1冊の本をめぐり買うべきか、買わざるべきか迷っている。ご存じのダ・ヴィンチ物である。しかし、あのダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』ではない。これはすでに読んでしまった。
悩みの種は、2003年にドイツの著名な美術出版社「タッシェン」TASCHENが刊行した
Leonardo da Vinci - The Complete Paintings and Drawings
Zöllner, Prof. Dr. Frank / Nathan, Dr. Johannes
Hardcover, 29 x 44 cm (11.4 x 17.3 in.), 696 pages
という大変な作品集である。ブームに便乗した安易な作品紹介や解説本ではまったくない。とにかく、これがよく書籍の体裁に収まったものだと思わせるすごい出来栄えである。現代に再現されたダ・ヴィンチの完璧な作品集である。最初、予約見本をロンドンの書店の店頭で見た時に驚嘆した。その後日本語版も出版された。とにかく、その圧倒的な迫力に押される。(今回にかぎらず、「タッシェン」の出版物は、大作が多い。)
内容はいうまでもないが、まず書籍としての大きさがすごい。特大LLX版のハードカバーでサイズは、29 x 44 cm、696 pages という驚くべきものだ。これが書籍かと思わせる圧倒的なヴォリュームである。この迫力は実物を目前にしないと伝わってこない。手持ちの書籍で匹敵するものはないかと見回したが、一冊本では、The Random House Encyclopedia, 1993 が目についたくらいである。しかし、これとても、このダ・ヴィンチ作品集には到底及ばない。厚さはかなりあるが、体積では半分以下といってもよい。The Random House がこの一冊本の百科事典をやめてしまった理由の一つに、書籍としてこれ以上大きくできないという判断があったといわれているから、とにかくすごい。
陋屋のやわな書架では到底大きさ、重量ともに耐えられず、この天才の作品集に適した置き所がない(重さは10kgあるからうっかり足の上にでも落としたら、骨折は疑いない重さである)。机の上に置いたらそれだけで大きな空間を占めてしまい、仕事にならない。体裁はこの通りだが、内容はいうまでもなく、圧倒的にすごい。十分ベネフィットがコストを上回るお買い得であることは明らかである。ダ・ヴィンチの愛好者にとっては、一生あきることのない得難い伴侶となることは間違いない。
3部構成で編集されており、第1部は10章から成り、手紙、日記、契約書、書類を通したダ・ヴィンチの生涯と仕事の詳述、第2部は画家の全絵画作品を掲載している。それも現存する作品ばかりでなく、消滅した作品まですべて網羅している。それぞれの作品の保存状態まで記されており、天才の世界をゆっくりと見ることができる。第3部は素描、ドローイング、スケッチなどを掲載している。ドローイングの半数近くは、ウインザー城が所蔵する作品で、初めて印刷・公刊を認めたきわめて貴重なものである。アマチュアにとっても、見ているだけで大変楽しいし、あきることはない。
結局、魅力にひかれて近く入手することになりそうだが、さてどこに置こうか。