カナダとメキシコに向けては、国境管理を厳しくしているアメリカだが、ヨーロッパに対しては、相手国がアメリカに対してどの程度「忠誠心」があり、協力的かで区別する政策を打ち出そうとしているようだ。9.11以降、アメリカは出入国管理を厳しくし、入国に際してのヴィザを要求してきた。これにはかなり高いヴィザ申請料が付随している。とりわけ、旧東欧諸国からの訪米者には高い壁となってきた。申請のためにアメリカ領事館に長蛇の列をなし、一人当たり130ドル近いコストを負担しなければならない。
アメリカはヨーロッパ大陸の中心的国々(経済水準が高い国)に対しては、ヴィザを免除してきた。わずかにギリシアだけがその例外とされてきた。ヴィザを要求しない国の中には、アメリカの外交政策に批判的で、多数のイスラム教徒をマイノリティとして包含する国も含めてきた。アメリカにとってはリスクがあるが、別の政治的配慮が加わるのだろう。
こうした中で、多くの旧共産圏諸国が、イラク、アフガニスタンでアメリカの政策を支持することを表明してきた。とりわけ、ポーランドとチェッコは、ロシアの怒りにもかかわらず、アメリカのミサイル基地の設置を認めている。これらの国々の中では、わずかにスロヴェニアだけがアメリカへのヴィザなし渡航が認められている。スロヴェニアは旧共産圏諸国の中ではきわめて小さく、豊かであり、政治的に安定はしている。
最近の動きとして、ポーランドとチェッコがアメリカ側への情報提供などを条件にヴィザ要件を撤廃するよう働きかけている。チェコからの航空機に、アメリカの武装係官が搭乗するなどの提案も検討されている。エストニアについても、同様な取引がなされそうだ。これについて、ミサイル防衛とヴィザ発給の双方について、より有利な条件をアメリカからとりつけたいと交渉してきたポーランドは、チェコの「出すぎた」動きに憤慨しているらしい。東欧諸国もそれぞれにお家の事情があり、足並みがそろわない。
他方、旧共産圏諸国がこうした政治的動きをすることに、ヨーロッパ委員会は自分たちのアメリカとの交渉権が侵害されると怒っているらしい。アメリカは、ロシアからのエネルギー供給については、2カ国間で取引することを避けて、ヨーロッパがもっと団結してより強力にロシアと交渉すべきだと働きかけている。しかし、ヴィザ政策については、ロシアと同様に「分離して統治する」政策をとっている。ここにも大国の身勝手さが強く現れているといわざるをえない。小国の生きる道は厳しい。「団結して当たれ」が唯一の選択肢だろうか。
Reference
'Stand in line.' The Economist March8th 2008.