時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

久しぶりのアシュモリアン(2)

2005年09月22日 | 絵のある部屋

J.F. ルイス、「マンティラをまとったスペイン少女の肖像」
 

John Frederick Lewis, Head of a Spanish Girl Wearing a Mantilla, ca. 1838,Presented by Prof. Luke Herrmann through the National Art Collections Fund (from the Bruce Ingram Collection), 2002  

  世界屈指の学術都市だけに、オックスフォードの芸術的環境も大変素晴らしい。そのひとつの中心がアシュモリアン美術館である。かつては「ユニヴァシティ・ギャラリー」と呼ばれていただけに、大学との関連は深い。美術、博物の研究者にとっては垂涎ものの展示物も多い。

  一部の特別展示などを除くと、観客の数は少なく、静かな環境で作品鑑賞ができる。前回紹介したウッチェロの「森の中の狩」なども、同美術館の誇る展示物のひとつだが、特に人だかりなどがあるわけではない。絵の前にある長いすに座ってゆっくりと鑑賞することができた。
 
  ひとつひとつ見てゆくと、小品ながら思いがけない大家の作品などがさりげなく展示されている。エル・グレコ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロなどの作品に出会い、ここにあったのかと認識を新たにすることも度々である。 

  ここで紹介するイギリス19世紀の画家J.F.ルイスの「マンティラをまとったスペイン少女の肖像」も、アシュモリアンの所蔵する隠れた名品である。18世紀末から19世紀初めにかけて、美術家のエキゾティックな対象への関心は高まった。John Frederick Lewis (1805-1876) もカイロに10年近く住み、オリエンタリズムへの関心に支えられた多くの作品を残した。特に、ルイスの作品には日常接する人々や情景を描いたものが多い。

  とりわけ、1833-34年、スペイン旅行の際に描いたスケッチや水彩に印象に残る作品が見られる。この作品はルイスがスペイン旅行から帰って4年後に、セヴィリアの少女を描いた同様な構図のリトグラフ(Sketches of Spain and Spanish Character,1836)からインスピレーションを得て、描いたものである。

  画家が少女の顔の部分について大変細部にこだわって描いた美しい作品である。頭部は黒いレースのヴェイル(マンティラ)で覆われ、17世紀のヴェラスケス、ムリリョ、スルバランなどの作品を思わせる雰囲気が漂っている。これまでもアメリカを含めて、海外からもたびたび出展を望まれた作品である。

  マンティラは教会の礼拝や往復などにまとうことが多く、宗教的な背景を感じさせる。 彼女の衣装は現代スペインに近いとはいえ、イスラーム世界、そして遠いキリスト教の過去へのつながりを思わせる。


Image: Courtesy of the Ashmolean Museum, Oxford

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