和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

曙覧拾遺歌。

2011-01-22 | 詩歌
岩波文庫「橘曙覧全歌集」をパラパラですが読了。
私に以外や、たのしかったのは、p271からの「橘曙覧拾遺歌」。
そのなにげなさの歌を並べてみます。


  いなか店 むしあがりたる 八里半
   ぽぽうぽぽうと 山ばとのなく

  文庫注には、
 八里半 ―― 焼芋。味が栗(九里)に近いことから。

  くれなゐに 身のそまるまで 血すふ蚊の
      はてはおのれと おちて飛びえず

  文庫注には
   はてはおのれと ―― 終極は我が身の最後となって。

 風にちる 花かとばかり 見し蝶(てふ)の
       行くへうしなふ すずな園かな

 夏の夜も やや明けおそく なるなへに
       光うすれて 飛ぶ蛍かな

  文庫注には、
   なるなへに ―― ・・・と同時に。・・につれて。

 ゆふかけて 臼つくならし 小田ごしの
     一むらさとに 物おとのする

   文庫注には
    ゆふかけて ―― 夕方にわたって。
    臼つくならし ―― 臼をついているらしい。


   おいぬれば 今日も物うし 日に三たび
        むかしは見つる かがみなれども

    文庫注には
    物うし ―― 気が進まない。おっくうだ。


  小夜中と 更け行くままに 数そひて
      音をも立つべく 飛ぶ蛍かな

  久方の 星の光に あらそひて
       更け行く空に 照る蛍かな

  炭やきに きりもらされし 梅のみは
       はなも見せけり 小野(おの)の山ざと

  夏の夜も しののめ寒く おもほえて 
      かきねかきねに 見えつ朝がほ

   文庫注には
    しののめ ―― 東雲。夜明け方。暁。

  山をこえ いはねをつたひ かはにそひ
       あやふかりける 旅のみちかな

  門(かど)ごとに 網かけほして 人もなし
          あさなぎつづく 海づらの里

  いなむらに すがるいなごの 飛びちがふ
       門田(かどた)はあすも 日よりなるべし

    文庫注には 
     日より ―― 良い天気。

  むら雀 軒端をめぐる さひづりも
      花ある春は 声ことにして




そのままに、現在の田舎の風景を詠んでいるのじゃないかと
そんなことを思いながらの引用。
それにしても、虫や小動物。
たとえば、蚤、蚊、蛍、蝉、いなご、山ばと、雀、蛇などが
何気なく。そう象徴という意味でなくて、さりげなく眼差しに印象に残るかたちで登場すると、いつのまにか自分もそこにいるような気分となり、ハッとさせられます。そのままに、現代の新聞の歌壇に載せてもらっても、おかしくないですよね。
コメント
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