私の映画玉手箱(番外編)なんということは無い日常日記

なんということは無い日常の備忘録とあわせ、好きな映画、韓国ドラマ、そして
ソン・スンホンの事等を暢気に書いていく予定。

聖なる復讐者

2023-05-23 21:14:05 | 映画鑑賞

双子の弟を殺した犯人に復讐すべく、自ら事件を起こし犯人と思われる少年たちが収監されている少年院に自ら入る道を選ぶ兄。

「クリスマスにフライドチキンを食べたい」という夢さえも叶えることなく亡くなった弟。自分たち兄弟も住んでいる場所を追い出される危機にありながらも、同じような境遇の者たちに拳を振り上げる事で日々の糧を得ていた兄。

確たる証拠はなくとも、不良少年グループの面々は、普段から少しのんびりした弟に対して暴力を振るっていたのだ。自分も彼ら同様に弟を邪険にしていた事への罪悪感と、たった一人の肉親をそんな風に失ってしまった悲しさから、自暴自棄とも思える行動に出る兄。

少年院の中にも現実社会と同様のヒエラルキーが持ち込まれている。
親の財力がそのまま少年たちの力関係にも影響し、そこからくるひずみは、少年院の中でも力のない者へのいじめになって現れる。しかし閉鎖された空間の中では金が全てでもない。財力がなくても肉体的に圧倒的なパワーでヒエラルキーの頂点に登り詰める者もいる。
それぞれのパワーが複雑に絡み合い、そこに彼らを管理する教師たちの力関係も加わる。

更生機関であるはずの場所は、傷口を更に広げ、その傷を癒す機会させも与えない場所になっているのだ。

*******

韓国映画らしいと言ったらいいのか、とにかく重く、見せずともいいと思うような描写も、とにかくねちっこく描く。その恐ろしい程のパワーには敬服せざるを得ない。弟を殺したのは誰なのかという犯人捜しはストーリーの重要な部分を占めるはずなのだが、その実、ミステリー部分についてはあまり重きを置いていないようにも思える。薄っすらと犯人は誰だか予想が付き、その事実を受け入れるのにも、非常にパワーが必要なのだ。

******

双子の兄弟を演じるのはパク・ジニョン。二役故出ずっぱりである。そして重い題材だ。演じる上でも相当のパワーが必要だっただろう。

 


MEMORY メモリー

2023-05-16 21:19:53 | 映画鑑賞

「殺し屋」に依頼された仕事を断るという選択肢はない。依頼された仕事を断るということはイコール自分の死を意味することなのだ。殺しは成し遂げられてこそ秘密裏に葬る事が出来る。そうでなければ、どこからか綻び始め、秘密が守られる事はない。

齢70を超え、記憶障害から自分の引き際を感じた殺し屋が最後に受けた仕事は、寝ている少女の殺害だった。しかし殺しを生業にしているからこそ、自分で決めた一線を越えたくない男は断るという究極の選択をする。殺し屋を生業にしている者は引退の時期が難しい。期せずして自分の引退を懸けて殺し屋としての矜持を守ることになるのだ。

*****

アクション映画を好きで沢山見て来た私にとっては、演じるリーアム・ニーソン自身の選択、「アクションスターとしての最後をどんな風に観客に見せるべきなのか?」その一つの答えを見せて貰ったような気持ちになる。勿論これが最後の答えではなく、又別の形で最後に向けての姿を見せてくれるとは思う。ただ消えゆく記憶を少しでも残そうと腕にサインペンで殺しのルールを書き込み、殺しの現場に向かおうとする姿は、映画の中の姿とはいえ、なんとも感慨深い。

FBI職員役のガイ・ピアース、不動産王として街に君臨する富豪を演じるモニカ・ベルッチ。二人の演技も私にとっては渋く味わいのあるものだった。

*****

ミステリー作家 ジェフ・ヒーラールツの小説が原作。2003年にベルギーで映画化されているようで、そのリメイク作品との事。ラストの描き方は意見の分かれる所だと思うのだが、小説が原作と聞いてあの描き方に納得する。

 


EO イーオー 

2023-05-05 20:38:57 | 映画鑑賞

赤いライトが不規則に点滅し、重厚さを感じさせる音楽になぜか不安な気持ちを掻き立てられてる。そんな風に始まる映画は、サーカスで一緒に舞台に立つ女性からEOと名付けられたロバの瞳を何度も覗き込むようにして進んでいく。

サーカスで女性と一緒に舞台に立つロバのEO。彼女はEOに愛情を注ぎ、EOもそれに答えるも、動物愛護団体からは虐待と訴えられEOは牧場に引き取られる。EOの流浪の旅が始まるのだ。

牧場の中に居れば世話はしてもらえるが、人間の関心は荷物を運ぶだけのEOより競走馬に向けられる。おとなしくしているだけのEOだったが、サーカスで愛情を注いでくれた女性が牧場に会いに来てくれた事をきっかけに、静かに牧場の外に出ていくのだ。

牧場から出て夜の森をさまようEOの目が何度も大写しになるものの、EOは周りで起きる全ての事をそのまま受け入れるだけだ。捕獲されサッカーの試合で勝利の女神と勝手に持ち上げられ、負けたチームのサポーターに逆恨みされる。助けられてもその後はまた牧場で働かされる。更に売られていく途中、載せられたトラックがトラブルに巻き込まれた事で、通りがかった司祭に連れられ大きな屋敷に連れられて行く。その間、EOから強い意志が感じられる事はない。EOは自分の置かれた場所で常にニュートラルにその場に存在し続ける。

EOの目をのぞき込む視線、EOの目から見たその場の風景、その景色の中に静かに居続けるEOを遠くから見つめた視線。幾つもの視線が混在し、静かにそこに居続けるEOが浮かび上がる。

なんとも不思議な体験だった。

 


聖地には蜘蛛が巣を張る

2023-04-30 19:29:00 | 映画鑑賞

テレビニュースが、9.11アメリカ同時多発テロ事件を伝えている頃、イランのシーア派の聖地マシュハドでは暗い街の路地に立つことを生業にしている女性たちが殺される事件が頻発する。

そんな事件を追いかけるジャーナリストの女性が取材の為現地入りするも、その際、保護者(肉親の男性を指すのだろう)の同伴なく宿泊する事さえも苦労する。何人もの女性が殺害されていても捜査は遅々として進まず、被害者が街角に立つ女性であることから一般市民の同情は感じらず、逆に殺害は「街の浄化」であるとさえ目されるのだ。

犯人は街で家族とともに暮らす男性だ。家族が留守の日にバイクで夜の街に繰り出す。貧しさから来る生活苦で夜の街に立ち、厳しい生活環境から来る疲れを取るために麻薬にも手を出す女性を、自宅に連れ込み女性を殺害し街角に放置する。

それ以外はいたって普通の生活なのだ。何か大層な使命感に溢れているわけでもない。ただ、男性は自分がしている事が悪い事だとは思っておらず、それ故犯行も大胆だ。

歪んだ正義のエネルギーは、人々から一旦立ち止まって考える力を奪うようだ。犯人が捕まった後も世の中には彼の行動を肯定するかのような雰囲気が溢れ、息子も父親の行動をカメラの前で誇らしげに語る。

男性たちがそんな風に犯人の男性を英雄視する中、犯人の妻は「世の中はすぐに彼を英雄視したことを忘れてしまうだろう」と嘆く。歪んだ正義は移ろいやすく、その内容も検証されぬまま漂い、またどこかで同じような事が起こるのではないかと思わせる怖さがある。

****

監督はイラン出身でデンマークで活動するアリ・アッバシ。事件を追うジャーナリスト役はザーラ・アミール・エブラヒミ。

 


劇場版 TOKYO MER 走る緊急救命室

2023-04-29 21:01:50 | 映画鑑賞

鈴木亮平演じる救命救急医の喜多見が率いるMER(モバイル・エマージェンシー・ルーム)チームの物語の劇場版。

鈴木亮平の座長感がドラマの時以上に熱く燃え上がっているのが分かる。患者への声掛けは優しく、しかしメスを持つ手には一つの狂いもなく、手術中の医療用語の一つに一つにも感情が入りこみ・・・とにかくどの場面からも熱くメラメラとした情熱が伝わってくるのだ。

都知事肝いりの最新医療機器とオペ室を搭載した大型車両で事故現場に駆け付けるプロフェッショナルチームの成功を見た厚生労働大臣は、手柄の横取りを狙って「危険を冒しては、救えない命がある」と、TOKYO MERにはない冷静さで勝負するYOKOHAMA MERを立ち上げる。

非常に安易で姑息な「二匹目のどじょう作戦」。あまりにもわかりやすい展開にちょっと驚く。

しかしこの映画を観る多くの人は、「死者は... ゼロです!」という最後の言葉に予定調和を感じながらも、鈴木亮平演じる救命救急医の喜多見が率いるMERの良心と信念を見せるドラマにエンタメとしての楽しさを見出していたはず。この位の予定調和は織り込み済みのはずだ。勿論、ビルの火災シーンは映画館のスクリーンで見るに値するか?などと突っ込みを入れる必要はない。ビルの火よりも熱いMERの良心と信念の炎を信じて楽しく見る映画だから・・・


オオカミ狩り

2023-04-21 18:31:00 | 映画鑑賞
複数の凶悪犯達をマニラから釜山に向けてコンテナ船で移送する韓国警察の威信をかけたプロジェクトのはずだったのだが、映画は始まってすぐに阿鼻叫喚の渦に飲み込まれる。
移送される凶悪犯達は船を乗っ取る気満々で、警護の為に応援部隊として乗り込んだ面々もそんな凶悪犯達の息がかかった者達が複数紛れ込んでいるのだ。
外部と遮断されたコンテナ船の中だ。悪意を持った者達の方が何倍も有利に決まっている。

この映画の前に韓国映画のリメイクの「最後まで行く」の予告編を見たのだが、この映画もまさしく、最初から出し惜しみせずに、最後まで行ってやるというやる気満々の映画だった。
文字通り@出血大サービスの場面が途切れる事無く続く。ここまで血が出ているので、後はご想像にお任せしますという事は無く、もう最後の最後まで見せてくれるのだ。韓国映画の執拗さが遺憾なく発揮されている。
演じる俳優達も基本的に屈折した感情云々というのは無く、やらなければやられると船の中で銃を構えナイフを振り上げるのだ。
最高のB級アクション大作だ。ソ・イングクもソン・ドンイルも非常に楽しそうに演じている。

search#サーチ2

2023-04-16 19:56:46 | 映画鑑賞

2018年に公開された search/サーチ は、妻亡き後、娘を一人で育てる男性が高校生の娘が居なくなった事を知り、彼女のSNSにログインして手掛かりを掴もうとする話をパソコンの画面上だけで追っていく映画だったが、この映画の設定も同じだ。(search/サーチの監督アニーシュ・チャガンティ原案でsearch/サーチの編集を担当したウィル・メリックとニック・ジョンソンが監督)

ただ、今回はスピード感が前作に比べて倍速だ。前作は娘が戻ってこない事を心配した父親がデジタルデバイスの取り扱いに戸惑いながら捜索するストーリーだったが、今作は、デジタルネイティブ世代の高校生の娘が、新しい恋人と向かったコロンビア旅行から戻ってこない母親を捜索する。

検索サイト、チャット、各種SNS。。。。それらを瞬時に選択判断し、用途別に巧みに使い分ける。狙いが外れて思ったような検索結果が出なかった時のリカバリーの速さにも目を見張る。デジタルデバイスに振り回されず、自分が主導権を握って母を探そうとする強さが感じられるのだ。

映画を観ている私たちは捜索の全てを画面越しに眺める事になるが、その捜索はまるで刑事のそれと同じだ。現場に足を運べない彼女は、自分が使っている家事代行サービスがコロンビアでも営業していると目星をつけて、あっという間にサイトを見つけ出し、単価がお手頃な担当者を探し出す。嫌がる担当者と交渉してその中年男性の懐にサクッと入り込む。(コロンビアでの捜索を手伝う家事代行サービスの担当者を演じるのはヨアキム・デ・アルメイダ。遠隔地でありながら女子高生ジューンとのやり取りに生身の温かさを感じる。)彼の目を通して現場の状況を確認し、それでも足りないとなるとライブ配信カメラを探し出し、リアルタイムで現場の状況を確認しようとする。更に母の恋人の動向を調べる為に彼のパスワードを再発行してその行動パターンを探り、携帯の位置情報から母と恋人の足取りを追う。(FBIの捜査官を演じるダニエル・ヘニーに、その違法性を問われてもひるむ事はない。)彼女自身は動く事はないのに、そのフットワークの軽さは、足で情報を調べ、聞き込みを行う刑事そのものなのだ。

デジタルデバイスを使っても、謎を解く手法は手堅いので、サスペンスの面白さはたっぷり感じられるのだ。

 


AIR/エア

2023-04-09 20:11:13 | 映画鑑賞

1980年代、バスケットシューズのシェアではadidas、コンバースの後塵を拝する状況だったナイキがどのようにマイケル・ジョーダンと契約し、あのエア・ジョーダン人気を生み出す事が出来たのか。

ベン・アフレック演じるナイキの創立者フィルの友人ソニーを演じるマット・デイモンは中年男性らしい体形でバスケットもギャンブルも愛する男だ。その彼がナイキの起死回生の一手に選んだのはシカゴ・ブルズと契約を結んで間もないマイケル・ジョーダン。

adidasを愛するマイケルをどうやってナイキと契約させるのか。チーム@ナイキのメンバーは皆がプロとして一家言持つメンバーたち。それぞれがプライドを持ち丁丁発止とやりあいながら、やっと手に入れたプレゼンテーションのチャンスを逃すまいとする。

彼を納得させるストーリー作りとイメージ戦略。彼にナイキのシューズを履いてもらう事その事はまさにナイキのイメージ戦略なのだが、その彼に、そのイメージ戦略そのものが彼自身の夢と彼のキャリアに大事な事を理解してもらい、更に共感して貰う為に綿密な戦略が練られる。

プレゼンテーションの成功は事前準備があってこそというのが良くわかるのだが、最後の最後にマイケルを納得させるのはマーケティング戦略を超えたソニーの熱い思い。

結果がどうなるか分かっているナイキのマーケティング戦略を描いた映画が、胸熱のエンターテイメント映画になっているのは、チーム@ナイキのメンバーたちのキャラクターを自然に共感出来るものにまとめ上げた監督、ベン・アフレックの力があるのだろう。シューズデザイナーの言葉などは、一言一言に仕事を愛する気持ちが溢れており、「これぞプロ」とうなってしまう・・・・

*****

1984年当時のヒット曲もふんだんに流れる。あの当時を知る50代、60代の観客にはそれも胸熱ポイント。

 


生きる LIVING

2023-04-02 19:30:31 | 映画鑑賞

事なかれ主義で仕事を進めていた市役所の市民課に努める定年間際と思われる男性。自分が余命6か月と宣告されると、判で押したような毎日を見つめなおすのだ。

いつものように職場には向かわず、貯金を下ろして海辺の街に向かうも、何をやっていいかも思いつかない。偶然出会った作家に自分の睡眠薬を渡し夜の街での遊び方を教示されるも心は晴れないのだ。結局、元の職場に戻り、自分が先送りにしやり残していた事をやろうとする男性。

*****

1953年のロンドンの役所勤めの面々の日常の様式美に驚くばかりだ。仕立てだであろう背広に山高帽、雨の多いロンドンらしく手には長い雨傘を持ち、毎朝同じ時刻の電車に乗り込み無駄口は叩かずに同僚と職場に向かう。回って来た仕事は自らが調整するのではなく、別の部署にさりげなく周り、戻って来た書類は棚に積み上げる。波風を立てない事を美徳と考えているであろうことが分かる日常の過ごし方。

そんな彼が突然後回しにしてきた公園設置を実現させようとする。『ことなかれ主義』だったはずの上司の変貌に驚く部下たちに多くは語らず、ただすっかり変わった自分の姿を見せる彼。

*******

人生の終わりを前に、心残りを少しでも無くすべく公園の設置に尽力する。そして、ことなかれ主義が蔓延していた職場の中で一筋の明るさを示してくれた若い女性部下には自分の思いを吐露し、まだ職場の文化になじんでいなかった新人には真摯に仕事をする事の大切さを説こうとする。彼の最後の時間をそばで見ていた事で「もっと何か出来たのではないか・・・」と後悔の念を持ったかもしれない若い二人に彼が示したのは、最後に何かを成し遂げようとする自分自身の姿だったのだ。

自分のそんな姿を見せる事がかえって負担になると思った息子には何も言わず、自分の思いを分かってくれるであろう若い二人には自分の思いを告げて静かに去って行く。

人生の最後をどんな風に過ごしたらいいのか・・・涙しながら考える。

 

 


オットーという男

2023-03-23 21:33:35 | 映画鑑賞

毎朝、毎日、判で押したように近所の見回りをし、ルール違反があれば注意している初老の男性。父親と同じオットーという名前を持つその男性を近隣の住民たちはやや疎ましく思っているのだが、新しく引っ越して来た総勢4人の移民家族だけは違った。
縦列駐車もままならない人の好さそうな父親と、二人のかわいらしい女の子の母親であり3人目の子の出産を間近に控えた母親。

妻を亡くし、合併した職場での仕事に早々に見切りをつけたオットーは、全てに区切りを付けようとするのだが、4人家族の出現は彼の判で押したような日常に大きな変化を巻き起こす。断ってもグイグイ懐に飛び込み、断っても笑顔で再び彼に近づこうとする若い母親のマリソル。

天井から吊り下げるロープを準備するも、彼女が御礼に持ってきた湯気が立つ美味しいサルサを口にすれば、計画は変更となってしまう。
別の手段を考えても、美味しいクッキーを御礼に貰えば、またスケジュールは延期になってしまう。
文句を言いながらも、若い母親であるマリソルのペースに飲み込まれるオットー。

ご近所さんとしてのやり取りで、オットーの性格と4人家族の明るさは手に取るように分かる。
妻が寝ていたであろうベットの空いた場所に手を伸ばして目覚める場面等、口に出せない彼の心の隙間が伝わってくる。近隣の住民たちに対する口調の鋭さとは裏腹に、声にならない彼の悲しみの深さ。

明るいマリソルはそのオットーの気持ちを感じ、オットーも拙い英語で明るい口調のマリソルが教養にあふれた女性であることを知り、お道化た明るさで移民生活の辛さを乗り越えようとしている彼女の心の内を見るのだ。

見える物が全てではなく、見える物の裏にある心のひだを感じる映画だ。

 


刑事ジョン・ルーサー フォールン・サン

2023-03-18 21:13:44 | 映画鑑賞

犯人を捕らえる事に執念を燃やす刑事を邪魔に思った犯人本人が取った方法は、彼の弱みを手に入れ、その情報を使って彼を刑務所に放り込む事だった。捜査中のやり過ぎと思われる手法の数々が公のものとなり、職を失い収監される事になる元刑事のルーサー。

意味もなく失踪し、更に何かに怯えるように自ら命を落とす人々。彼らは何か弱みを握られ、その弱みが公になることよりも、自らの死でその秘密を守る道を選択するのだ。自らは手を汚す事なく、弱みを握った事で人をコントロールする姑息な手法で人々を支配する男。

ルーサーは、塀の中にいるにも関わらず犯人逮捕に異常な執念を燃やし続け、警察はそのルーサーを利用して犯人逮捕に結びつけようとするのだ。お互いにそんな駆け引きを行いながらも、犯人の手がかりを辿っていく。

*****

ルーサー自身の発する言葉は非常に短い。多くを語らず、自らに課している何かを重荷に感じている風でもある。そんな彼が脱獄を企ててまで犯人逮捕に執念を燃やすのだ。ストーリー故、夜の場面が多く、何が行われているか目を凝らさないと分からない。身を挺して犯人を捕まえようとする元刑事の行動の数々に否が応でも緊張感が高まる。

犯人は相手を情報で支配し、罪を犯させる事で更に支配力を高めようとする。警察内部でも犯人の手法はパラサイトと呼ばれるも、彼自身は他人をコントロールすることで自らの支配力を過信し、異常な喜びを感じているのだ。その手法は非常に怖い・・

*****

ドラマから派生した映画との事だが、私はドラマの存在をまったく知らず、見終わってからドラマの存在を知った次第。ドラマの存在を知らずとも楽しめるきっちりしたストーリーだ。

Netflixで鑑賞


第95回アカデミー賞

2023-03-13 21:35:20 | 映画鑑賞

下馬評通り、エブリシング・エブリウェア・オールアット・ワンスの圧勝と言っていい結果となったアカデミー賞。

第95回アカデミー賞 受賞者一覧

エブリシング・エブリウェア・オールアット・ワンスの作品賞を受賞はとても喜ばしい事だと思うが、映画の内容をカオスという単語を使わずに表すなら、パワフルという言葉がぴったりだろう。そのパワフルさ故に毒気に当てられたようなになる人もいるかもしれない。とにかくその勢いが凄い。

エブリシング・エブリウェア・オールアット・ワンス
*****

主演女優賞、助演女優賞、そして助演男優賞もエブリシング・エブリウェア・オールアット・ワンスの出演者が受賞したということは作品賞とはまたちょっと違う意味合いがあると思う。映画全体の様相はカオスを究めていても、それに対するキャラクター設定は、きっちりしていたということだろう。
行く先々のマルチバースの設定は各種あれど、そこでのキャラクター設定がはっきりしていたからこそ演じる俳優たちも役柄に集中し、それぞれのマルチバースにピッタリ合った振り切れた演技を見せる事が出来たのだと思う。

勿論、3人ともこれに至るまでの様々なキャリアがあっての受賞であることは誰もが認めるところだと思う。憑依したような演技で賞を手にする事もあれば、今回のような少し複合的な理由も相まって受賞することもあると思う。どちらも許容される雰囲気があっていいと思う。

主演女優賞を手にしたミシェール・ヨーは、日本のメディアでは、ジャッキーチェンとの共演や007のボンドガールについての紹介が殆どだと思うが、私はクレイジーリッチのヒットも今回の事に繋がっていたのではと勝手に思っている。
日本ではあまりヒットしなかったので話題にならないのかもしれないが、クレイジーリッチのヒットについてのインタビュー映像を見た時、ミシェール・ヨーはとても嬉しそうに映画について語り、「これがこれからに繋がる」という内容の話をしていた。まさにそれが繋がり、今回の受賞になったのだと思う。
****
出演した007の中でジェームス・ボンドに中国式タイプライターの入力方法を教える場面も出てくるように中華系と認識されている彼女。
しかしマレーシア系中国人の彼女は、中国語が話せても漢字は読めないと映画雑誌で読んだ事があるように記憶している。
彼女が活躍していた時代の香港映画は、台本の内容が事前に流出しアイデアが盗まれ先に同じような内容の映画が製作される事を恐れ、撮影当日にその日に撮る分の台本が手渡されるのみだったというのは、有名な話だ。私が読んだ記事は、彼女には口頭で内容が説明され、セリフを耳で聞いて覚えたという内容だったと思う。英語やマレー語等が使われる多民族国家のマレーシア出身の彼女らしいエピソードだと思う。

*****

長編アニメーション賞は、ギレルモ・デル・トロのピノッキオが受賞。

ネットフリックスを見られる人にはぜひお薦めしたい。


エブリシング・エブリウェア・オールアット・ワンス

2023-03-12 18:59:23 | 映画鑑賞

コインランドリーを経営し、父の介護をし、そして今時の娘の行動を理解し難いエブリン。夫は頼りなく、税務署には会計のずさんさを指摘され、心休まる時はないのだ。これ以上問題が起きても対応不能と思われる彼女に更なる問題が降りかかる。「僕は別のユニバースから来た。悪に苦しむ宇宙を救えるのは君だけだ」と、突然の夫からの告白。

*****

マルチバース(多元宇宙)は無限の可能性を秘めた世界だ。マルチバースには何人もの自分がおり、まったく別の人生を生きている。それらの力の自分にチャージして、悪を滅ぼす事が出来るのは、アメリカに西海岸でしがないコインランドリーを経営し、伝票の整理に追われる自分だと指名されるのだ。

マルチバースは、いくつもの「IF」を無条件に吸収し、別人の力をチャージするために必要なお下劣なおふざけも全て飲み込む。なるほど・・・・マルチバースは無限の可能性がある世界だと思わなければ、映画についていけない。少なくとも私は早々に「これはなんだ?と思ったらいけないんだ」と思い、とりあえず、全部を「なるほどね」と思う事にした。そして無限の可能性を秘めた世界の中で繰り広げられる家族の物語を楽しむ事にする。

*******

各マルチバースを渡り歩く際に各種の「IF」にかなりな情報量があり、なかなか字幕では全ての情報を入手する事が難しい。そもそもマルチバースに突入する前の家族のやり取りも、妻と夫は中国語(いわゆる普通語)と英語のミックス、介護が必要な父親の母国語はおそらく広東語、そして娘と恋人のやり取りは当然英語。それだけでも情報量が半端ないカオスだ。もともとの設定がカオスであるのに、字幕では処理しきれない細かい情報の抜け落ちが、更なるカオスを作り出しているではないかと思う。。。

*****

カンフースター、映画女優等等、何人もの彼女の姿はエブリンを演じるミシェール・ヨーのこれまでの出演作品に繋がっていく。これらも彼女が歩んで来た道なのだ。やや頼りない夫を演じるキー・ホイ・クァンの雰囲気、そして驚くような貫禄を見せるジェイミー・リー・カーティス。各種マルチバースを歩き渡る映像の中に彼らの歩んで来た歴史も観るような気持ちにもなる。

 

****

追記

主演女優賞を受賞した60歳のヨーは女性たちに「レディース、『あなたが一番輝ける時期はもう過ぎた』なんて誰にも言わせないで。絶対諦めないで」とスピーチ。

 


ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

2023-03-11 20:31:12 | 映画鑑賞

第一次大戦下のイタリアで息子を意味のない爆撃で亡くし、長い間悲嘆にくれたゼペットは、得意の木工細工で息子ピノッキオを作り出す。森の精霊により命を吹き込まれたピノッキオをゼペットは亡くなった息子と身代わりとして育てようとするものの、生まれながらに好奇心旺盛で独立心の強いピノッキオは何も知らずに元気いっぱいだ。

ピノッキオをカーニバルの目玉にしようとする男の口車に乗せられ、ゼペットが多額の違約金を支払わなくて済むようにカーニバル一座の一員としてイタリア各地を巡業するようになるのだ。

操られない操り人形として、一座の花形になるピノッキオ。演目は可愛らしくとも軍国主義の影が見える国威発揚目的で、明るい舞台とは裏腹に働きの悪いメンバーは影で体罰を受ける。ピノッキオが半分はゼペットの元に送られていると信じる稼ぎも、全て男の懐だ。それを知ったピノッキオは、ムッソリーニの前でわざと軍を貶めるような演目を明るく演じる。

生まれた頃は欲望のまま生きるわんぱく坊主だったはずのピノッキオが、ゼペットを想い働きに出、友人を庇い、搾取する雇用主に憤りを感じ、彼なりの反旗を翻す。更に少年兵たちを育てる目的でカーニバルで国威掲揚の演目を演じていたピノッキオ自身が、「不死身の少年兵」として育成されるのだ。

ストップモーションアニメの温かさがなかったら目も当てられないような不幸と苦しみの連続だ。それでも、嘘をつくと伸びる鼻を持ち、死なない木の身体で生き続ける。辻褄の合わない切ない人生を何とか乗り越えるべく、とにかく前に進むピノッキオの姿が何とも切なく可愛らしく思える。

 

 


第95回アカデミー賞 一映画ファンとしての希望的考察

2023-03-10 22:26:45 | 映画鑑賞

映画を観る事は単純に自分の趣味なので、上映前の予告編や映画館の受付に並べられているチラシを参考に観る作品を決める事が殆どだが、それだけでは選択肢があまりにも狭まってしまう。

様々なジャンルの映画、そしてある程度の本数を見る事で、自分の中の基準を持っておきたい気持ちがある。

そんな時にはにはやっぱり「○○賞ノミネート」「○○賞最有力候補」という宣伝文句は一つの指針にはなる。

海図のない大海原を無鉄砲に泳ぐよりも、誰かのアドバイスを聞いて、最近の映画界のトレンドに触れたり、そんなトレンドに惑わされず独自の道を行く監督作品の新作の情報を知る事も楽しい。

一映画ファンの私にとって、アカデミー賞はそんなガイドブックのような役割だ。勿論、100%純粋で公平なガイドブックなどというのはあり得ない事も良く分かっている。

映画業界人の人が好む映画、賞と親和性の高い題材等々・・・アクション、サスペンス、スリラー、ラブコメ等が好きな私にとっては、自らは選ばないジャンルの映画ばかりが並ぶ年もあるが、それでも色々な目安になってくれているのは確かだ。

今年のノミネート作品でいうなら、「イニシェリン島の精霊」は、たとえマーティン・マクドナーの作品であっても、ノミネートという言葉を聞かなかったら、私の好みとしては選ばないジャンルの映画だった。でも、観てよかったと思う。自分の思いもつかない世界に誘ってくれる不思議な映画だった。

「イニシェリン島の精霊」 エンパイヤ・オブ・ライト フェイブルマンズ

RRR

****

撮影賞は「エンパイヤ・オブ・ライト」、歌曲賞は「RRR」のNaatu Naatu だったらいいなと思う。

 

Naatu Naatu Full Video Song (Telugu) [4K] | RRR | NTR,Ram Charan | MM Keeravaani | SS Rajamouli