペトロ大統領だが、まもなく威嚇に屈し、送還された自国難民を受け入れることになった。トランプ大統領が、同様の手段を使うことは目に見えており、アメリカへ移民を送り出している多くの小国は、厳しい対応を迫られるだろう。

トランプ大統領は出生地主義の廃止なども掲げているが、これについては連邦最高裁の違憲とするコメントなどもあり、今後大きな論点となることは必至である。

かくして、トランプ政権は、アメリカ・メキシコ国境は一時は「開放」を目指すことこそ主流とされてきたアメリカの国境政策を名実共に転換させようとしている。その帰趨がいかなる方向をたどるか。しばらく注視したい。


REFERENCES
The New York Times 
Pew Research Center
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« トランプ政権は何を変えるか... | トップ |   
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

アメリカ政治経済トピックス」カテゴリの最新記事