セスコ・デル・カラバッジョ「復活」1619-20、
油彩、カンヴァス、339 x 199.5 cm,
シカゴ美術館
Francesco Boneri (or Buoneri), known as Cecco del Caravaggio, The Resurection, 1619-20. Oil on canvas, 339x 199.5cm. Art institute of Chicago, Charles H. nd Mary F.S. Worcester Collection, I934.390.
昨年2016年から今年にかけて、リアリスティックで衝撃的な画風で知られる17世紀イタリアの画家カラヴァッジョ及びその画風の追随者(カラヴァジェスキ)をテーマとした企画展がアメリカ、イギリスなどで、いくつか開催された。これまで、これらの国々では、カラヴァッジョあるいはカラヴァジェスキの作品の国内での所蔵が比較的少ないこともあって、イタリアあるいはオランダなどと比較して、その受け取り方にこれまで多少温度差を感じるところがあった。
この点にはついては日本の事情と類似するところもある。カラヴァッジョを含め、同じジャンルの画家たちの真作を体系化した形で鑑賞・評価し、その全体像を理解することは、他国美術館との共催での大規模巡回企画展などが開催されないかぎり、ある限界があった。作品の移動なども困難が多い。カラヴァッジョの名前は、日本でもかなり知られるようになったが、印象派の画家たちなどと比較して、その浸透度は未だかなり低い。
こうした点を念頭においた上で、近時点で、アメリカ(ニューヨーク)、イギリス(ロンドン、ダブリン、エディンバラ)、フランス(パリ)などで開催された巡回企画展に合わせて刊行されたカタログ、研究書などを見ると、そのタイトル、内容に微妙な差異があることを感じる。前回に続き、筆者の手元にある幾つかの下記関連出版物のタイトル、開催地のなどを見て見よう。
Beyond Caravaggio:
an exhibition at the National Gallery, London, October 12, 2016-January 15, 2017; the National Gallery of Ireland, Dublin, February 11-May 14, 2017; and the Scottish National Gallery, Edingburgh, June 17-September 24, 2017
Catalog of the exhibition by Letizia Treves and others, London: National Gallery
Valentin de Boulogne: Beyond Caravaggio
an exhbition at the Metropolitan Museum of Art, New York City, October 7, 2016-January 22, 2017; and the Musee du Louvre, Paris, Februey 20 - May 22, 2017
After Caravaggio, by Michael Fried, New Heaven and London: Yale University Press, 2016
Beyond and After
これらの刊行物を見て感じたことは、Beyond あるいは After という一つの前置詞に、微妙な意味が含められていることだった。一般に、beyond あるいは after には、時間との関連では「[時間]・・・・の後に」という意味があるが、どちらかといえば after が使われるようだ。
Beyond には、単にあるものを時間軸の上で経過しただけでなく、そのものを超えた向こう側にあるという含意が込められている。それに対して、After の場合は、「あるものの後に」という意味に加えて、そのものに倣って、あるいは(忠実に)沿って、という意味が付帯しているようだ。
再評価される画家たち
こうしたことを念頭に置いて、ロンドンのナショナル・ギャラリーの Beyond Caravaggioを読んで見ると、カラヴァッジョのイギリスにおけるこれまでの受容の回顧、評価の妥当性、逸失した機会の指摘などに続いて、ブオネリ、グラマティtカ、マンフレディ、セロディーネ、バグリオーネ、バルトロメオ・マンフレディ、オラジオ・ジェンティレスキ、ガリ、ボルジアーニ、サラセーニ、レニ、ゲリエーリ、アルティミシア、ジェンティレスキ、マネッティ、カラシオーロ、リミナルディ、リベラ、カラブレーゼ、バビュレン、レグニエ、ブーローニュ、トルニエ、ホントホルスト、ストム、ヴリエット、コスター、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールにいたるカラヴァジェスキと見なされる画家の作品が紹介されている。カラヴァジェスキの画家をかなり見てきた筆者にも、あまりなじみのない画家も含まれている。これらは、「国際カラヴァッジョ運動」International Caravaggio Movement として知られるカラヴァッジョとカラヴァジェスキの活動と成果にかかわる国際的な研究の産物である。
ヴァランタン・ド・ブーローニュのように、別途類似のタイトルで企画展が開催されてもいる。この場合は、カラヴァジェスティとしての評価が早くから確立されている画家である。カラヴァッジョが生存、活動していた時代の後に、その作品などを通してカラヴァッジョの作風を継承してきた画家たち、カラヴァジェスキというグループに誰が含まれるかについては、後世の美術史家などによって見解が異なり、完全に一致しているわけではない。当該画家の置かれた環境、作品の特徴、美術史家、鑑定者、画商などの評価など、様々な要因で区分がなされるが、異論も少なくない。
ほとんど忘れられていたカラヴァジェスキ画家
さらに、時には今までほとんど忘れられていた画家や作品が再発見されて脚光を浴びることもある。その代表例がここに紹介するフランセスコ・ボネリ(あるいはブオネリ)、通称セッコ・デル・カラヴァッジョの名で知られる画家のほとんど唯一真作とされている作品である(上掲)。
After Caravaggio by Michael Fried, 2016 では、さらに限定されたトピックスで「ほとんど知られざる傑作:セッコ・デル・カラヴァッジョのキリストの復活」、画家のほとんど唯一確認されている作品である。来歴を見て見ると、1619年当時トスカナからローマへの外交官として赴任していたPiero Guicciardiniの注文でフローレンスにあった家族の教会 Santa. Felicitaのために制作されたが、1620年完成したものの依頼者の好みに合わず、まもなく別人の手に渡り、転々として、こんにちはシカゴの美術館に展示されている。この画家については、ほとんど何も分かっていないが、1606年にカラヴァッジョとともにローマへ移り、ナポリへ行った後、しばらくそこに住んだのではないかと推測されている。その後、ローマへ戻ったのではないかと思われるが、記録は何も残っていない。この名前の付された画家の作品は他にもあり、筆者もオックスフォードのアシュモリアン美術館で「フルート奏者」なる作品を見たことはあるが、この画家と同一人物であるとは気づかなかった。
「キリストの復活」を描いたこの作品、なんとも壮大な構想を背景とした大作であることに加えて、極めてダイナミックに描かれている。素晴らしい劇場性を備えている。しかも極めてリアリスティックである。カラヴァッジョに近い画家であったことが伝わってくる。いずれ、改めて細部を検討してみたい。
続く