今回の旅の途上、パリで宿泊したホテルは、サン=シュルピス広場の近くであった。部屋数も少なく、表通りから引っ込んでいて概観もまったくホテルらしくないところが気にいって、10数年前からここに決めていた。ところが、例の「ダビンチ・ブーム」が起きて、この辺りのホテルは星が増えるなど、グレードアップしたところが目立つようになった。競争も激しくなったのか、インターネット・サービスを始めとして設備や内装が改善されたのは喜ばしいが、宿泊料もかなり上がったので痛し痒しである。
国立中世美術館(クリュニー館)Musée National du Moyen Age, Hôtel de Cluny が眼と鼻の先なので、久しぶりに出かけてみた。内外装ともかなり改装されて、全体に非常にきれいになり、一段と整備・充実した感じがする。
この美術館をすっかり有名にした「一角獣を連れた貴婦人」のタビスリーも、展示室の表示や照明も新しくなって、10数人の子供たちが座って先生の説明を聞いていた。海外の美術館では良く見かける光景である。子供たちも自然に楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。 美術館が教育の中に溶け込んでいる。フランスの美術館では、小、中学校などのグループ鑑賞を積極的に歓迎しているところが多い。特別展で長い行列ができていたギメ美術館でも、別の入り口からかなりの数の小、中学生を受け入れていた。
それでも、このクリュニー館の場合は、混んでいるという雰囲気には程遠い。ほとんど誰もいない展示室もある。外観同様に地味な美術館である。 この美術館、もともと外壁は石造りだが、内部には多数の木材が使われており、親しみやすい。ステンドグラスだけの部屋もある。各地の聖堂から集められた断片が展示されているが、聖堂で見るのと違って近くで楽しむことができる。
この美術館の展示物は、タピスリー、彫刻、ステンドグラスだけでなく、当時の民具のようなものまで含んでいて幅が広いので、肩がこらず親しみやすい。なにげなく置かれている展示物にも、色々なことを考えさせられる。
タピスリーの話は長くなるので、別の機会にするとして、小さな感想をひとつ。見ている人は少なかったが、このアダム像(1階ca.1260)、なかなか素晴らしいと思った。13世紀の作品で、かなり修復の手が加えられていると思われるが、大変洗練された美しいフォルムである。すこし女性的でひ弱な?アダムだが、背景の壁とも良くマッチしていた。
出口のところにある井戸も良く見ると、なかなか趣があった。ガーゴイルも時を経て風化を重ね、いい表情になっている。この井戸は、クリュニー修道院長の邸宅で使われていたのだろうか。たまたま届いたばかりの書籍「中世の都市の一日」*の中に、市民が井戸を使っている光景を描いた一枚がある。井戸は中世都市の公共設備の中でもきわめて重要度が高いものであった。この井戸はどのように使われていたのだろうか。時代のテープをまき戻して見たい気がする。ここは、サン・ジェルマン・デ・プレ界隈の賑わいから切り取られたような別世界である。
Photos : Y.Kuwahara
* Chiara Frugoni, Arsenio Frugoni (Introduction), William McCuaig (Translator) A Day in a Medieval City. Chicago: University of Chicago Press, 2006.
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