初夏を思わせる一日、『ボストン美術館展』 *へ出かけた。出展される作品については、概略は知っていた。ボストン美術館が一部改装を実施するため、その間所蔵品の一部を海外などの美術館へ貸し出すことにしたため実現したとのこと。オルセー美術館も同様な事情のため、通常では貸し出されない作品が館外へ出るとのことだ。『棚からぼた餅』のような話ではあるが、結構なことだ。貸し出される作品には日本人が好む印象派の作品が多いため、今年は便乗派?も含めて日本中に印象派の文字が溢れる。
今回の展示は、かなりの作品がどこかで見たことがあるものだった。かなり著名な作品が含まれていることでもある。ここも印象派の作品が多い。 せっかくの機会だから、もう一度確認してみたいと思う作品がいくつかあった。17世紀オランダの画家ヘンドリック・テル・ブリュッヘンなど、オランダ画家の作品である。このブログでも紹介したことがある。 印象派マニアの日本人にはほとんど人気がなく、画家の名前さえあまり知られていない。案の定、テルブリュッヘンの作品の前には幸い?誰もいなかった。
テルブリュッヘンは、ユトレヒト・カラヴァジェスキ、3人組(バビューレン、テルブリュッヘン、ホントホルスト)のひとりである。展示されている『歌う少年』も一見して楽しい作品だが、とりたてて深い意味があるわけではない。しかし、バビューレンも同じ主題で描いているように、当時は人気のテーマだったようだ。白と黒が多い17世紀オランダの服装からすれば考えられない、明るく華やかな色合いである。衣装のひだも陰影豊かに描かれている。茶、緑、白の配色が美しい。なんとなく南国の雰囲気を漂わせている。いうまでもないが、バビューレンは長らくイタリア、ローマで画業生活を送り、故郷ユトレヒトへ戻ってきた。明るい光のみなぎるイタリアの画風を、故郷で試そうとしたのだろう。見ていて心のなごむ作品である。
出展された80点の作品は、次のような区分で配置、展示されていた。
I 多彩なる肖像画
II 宗教画の運命
III オランダの室内
IV 描かれた日常生活
V 風景画の系譜
VI モネの冒険
VII 印象派の風景画
VIII 静物と近代絵画
何の変哲もない区分だが、主催者の自主的構想、企画に基づく特別展ではないので、しかたがないだろう。区分と内容が十分対応できていない部分もある。
ただ、本展カタログについては苦言をひとつ。作品の説明にばらつきが多すぎることだ。ファンの多い印象派の作品は、それなりにページが埋まっているが、その他の画家についてみると、作品解説部分のページに空白部が目立ち、大変残念な気がした。解説ページの半分から3分の1が白紙という作品がかなりある。「歌う少年」にしてもページの半分は白紙状態だ。比較のために、ボストン美術館からこの作品を借り出し展示した Städel Museum のカタログで、同じ作品部分を参照したら、しっかりとページ一杯に有益な情報が詰まっていた。あまりの違いに唖然とする。
他方、今回の展示ではカタログの表紙だけは、3種類の中から選べる仕組みになっている。カタログを購入するほどの愛好家にとって、作品解説はきわめて重要な情報源のひとつであり、鑑賞の楽しみでもある。カタログを読み終わって文字通りしらけた思いだった。
「ボストン美術館展:西洋絵画の巨匠たち」森アーツセンターギャラリー