「文藝春秋」4月号で、たまたま評論家・翻訳家の芝山幹郎氏が、エリザベス・テイラーを「スターは楽し」の23回目として取り上げていた。一時期、「世界一の美女」と呼ばれていたようだ。柴山氏は「匂いがよくて甘美な生クリーム」と表現されているが、なんとも表現しがたいイメージの女優だった。美人であることは言を待たないが、人気ランキングの上位にはランクされないような、取り付きがたいようなイメージも残っている。
以前記した「陽のあたる場所」のようなアメリカ資本主義の盛期を象徴的に描くコントラストの強い作品には、合っていたのだろう。この作品、当時の上流階級の令嬢を演じるにはぴったりの適役であった。世代的にも遠近感のつかみにくい女優だ。クリント・イーストウッドより2歳年下というから、団塊の世代より一回り上だった。子役でデビューしていたので、女優人生が長く見えたのだろう。「ハリウッド黄金期を体験した最後の女優」といわれる。
とりたてて、エリザベス・テイラーのファンというわけではないのだが、彼女の出演した映画が2、3本、記憶に残っている。アメリカという国を理解するに、かなり豊富な情報を注入してくれた。柴山氏は「陽のあたる場所」、「ジャイアント」、「バターフィールド8」をベスト3に選んでいるが、残念ながら「バターフィールド8」は見ていない。
子役時代の「緑園の天使」(1944)なども見たような記憶はあるが、これもほとんどかすかな残像しかない。「ジャイアンツ」(1956)は、牧童役を演じたジェームズ・ディーンの遺作となった大河ドラマで、テーマ音楽は割合よく覚えていた。これも「陽のあたる場所」のように、アメリカ資本主義の盛衰の舞台が印象的だった。牧童がかつての雇い主を上回って見返すまでの大石油王にのしあがるストーリーだった。地平線の彼方まで続く原油井戸には驚かされた。アメリカが産油国であることを認識させる衝撃的なイメージだった。
柴山氏は挙げていないが、「バージニア・ウルフなんかこわくない」が記憶に残っている。 この映画、実はよく分からなかった。60年代末に友人夫妻に誘われて、ニュージャージー、イースト・オレンジという小さな町の映画館で見た。英語が難しくて半分も分からなかった。観客が盛んに笑うのだが、理解できず、大変落胆したことを覚えている。後で友人に聞いたところ、きわどいスラングなどが多くて、分からなくて当然と云われ、それならなぜ誘ったのと恨めしく思ったほどだった。中年大学教授夫妻の凄まじいばかりのやり取りだったのだ。題名のバージニア・ウルフの意味するところがいまひとつ分からず、作品を読み始めるきっかけになったから、分からない映画も無駄ではなかったか。
その時、主演女優がエリザベス・テイラーで、男優が当時の夫リチャード・バートンということを知ったのだが、エリザベスの容貌が「陽のあたる場所」で見ていたイメージとまったく違ったので驚いた。これも、引き受けた彼女が大変張り切って役柄に合わせ、わざわざ容貌まですっかり変えたとのこと。スター稼業も大変なのだという印象が残った。
映画は大変好評を博し、エリザベス・テイラーは2度目の主演女優賞を受けた。後になってストーリーの細部を知る機会があり、誘ってくれた友人が分からなくてもいいと云っていたのは、なるほどこういう意味だったのかと思い当たる部分もあった。
Who's Afraid of Virginia Wolf? (1966)