グローバル化が進展しているといっても、国境は有形、無形、さまざまな障壁となって人々の前に立ちはだかっている。これらの障壁は決して一方的に低くなっているのではない。このブログがウオッチの対象としているように、国境の門扉は時によって開かれたり、閉められたりしている。このドアの開閉の程度が、いわば移民政策の有りようを示している。
メキシコからのアメリカへの労働者流出は、年間50万人の規模になった。この流れ、とりわけ入国に必要な書類を持たなかったり、定められたドアを通らない、いわゆる不法移民の増加をいかに抑止し、コントロールするかは、国境線の長い大国アメリカにとってきわめて難しい政策課題となっている。ブッシュ政権の移民法改正は、未だに決着がつかないでいる。
急増した外貨送金
注目される変化は、外貨送金の次元に起きている。合法・不法を問わず、アメリカ国内で働くメキシコ系労働者が働いて得た所得を、メキシコの家族などへ送金する流れが急速に拡大している。
アメリカからメキシコへ流れる外貨送金は、メキシコ銀行の推定では、2006年におよそ230億ドルに達した。12年間で7倍という増加である。
ところが、これまでこうした送金にはさまざまな問題があった。アメリカでは不法滞在者は銀行口座が開設できなかった。また、口座がある場合でも、送金手数料が高くついた。そのため、時々帰国する際に現金で携行する、友人に手渡す、地下の送金網に頼るなどの手段で、メキシコへ持ち込まれてきた。帰国者をねらう窃盗なども多発していた。しかし、最近、この送金をめぐる障壁が急速に崩れ、安全な送金のルートが拡大してきた。
メキシコの銀行バンコメールによると、送金手数料は1999年の平均9.2%から2007年1月には3%にまで引き下げられた。平均の小切手送金額も、8年前の290ドルから350ドルへと増加している。さらに銀行経由送金の90%がインターネットを介して行われるようになった。この比率は、1995年時点では50%であった。
銀行口座のない人々
しかし、アメリカへ出稼ぎにくる労働者の大多数は、農村出身者である。彼らにとっては、3%の手数料自体、かなりの負担となっている。こうした事情を考慮し,メキシコ銀行とアメリカの連邦準備委員会が協議し、Directo a Mexico(正式名は、FedACH International Mexico Service) という送金コスト削減策を検討、導入することになった。これによると、アメリカ・メキシコ間の当事者同士の送金業務が1日で完了するといわれる。
システムが円滑に機能するよう、両国の中央銀行が媒介する。送金額のいかんにかかわらず、$0.67切り下げる。その結果、銀行によって異なるが、350ドルの送金について、2.50~5ドルの手数料となる。これで送金手数料は従来の半分以下となる。この方式は始まったばかりで、利用者は月に27,000件程度である。そのほとんどいえる26,000件は、実はアメリカ政府からメキシコにいる社会保障受給者への支払いである。かつて、アメリカで社会保障受給番号(いわゆる国民背番号)をもらって働いていた人たちである。
メキシコ移民の出身地は圧倒的に農村であり、貧困で受け取り側が銀行口座を持っていない人が大変多い。この点をなんとか解決するため、メキシコ政府の銀行Bansefi が、アメリカで働くメキシコ人労働者が帰国することなく、口座を開くことができるシステムを考えている。
移民自身がこうしたプランに乗るだろうか。これについて、メキシコ銀行は70%は開設するだろうと楽観している。その理由として、ヒスパニックの将来を見越して口座開設に意欲的なアメリカの銀行が、アメリカの入国管理 Border Control が要求する入国に必要な正式書類がなくても、メキシコ領事の身分証明だけで、口座開設を認めるようになっているからだ。移民の合法化が行われなくとも、送金は合法化されている。移民法改正について決定の遅い政府や議会をさしおいて、ビジネス化は将来を先取りして進行する。
こうしたシステムがアメリカ・メキシコ両国の側で展開すると、メキシコ人の苦労の結果が、手数料や強盗によって掠め取られることもなく送られることになる。 ブッシュ政権の政策で国境の物理的障壁は高くなるが、送金を阻んでいた障壁は急速に低くなっている。
Source:
’Handled with care’. The Economist April 21st, 2007.