時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

またお会いしましたね

2007年04月13日 | ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの部屋

    今回のアルザス・ロレーヌの旅では、特別展などもあって、おなじみラ・トゥールの作品をかなり見ることができて幸運であった。もう何回も見ている作品で、「またお会いしましたね」というような感じでもある。この画家の作品は、本来所蔵されている場所とは異なった所で出会うことが多い。
  
  この女性の横顔、ご記憶の方もおられるかもしれない。東京にも来た作品である。この画家の描いた女性は、とにかく一度見たら忘れられないような顔が多い。

  1930年に発見され、ミュンヘンのフィッシュマンのコレクション、そして1945年に著名なピエール・ランドリーのコレクションに入った。そして、2004年、ヴィック=シュル=セイユの県立ジョルジュ・ド・ラ・トゥール美術館の所蔵となった。これで、この小さな美術館はラ・トゥールの作品を2枚持つことになった。画家の名前を掲げる以上、複数の作品所蔵が望ましいと思ったのだろう。

  一人の女性の頭部だけの作品である。しかし、肖像画として描かれたものではないようだ。より大きな作品の断片であることが分かっている。せっかくの作品を切断してしまうというのは、なんとも残念という感じがするが、所有者には自分の審美観などから余分と思う部分を切り取ってしまいたいという考えもあったのかもしれない。切断される前の作品がどんなものであったのか、想像するのも興味深いことではある。「生誕」や「聖母の教育」「羊飼いの礼拝」のように、相対する人物が描かれていたのかもしれないという推測もある。

  テュイリエは、この画家は複数の人物を同一画面に描いた場合でも、それぞれの顔の部分が比較的独立しているので、こうしたことが比較的容易だったのかもしれないとの指摘している。ラ・トゥールの作品には光と闇のコントラストを持った作品が多く、しばしば周辺の闇を描いた部分が劣化し、ぼろぼろになってしまうので、切り落としたのかもしれないとの指摘もある(Thuillier 103)。いずれにしても、真の理由は不明である。作品が切断されてしまった別の作家の例については、以前にも記事に書いたことがあった。

  描かれているのは、ほぼ間違いなくロレーヌの女性である。モデルになったのはどんな人であったのだろうか。背景に想定される注文主のことなども含めてやや大胆に推測すれば、比較的裕福な中流の家庭の婦人といえるだろうか。女性の年齢は推定が難しい。顔立ちも穏やかで、帽子の赤も美しい。もっとも、作品が発見された当時の作品の写真では、この帽子には今は見えない独特の飾りのようなものが描かれていたらしい。かなり修復?の手が加えられ、損傷してしまった部分もあるようだ。

  今日残るこの画家の作品には、特にテーマ性を持つとは思われないこうした作品がいくつかある。注文主の要望に応じたものだろうか。見ていると、不思議と心が落ち着いてくるような作品である。


Musée Départmental Georges de La Tour - Vic-Sur-Seille
Collection des peintures Acquisitions 2004.
Tete de femme - fragment

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難航するアメリカ移民法改正

2007年04月13日 | 移民政策を追って
  アメリカの移民法改正が再び話題となっている。このブログでも「定点観測」の意味で、その変化を追ってきた。今日の段階でとりたてて大きな変化はないが、少し補間しておこう。

  中間選挙後、急速にレームダック化しつつあるブッシュ政権にとって、多少なりとも人気挽回の材料になるかと思われているのが移民法改正である。ブッシュ政権は「包括的移民プログラム」の名の下に、1)あらゆる手段で国境線警備を強化する一方で、2)アメリカ人が働きたがらない農業労働などにゲストワーカー・プログラムを導入し、3)1200万人ともいわれる不法滞在者を一定の基準で順序づけ、必要な罰金を課した上で一旦帰国させ、改めて合法的経路で受け入れるという方向を提示してきた。

  ブッシュ案は、共和党よりは民主党案の方に近いといわれてきた。そのため、民主党が優位に立った上下院では、比較的速やかに実現するのではないかとの観測もあったが、移民問題は政治的にもデリケートな駆け引きが必要であり、予期に反して長引き、今日にいたってしまっている。CBSの討論などを見ていると、民主党、共和党両党の間ばかりでなく、同じ党員の間でも考え方にかなりの差異がある。

  そうした中で、アメリカ・メキシコ国境に防壁を建設することを委託されたアメリカ企業が、作業員に不法移民を雇用していたという事態が発覚し、当該企業幹部が禁固刑の判決を受けた。不法移民を阻止する作業に、不法移民を雇うという滑稽ともいえる情景である。しばらく前には、移民受け入れ拡大に反対の議員が自分の家庭で不法移民のヘルパーを雇っていたという問題もあった。

  アメリカの移民政策は、次第に追い込まれている。時間が経つほど不法移民が増え、対応は難しくなるからだ。4月9日にアリゾナ州ユマを訪れたブッシュ大統領は、1)国境警備(フェンス、カメラ・センサー設置、車両による国境越えの阻止など)の強化、2)不法移民を対象とした「一時労働許可制度」、3)不法移民を雇ったアメリカ企業への罰則強化、4)不法移民に永住を認める枠組みの新設を柱とする包括的移民法案の実現を呼びかけた。大筋では昨年来の政策と同じだが、不法移民を対象とした新しい種類の就労ビザの発給や永住許可を認める道など、なんとか法案を成立させるために修正を考えているようだ。1200万人の不法移民に一度は国外撤去を求めるという考えは現実性に乏しいという批判も強い。

  ブッシュ政権側は、すでにアメリカ国内にいる不法移民への対策としてアムネスティは発動しないとしているが、議論は収束していない。論点はかなりしぼられているが、議員によって微妙な差異がある。

  その中でやはり、9.11のトラウマは根強く残っていることを感じる。最近ではメキシコ国境で拘束された不法入国者の中に、名前も変えてメキシコ人になりすましたテロリスト容疑者が増えているとの指摘もある。この点にこだわると、法案の保守性は強まる。ブッシュ案に近いと見られていた民主党だが、党内に複数の異論があり、採決に党議拘束をかけることは難しい状況であり、今年夏までの法案成立は流動的である。引き続き、ウオッチすることにしたい。


Reference
CBS 2007年4月10日
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