時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

自由の女神は、何を考えているのだろう

2024年11月24日 | アメリカ政治経済トピックス


戦略的武器となった国境管理
トランプ政権移行に伴って一段とクローズアップされているのが関税と移民政策(国境管理)だ。いずれも中国が仮想相手国となっている。今回は、そこに焦点を当ててみたい。

新年、トランプ政権が成立すると、関税政策では国内産業保護のため、輸入関税は大幅に引き上げられ、とりわけ中国からの輸入品に50%近い高率関税を適用するといわれている。中国としては、アメリカ以外の輸出先への転換、あるいはアメリカ国内への直接投資が考えうる対応だが、いずれも容易な道ではない。他方、こうした保護政策の導入で、アメリカもインフレ高進の可能性が危惧される。中長期的には、国際競争力が失われる可能性が大きい。

国境管理の衝撃
他方、世界最大の移民受け入れ国アメリカが実施する国境管理の内容は、アメリカ国民は言うまでもなく、入国を試みる移民、難民に多大な衝撃を与える。

トランプ政権では、国境管理でも厳しい制限的政策を採用するといわれている。送還される移民数は数百万人と、史上最大になるとまで、推定されている。なかでも、トランプ次期大統領は、以前から中国からの越境者は徴兵年齢の男性がほとんどであり、アメリカに入国するのは共産党の息のかかった小さな拠点をアメリカ国内に作るためであり、潜在的なスパイを侵入させるためとまで述べている。こうした見方を修正しようとの動きもあるが、概して中国への不信感、対抗意識はかなり強い。

中国人のアメリカへの移民推移
中国人がアメリカ南部国境の越境者で目立つようになるのは2022年頃からである。2021年に民主党バイデン政権となってからは急増し、その流れで中国人越境者も689人から2022年には3,813人へと増加した。更に2023年には37,000人以上と急増している。ピークはその年の12月だったが、その後も増加した。2024年夏には米中関係が緊迫の度を加え、バイデン政権もトランプ候補の批判を受けての国境管理強化で、越境入国者は大きく減少した。

現在の段階では、中国人越境者の数はさほど多くなく、全体の政策領域の一部に過ぎない。越境者の増減は米中関係の変化をかなり鋭敏に反映するものと見られている。

中国人越境者は、概して中国で増加しつつある中間層が多いようだ。出身地は、香港、深圳を起点とするものが目立つが、概して全土に渡っている。大別してふたつのグループに分かれると推定されている。一つはアメリカという新天地で、自由なビジネス機会を開拓したいと思うグループ、もう一つは習体制の下での厳しい言論、行動への統制を逃れて、自由なアメリカで過ごしたいと思いつめたグループに大別される。

こうした越境者たちは以前に記したダリエン・ギャップといわれる危険な密林地帯を通過し、はるばるアメリカ・メキシコ国境にまで長い旅をする。彼らは旅の途上で、仲介業者 smuggler に多額の金を支払い、アメリカ・メキシコ国境まで旅をする。2023年には50万人を超える越境者たちがダリエン・ギャップを通過した。こうした旅路の末、アメリカへ越境入国を試み、勾留された中国人は国別で4番目に多かった。

これまで中国人越境者へ入国ヴィザを要求しなかったエクアドル経由で、北進する者が多かったが、2024年7月、エクアドルがヴィザを条件とするようになったため、人流は変化しつつある。不法越境者をパナマから中国へ送還する道も整備されつつあり、中国人でアメリカへ越境入国を企図する者の経路を制限しつつある。

アメリカへの不法な越境入国を企図する中国人に関するニュースが拡大することを憂慮した中国政府は、アメリカ政府との交渉を介して、越境出来ずに勾留された中国人を航空機などで本国送還する方途を準備しつつある。これまでアメリカへの最大の不法入国者を生み出してきたメキシコへのアメリカ政府の圧力は、急激に高まっているため、メキシコを通過しようとする中国人には、最大の重圧がかかるといわれている。中国人でアメリカへ不法入国を試みる者にとっては恐怖の源になっている。

現在の段階では、トランプ次期大統領の不法移民の大量送還などの十分検討されていない案への懸念、反応などもあり、中国人越境者の数は今後の状況次第といった段階にある。かくして、中国人越境者の動向は、米中関係を推測する政治的指標のひとつになってきた。

 自由の女神像台座に刻まれた詩
Give me your tired,
your poor,
Your huddled masses yearning to breathe free,
The wretched refuse of your teeming shore.
Send these,
the homeless,
tempest-tossed to me,
I lift my lamp beside the golden door!”

Emma Lazarus, 1883


REFERENCE
“How to escape from China to America”   The Economist October 12th 2024
コメント
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