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穴を埋めることこそ仕事

2013年10月24日 | 読書
 『養老訓』(養老孟司 新潮文庫)

 久しぶりに養老センセ(そんな感じ)の本を読もうと、この文庫を買った。それにしても絶妙なネーミングだ。貝原益軒の『養生訓』であることは誰しもわかる。それでいて紛れもなく著者の本。講演によく存在する「三列目の不機嫌じいさん」にならないための処方箋?であることが、ページを開くとすぐわかる。


 養老節という語りのイメージは相変わらずで、様々な視点から刺激を与えていただく。「実は人が手をつけていない穴はあちこちにあります。探せば見つかります。その穴を埋めることこそが仕事なのです」こんな仕事の定義は聴いたことがない気がする。しかし、それは自分の日常であっても同じかと深く頷く。


 そこを詳しく言っているのが次の文章だ。「仕事というのは世の中からの『預かりもの』です。歩いていたら道に穴が空いていた。危ないから埋める。たまたま自分が出くわした穴、それを埋めることが仕事なのです」自分が先にあるようじゃ、まだまだじゃのう…と言われている気分。穴は目の前にいくつもある。


 「養老」なので、幅広い年齢層を主たる読者に想定していないと思うが、鮮やかな切り口で語る文章もある。「個人が『こうしたら効率よく儲かる』ということを第一にして動くと、社会システム全体の効率は非常に悪くなるのです」今の世の中の流れに、居心地の悪さを感じてしまう原因の本質をついていると思う。


 養老に向かう齢に近づいて、今後いくつ穴を埋められるか、と考えがちだが、その思考自体が「三列目の不機嫌じいさん」につながるかもしれない。「世間」をよく見て「」をわきまえて、淡々と仕事をこなす。出来なければ「仕方ない」。ずどんと響く一節がある。「貯金より体力。これは間違いありません