2005年3月9日のこのサイトで記したように、スペイン政府は本年2月、「2004年8月から半年以上、同国に滞在した不法移民に就労ビザを与え、合法化する」といういわゆるアムネスティ政策を実施することを発表した。これは移民を制限する方向にある最近のEU諸国の中では、異例の政策であった。スペインでは、長年にわたり不法に国内に住みついた移民を合法化した例は、過去にもあったが、今回の措置は条件もきわめて緩やかであった。すなわち、2004年8月以前から6ヶ月以上スペインに居住していること、雇用契約があること、そして犯罪歴のないことが条件であった。
労働力不足への対応
スペインのこの政策は、1990年代後半以降に増加した不法雇用や密入国あっせんなどの闇経済と、少子高齢化に伴う労働力不足への対応といえる。移民の労働力に頼らざるを得ない現状を追認したものである。いっそのこと合法化して使用者に社会保険料を納めさせることにすれば、不法滞在の状態にある移民労働者は劣悪な労働環境から解放され、移民増加に伴う財政負担も減らせると考えたものとみられる。スペインには、推定100万人近い不法滞在者がいると推定されてきた。
5月7日、この措置の下で就労ビザを発給する手続きの受付を締め切った。全体の集計は未だ発表されていないが、2月以来の申請人数は65万~70万人に達したとみられる。受け付け最終日の5月7日には、およそ4万人が全国193カ所の窓口に押し寄せた。合法化を求める移民で最も多かったのはエクアドル人で、続いてルーマニア人、モロッコ人などであった。
近隣国の反対
EU域内は、ほとんど国境での審査がないため、スペインで合法化された移民が大挙して周辺諸国へと流入する懸念も広がっている。ひとたび合法移民になれば、周辺国への移動が容易になるため、ドイツ、オランダなど多数の失業者を抱えるEU加盟国からは今回の措置への批判が相次いだ。また、次のアムネスティの機会を待つために、一層の不法移民流入を招くとの批判もある。
確かにフランスやイタリアに不法滞在するモロッコ人などが合法化を求めてスペインに殺到し、フランス国境から入国を試みる大勢の移民がフランス当局に摘発された。彼らはスペインで合法移民の権利を得た上で、他のEU諸国へ移動するもとのみられる。申請には昨年2004年8月時点での住民登録申請書が必要とされる。しかし、不法移民の大半は当局の摘発を恐れて住民登録をしておらず、政府は昨年8月以前の日付さえあればバスの定期券でも「証拠」として受理した。住民登録書、雇用契約書も闇で買えるとの話もあったようだ。
困難な流入阻止
スペインはモロッコ、アルジェリアなどアフリカからの不法移民の流入口として、EUからは入国管理を厳しくするよう要請され、そのためにかなり膨大な助成金も受けている。スペイン政府は、今後は不法滞在の外国人には送還などの厳しい措置をとるとしている。夜間カメラと赤外線の探索装置を不法上陸の多い海岸線に設置し、モロッコ警察と協力してのパトロールなどの対応策を強化した。
スペインに最も近い移民送り出し国モロッコは、イタリア、スペイン、フランスなどにいる同国人から年40億ドル近い送金を受けており、その額はGDPの9パーセント近くに達している。1990年代半ばでは、この比率は5パーセントだった。今では、外貨収支のマイナスを埋める最大の寄与要因となっている。
アフリカの厳しい貧困から逃れようと、毎年数千人の人々が20キロ近いジブラルタル海峡の激流を渡ろうとし、多数の犠牲者を生んでいる。一人あたり1000ユーロ近い金と引き替えに、密入国をそそのかすブローカーも多い。
現代の移民政策で、送り出し国側の問題に目が向けられることは少ない。アフリカの貧困問題解消に光が見えないかぎり、移民とEU諸国とのせめぎ合いは果てしなく続くであろう(2005年5月11日記)。