MASTER PIECES
コロナ禍で社会的な閉塞感が強まる中で、多くの時間を室内で過ごす人が増えている。そうした人たちにとって、格好の気晴らしの材料となるかもしれない一冊の本を紹介したい。
Thomas Hoving, Master Pieces: The Curator’s Game, W.W. Norton, New York, N.Y., 2006
コロナ禍で社会的な閉塞感が強まる中で、多くの時間を室内で過ごす人が増えている。そうした人たちにとって、格好の気晴らしの材料となるかもしれない一冊の本を紹介したい。
Thomas Hoving, Master Pieces: The Curator’s Game, W.W. Norton, New York, N.Y., 2006
美術館学芸員のパズルゲーム
この本、作られた背景が興味深い。ニューヨークのメトロポリタン美術館のさまざまな絵画部門の学芸員が毎週1回、特別に長く設定されたコーヒー・ブレークの時に、それぞれが多数の絵画の部分(断片)の写真を持ち寄り、それがどの作品の部分であるかを当てるゲームである。勝者はその週のコーヒー代がタダになる決まりのようだ。
学芸員は仕事柄、作品の細部にわたり、仔細に調べ検討するのが日常になっている。少なくとも自分の専門領域の作品については、精密に調査研究し熟知していると自負している。ゲームに提出される断片は2枚(容易な部分と難しい部分)であり、提示されるのは有名作品ばかりでなく、それほど有名でない絵画作品もある。対象とする時代は13世紀から現代にわたり、専門の学芸員でもかなり頭を使うようだ。本書はこれまでゲームに使われた素材の中から、一般的な57点を選んでパズル・ゲームブックの形としたものだ。
この本、作られた背景が興味深い。ニューヨークのメトロポリタン美術館のさまざまな絵画部門の学芸員が毎週1回、特別に長く設定されたコーヒー・ブレークの時に、それぞれが多数の絵画の部分(断片)の写真を持ち寄り、それがどの作品の部分であるかを当てるゲームである。勝者はその週のコーヒー代がタダになる決まりのようだ。
学芸員は仕事柄、作品の細部にわたり、仔細に調べ検討するのが日常になっている。少なくとも自分の専門領域の作品については、精密に調査研究し熟知していると自負している。ゲームに提出される断片は2枚(容易な部分と難しい部分)であり、提示されるのは有名作品ばかりでなく、それほど有名でない絵画作品もある。対象とする時代は13世紀から現代にわたり、専門の学芸員でもかなり頭を使うようだ。本書はこれまでゲームに使われた素材の中から、一般的な57点を選んでパズル・ゲームブックの形としたものだ。
この本を使ってのゲームの楽しみ方は、色々考えられているが、普段使わない脳細胞の部分を活性化させてくれ、美術の愛好家、専門家といえどもかなり手こずる難題もある。初心者から専門家まで、それぞれに新しい視点や知識を得ることができるユニークな試みである。これを手がかりに皆さんもそれぞれ標本を持ち合い、ティータイムを楽しむこともできるでしょう。
ひとつの例を紹介してみよう。
本書の表紙に空けられた下掲の3つの窓の絵は、誰のなんという作品の一部だろうか。
答は:
Sandro Botticelli (Firenze 1445 -1510)
《La Primavera 春》
1482 circa, Tempera on wood, 126 x 82in (314 x 203cm)
Uffizi, FLORENCE
サンドロ・ボッティチェッリ
春(ラ・プリマベーラ)(La Primavera)1482年頃
《La Primavera 春》
1482 circa, Tempera on wood, 126 x 82in (314 x 203cm)
Uffizi, FLORENCE
サンドロ・ボッティチェッリ
春(ラ・プリマベーラ)(La Primavera)1482年頃
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N,B,
サンドロ・ボッティチェリほど視覚的に甘美な作品を描いた画家はいないといわれる。15世紀後半の初期ルネサンスで最も業績を残したフィレンツェ派を代表する画家。明確な輪郭線と、繊細でありながら古典を感じさせる優美で洗練された線描手法を用いて、牧歌的で大らかな人文主義的傾向の強い作品を手がけた。当時、フィレンツェの絶対的な権力者であったメディチ家から高い信用を得る。
サンドロ・ボッティチェリほど視覚的に甘美な作品を描いた画家はいないといわれる。15世紀後半の初期ルネサンスで最も業績を残したフィレンツェ派を代表する画家。明確な輪郭線と、繊細でありながら古典を感じさせる優美で洗練された線描手法を用いて、牧歌的で大らかな人文主義的傾向の強い作品を手がけた。当時、フィレンツェの絶対的な権力者であったメディチ家から高い信用を得る。
この画家は1444年フローレンスに生まれ、生涯をその地で過ごした。フィリッポ・リッピとアンドレア・ヴェロッキオに師事したが、彼の作品はより彫刻的で直線的といわれる。
1470年、フィレンツエの商業裁判所に作品名「剛毅」を描き好評を得たのがきっかけとなりメディチ家と生涯に渡りつながりを結ぶこととなる。以後、上層階級の市民を次々にパトロンとし画壇の寵児となる。1481年にはローマに呼ばれシスティーナ礼拝堂の壁画制作に携わる。同年代には《ラ・プリマベーラ》や《ビーナスの誕生》など神話を題材にした名作を制作した。
しかし、1490年ごろからメディチ家や富豪の腐敗政治に批判が集まるようになりボッティチェリのパトロンたちの没落が始まると作品の制作依頼もなくなり、そのうえフランス軍のイタリア侵攻などフィレンツェの黄金時代は急速に衰退した。
晩年のボッティチェリは人気が急落し、暮らしが極端に貧しくなり画業をやめるにいたり、孤独のうちに死去。
本作に描かれる主題は、≪ヴィーナスの王国≫と推測されているが、その幾多の画家が描いてきた三美神の描写は、ルネサンス期の絵画作品の中でも特に優れており、卓越した表現や図像展開からルネサンスを代表する三美神として広く認知されている。
本作に描かれる主題は、≪ヴィーナスの王国≫と推測されているが、その幾多の画家が描いてきた三美神の描写は、ルネサンス期の絵画作品の中でも特に優れており、卓越した表現や図像展開からルネサンスを代表する三美神として広く認知されている。
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もうひとつのパズル断片を紹介しよう。これは誰の作品の一部でしょう。これが分かれば、かなりの風景画通といえるでしょう。
ヒント:この風格ある建物は風景画家の作品に描かれており、画家は印象派が生まれる以前にイーゼルを野外に持ち出し、細部の仕上げは屋内で行っていた。
答は:
John Constable, 1776-1837, English
Wivenhoe Park, Essex, 1816
Oil on canvas, 23.5 x 19.5 in (56.1 x 101.2 cm)
National Gallery of Art, Washington D.C.
この作品の依頼者はこのパークの所有者であり、画家の父親の親しい友人であったフランシス・スレーター・レボウで、コンスタブルの最初の重要なパトロンとなった。コンスタブルは1812年にレボウ夫妻の当時7歳の娘の肖像画を描いている。邸宅は、遥か遠くの森の中。
いかがですか。今回紹介したのは平易な部類。美術マニアを自認する方でもかなり手こする問題もありますよ。
続く