これまでのパズルはいかがでしたか。メトロポリタン美術館の学芸員の間でのゲームから生まれただけに、多数の凝ったパズルが作られています。基本的には、学芸員がそれぞれ持ち寄った絵画の断片から原画、画家、作品の含意などを推定する仕組みです。書籍では一般向けのものが選ばれていますが、学芸員でも考えこむものも含まれています。対象は西洋美術史の範囲ですが、ルネサンスから現代絵画まで、メトロポリタン美術館の学芸員ならば当然知っていると思われる有名作品が選ばれています。作品は全てよく知られた作品なのですが、部分的な断片を提示されると、学芸員といえども翻弄されるかもしれません。
それでは、もうひとつ次のパズルはいかがでしょう。判断の頼りになるのは、それぞれの断片と短いコメントだけです。ふたつの相互に関連するQuiz (設問)を提示しておきます。
Quiz 1 この絵は誰によって描かれた作品の断片でしょう?
断片1
ヒント:
最初にこの作品が公開された時には、El Claudro de Familia (family painting) 《家族の絵》と画題がつけられていた。一世紀以上経過した後には、絵を観る人たちの心情は普通の人たち(commoners)に傾いていた。そのため王家の家族に仕えた側近の人たちの名誉のために画題が Las Meninas 《女官たち》に変更された。
Q. この作品を描いた画家は?
最初にこの作品が公開された時には、El Claudro de Familia (family painting) 《家族の絵》と画題がつけられていた。一世紀以上経過した後には、絵を観る人たちの心情は普通の人たち(commoners)に傾いていた。そのため王家の家族に仕えた側近の人たちの名誉のために画題が Las Meninas 《女官たち》に変更された。
Q. この作品を描いた画家は?
答は下掲図
Diego Rodriguez de Silva y Velazquez 1559-1660
Las Meninas (The Handmaidens) 1656
Oil on canvas, 109 x125 in (276 x 318 cm)
Prado, Madrid, Spain
ディエゴ・ベラスケス《ラス・メニーナス》(女官たち)
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N.B.
《ラス・メニーナス》は1656年、スペインの黄金の世紀を主導した画家ディエゴ・ベラスケスの傑作で、西洋美術史における重要な作品。画題は当時のスペイン王室、フェリペ4世の宮廷内の風景を描いたものだが、思考の深さ、作品構成など多くの点でその後の画家、美術史家などに多大な影響を与えた。
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Quiz 2 この絵は誰によって描かれた作品の断片でしょう?
ヒント:
この姉は他の3人の姉妹から離れ、影の中に隠れている。しかし、40年後、彼女たち4人は父親の思い出のために、自分たちが描かれたこの肖像画をボストンの美術館に寄贈した。絵画の一部であるこの大きな花瓶も一緒に寄贈された。
答
John Singer Sargent, 1856-1925, American
The Daughters of Edward Darley Boit, 1882
Oil on canvas, 87 3/8 x 87 5/8 in (221.93 x 221.57cm)
Museum of Fine Arts, Boston
ジョン・シンガー・サージェント 《エドワード・D. ボイトの娘たち》
John Singer Sargent, 1856-1925, American
The Daughters of Edward Darley Boit, 1882
Oil on canvas, 87 3/8 x 87 5/8 in (221.93 x 221.57cm)
Museum of Fine Arts, Boston
ジョン・シンガー・サージェント 《エドワード・D. ボイトの娘たち》
ジョン・シンガー・サージェントは、イタリア生まれのアメリカ人画家。ローマ、パリ、ロンドンなどで過ごす。アメリカ印象主義の画家ともいわれるが、パリではクロード・モネ(1840-1926)などの印象派の画家たちと交流があった。1984年には、パリのサロンに出展した『マダムXの肖像』という肖像画(メトロポリタン美術館蔵)によってスキャンダルに巻き込まれた。人妻を描いた作品として官能的に過ぎ、品格に欠けるとされた(今日の評価では、取り立てて問題ではないとされる)。こうした紆余曲折はあったが、サージェントは肖像画家としての地位を確立した。晩年は水彩風景画を主として制作。
サージェントは、ディエゴ・ベラスケスなどからの影響を受けたことで知られる。実際、1879年サージェントがプラドを訪れた折、画家はベラスケスの《ラス・メニーナス》の詳細な模写を行い、それをパリのアトリエへ持ち帰っている。
この作品は友人ボイトの4人の娘を、ボイト家のパリのアパートで描いたといわれる。集団肖像画といえる範疇に入るが、4人の娘たちのキャンバス上の配置に大きな配慮がなされている。
この作品が初めて公開展示された時には、ヘンリー・ジェームズなどの当時の批評家たちが、ベラスケスの影響を受けていると指摘している。2010年にはボストン美術館がこの作品をプラド美術館に貸し出し、ベラスケスの《ラス・メニーナス》と並べて展示した。
4人の子供たちは同じピナフォー(子供用エプロン)姿で描かれている。4歳のジュリアが床上に、8歳のマリア・ルイーズが左側に立ち、12歳のジェーンが背後に立ち、14歳フローレンスが陰に入りながらも描かれている。それぞれの子供たちの性格が微妙に描かれているといわれる。成長過程にあるそれぞれの自律性がうかがわれる。例えば、背後に描かれた年長の二人の姿や表情には先が分からない未来に対する不安や成熟の程度がうかがわれるとされる。ちなみに、後年この4人の娘たちのいづれもが結婚することなく、年長の2人は情緒不安定に悩まされたといわれる。
1919年、4人の姉妹はこの絵を父の思い出のために、ボストン美術館へ寄贈した。
ちなみに作品画面の後方に置かれた大きな花瓶(有田焼と思われる)は、ジャポニズムの影響と考えられる。これも作品とともに美術館へ寄贈された。
このブログでは、この画家の別の作品も紹介しています。
《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》1885-1887年、テート・ギャラリー、ロンドン さらに、サージェントのアメリカ印象派としての位置づけについても記している。
《カーネーション、リリー、リリー、ローズ》1885-1887年、テート・ギャラリー、ロンドン さらに、サージェントのアメリカ印象派としての位置づけについても記している。
このQuiz、いかがでしたか。2問目のサージェントは少し難しかったかもしれません。幸いブログ筆者はご贔屓の画家であったので、正解できましたが。