時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

外国人労働者政策の破綻

2005年02月28日 | 移民政策を追って
 『朝日新聞』(2005年2月28日夕刊)一面で、坂中英徳法務省東京入国管理局長は、朝日新聞社のインタビューに応じて、入国した外国人女性が実際には資格外のホステスになっている事態について、「政府が問題を放置したほか、業界や政治家などの圧力で入管行政が弱腰になったことが原因」との見解を示して、注目を浴びている。95年に自らが調査に携わった店の9割以上で資格外活動などがあったという事実まで明らかにしている。
 興行ビザが不法就労の隠れ蓑になっていることについては、すでにフィリピン人女性の日本への出稼ぎが多くなった1980年代末頃から、たびたび指摘されてきた。筆者から見ると、当の入管行政の責任者の発言であるだけに、他人事のような感じがする。自ら設定した目的を実行できませんと放棄しているようなものである。入国管理局長があえてこうした「勇気ある発言」?に踏み切った理由には、政治家の圧力など色々事情もあるらしい。
 しかし、少し視点を変えてこの問題を考えてみると、やはりおかしい。日本の外国人労働者(移民)政策の立案、実施の責任は、いったいどこにあるのか。たとえば、筆者は日本の外国人労働者にかかわる「問題」は、出入国管理の段階あるいは就労の場での問題に限定されず、人権、住宅、教育、犯罪など外国人労働者が持つ人間としてのあらゆる属性、活動領域を包含する「社会的次元」にまで拡大していることを早くから指摘してきた(たとえば、花見忠・桑原靖夫編『あなたの隣人外国人労働者』東洋経済新報社、1993年)。そして、現在の縦割り行政を前提とした関係省庁合議システムでは、複雑・多様化した実態に、有効かつ適切な対応はできないとした上で、総合的に政策設定が可能であり、多様化する事態に的確に対応しうる主管官庁の設置を提唱してきた。
 日本の移民(外国人労働者)政策をみると、外国人労働者の入国管理や犯罪対応の次元だけが目につき、その他の社会的活動次元での実態や対応は、ほとんど国民の目に入ってこない。フィリピン人看護師・介護士受け入れの決定にしても、現在のままでは本来ならばフィリピンが必要とする看護師・介護士などが高給に惹かれて国外流出するばかりで、自国の発展のために環流する仕組みは構想されていない。すでにフィリピンの医療・看護水準は劣化がひどいことが判明している。
 日本は少子高齢化に移民の力を借りるべきかという重大な政策についても、現行体制では到底国民の合意が得られるような検討は出来ない。移民受け入れはまさに国家百年の計に立つべき検討課題なのである。検討すべき課題はきわめて多く、なし崩し的に受け入れるような問題ではない。政策の検討・意思決定主体が定まらず、政策の統合度が感じられなくなっている。基本政策の抜本的検討と再設計が必要なことはもはや明らかである(2005年2月28日記)。
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