私の映画玉手箱(番外編)なんということは無い日常日記

なんということは無い日常の備忘録とあわせ、好きな映画、韓国ドラマ、そして
ソン・スンホンの事等を暢気に書いていく予定。

教皇選挙

2025-03-20 19:21:58 | 映画鑑賞

世界に14億人の信者がいるカトリックのトップであるローマ教皇を選ぶ「コンクラーベ」

教皇の突然の逝去により世界中から駆け付けた100名程の枢機卿の互選により過半数を占めた枢機卿が新教皇となるコンクラーベを取り仕切る事になるローレンス枢機卿。

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ポスターには『これは選挙か、戦争か。』と書かれているが、映画は政治闘争そのものだ。人が集まり集団を作り、その集団の長を選ぶとなれば、そこに駆け引きがないはずがない。ローマ教皇庁の存在を維持し、カトリックを守るという目的は一緒であるはずなのに、そこにそれぞれの手法と権利欲が複雑に絡み合うのだ。

自身はコンクラーベを取り仕切る事に注力したいというローレンスも、「確信に固執することは危険だ。常に疑問を呈すべき」等と言う皆の前で発したその言葉の力などから、彼自身に票が入ることで選挙の行方を複雑にしてしまう。

立候補するのでなく互選という方法で選ぶというその手段も余計に物事を複雑にし、次第に浮き上がってくるのは、コンクラーベ前から行われて来た駆け引きや裏工作の実態。

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コンクラーベの為、外との接触を制限される枢機卿達の世話に当たるシスターを束ねるシスターアグネスを演じるイザベラ・ロッセリーニ。

その7分という出演時間でありながら助演女優賞にノミネートされた事が話題になったが、映画を観た人は誰もその出演時間が7分間だとは思わないだろう。枢機卿達が自分達を透明人間のように扱う事に「神は私たちに目と耳を与えた」と駆け引きと権力闘争にばかり気を取られ、周りが見えなくなっている枢機卿達に強烈な言葉を投げかける。自分の目で見、自分の耳で真実の声を聞く。これが映画の最後の驚きに繋がっていくようにも思える。

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コンクラーベを扱った映画は色々ある。

ローマ法王の休日

天使と悪魔

直接コンクラーベをを描いたのではないが2人のローマ教皇もローマ教皇庁を別の視点から見る事が出来る。

 


Flow

2025-03-15 20:35:17 | 映画鑑賞

森の中の大きな廃墟を寝床にしている黒猫。人の姿は見えないその森の中に大きな音を立てて水が流れ込んで来る。全てを飲み込み、生物のように流れる水を避け、流れて来た船に乗り込む一匹の黒猫。

猫は水が嫌いなはずなのにこの黒猫はそんな素振りは一つも見せない。水が穏やかに流れる間はひたひたと足元にやってくる水と戯れる様子を見せ、大きなうねりを見せて流れる水には流されながらもその流れに乗るようなしなやかさを見せ、流れてきた船に乗り込んだ後は船の上から水の流れを見つめる。

洪水を避ける為、流れてきた船に乗り込んだカピバラ、犬、キツネザル、そしてヘビクイワシ。最初はお互いの様子を探り、お互いにちょっかいを出しつつもそれぞれの種のスタンスで相手との距離を測る。そんな中でも水は時に大風と共に激しい様子を見せ、船に乗って大洪水から身を守ろうとする彼らも決して安全ではない。

動物たちの身体の動きのしなやかさが凄い。時に自分達に襲い掛かる水と正面から対峙するのではなく、しなやかに流れに乗り、危機を乗り越える。その動きから底知れぬパワーを感じ、次第に親しさを感じさせる姿にどこか穏やかなものも感じられる。

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猫好きとしては、黒猫が高い所からか細い声を出すシーンにジーンとする。子どもの頃、家で飼っていた子猫も、自分で階段を登ったのに降りられなくなってしまい、階段の上であんな風に切ない声で鳴いていた。

長編アニメ『Flow』本編映像


リボルバー

2025-03-07 21:14:54 | 映画鑑賞

始まりは警察内のちょっとした裏金作りだったのだろう。裏社会の悪さを見逃す事で裏金を貰っていた事がばれてしまい、その罪を一人で罪を被る事になった女性刑事。

服役後、見返りに金とマンションを手に入れられるはずだったのに、約束は反故にされる。金とマンションと失われた2年間の為に、リボルバーを手に見えない敵をあぶりだして復讐しようとする元女刑事。

ストーリーはシンプル。

ただ、リボルバーを持って復讐しようとする元女性刑事は、心の底からの復讐というより、2年前に手に入れる事の出来なかったマンションと金の存在に気がいっている様子。要するに復讐への強烈な思いも、2年前手に入れられなかったマンションへの思いも、どれもちょっと中途半端に思える。

幸い、出所した彼女の周りには本物の悪、悪かどうかも分からない怪しい輩、味方のふりをして簡単に裏切るどっちつかずの悪、隠れて姿を現さない悪等・・・悪い奴しかいない。この彼らに対する思いが彼女の復讐心に消えない火をつけるかと思ったら、それもちょっと不発な感じだ。

せっかく、彼女の周りの悪い奴らを、キム・ジョンス、シン・ドンホ、チョン・マンシク、イ・ジョンジェ、チョン・ジェヨンと錚々たるメンバーが揃って演じているのだが、それが彼女の復讐心と上手くリンクしていないといったらいいのか。

そんな中、チ・チャンウク演じる彼女を陥れる中での単純な登場人物かと思っていた謎の男が中盤から妙な存在感を発揮する。そしてイム・ジヨン演じる彼女を助けたいのか、彼女をただのカモと思っているのかはっきりしない女性も彼女の周りで思いのほか上手く立ち回り不思議な雰囲気を醸し出す。ただ、この二人の存在も彼女の復讐心と上手くリンクしているとは言い難い。

面白くなる要素は沢山あるのに、チョン・ドヨン演じる元刑事の復讐心が怖いほどには感じられないのだ。

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破られた約束、一つの目的と書かれた韓国バージョンのポスター。

このポスターにはチョン・ドヨン、チ・チャンウク、イム・ジヨンの3人の名前がクレジットされている。チョン・ドヨン演じる元刑事の復讐物語というより、この3人の人間模様というように考えた方が良い映画なんだろう。

 


第97回アカデミー賞

2025-03-03 21:20:34 | 映画鑑賞

【第97回アカデミー賞】『ANORA アノーラ』作品賞など5冠、受賞結果一覧

昨日、作品賞を受賞したANORA アノーラを見て、その勢いのようなものを感じたばかりだったので5冠に輝いた事もなんとなく分かる。

正直、物語が劇的に反転するまでは、これはちょっとどういう事なんだろう?とも思ったりもした。ただ、中盤からの勢いはびっくりするものがあり、それがラストシーンのなんとも言えない思いに繋がっていく。上手く説明は出来ないが、あのラストシーンの事はしばらく忘れられないような気がする。

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昨日、ANORA アノーラを見た映画館では、この時期らしく、『当館で見られるアカデミーノミネート作品一覧』というコーナーが作られていた。

3時間越えのブルータリスト。確かに長くて疲れる事も確かだが、その建造物の素晴らしさは、大きなスクリーンで観てこそだ。

ANORA アノーラ

ブルータリスト

リアル・ペイン~心の旅~


ANORA アノーラ

2025-03-02 19:01:01 | 映画鑑賞

ニューヨークのストリップ・クラブでショーガールとして働くアニーことアノーラの人生に、新興財閥の息子であるロシア人の御曹司の指名を受けた事で転機が訪れる。放蕩息子らしい遊び方をするイヴァンだが、彼から提案された1週間限定の指名を喜んで受け入れ、贅沢三昧の遊びを心から楽しむアニー。ラスベガスでの唐突な結婚にも躊躇することはない。ストリップ・クラブで沢山の遊ぶ男性を見て来たはずなのに、彼がゲーム三昧、薬三昧でも疑う事もしない。自分に優しくしてくれるイヴァンに100%以上の信頼を寄せるのだ。

ただ、そんな夢のような日々はイヴァンの両親の指示を受けたアルメニア人司祭と彼が雇った二人の男の登場であっという間に幕を閉じる。自分を捨てて逃げ出したイヴァンに全幅の信頼を寄せ、男達の言葉に耳を貸す事をしないアニーの勢いに男達は怯むも、結局はイヴァンを探す為にニューヨークの街を探し回る事になる4人。

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ビジネスライクに御曹司の気まぐれな提案を受け入れたのかと思ったアニーだが、自分に優しくするイヴァンを疑う事もしない。彼が自分を置いて逃げても屈強な男達の脅しにもひるまず、あらん限りの声を上げて自分の幸せを守ろうとするのだ。そのあまりの元気の良さに見ている私の方が怖気づいてしまうくらいだ。その一途な様子にイヴァンの両親が送り込んだ男達の方が気圧される。そして行動を一緒にするうちに、同胞の財閥から仕事を得てニューヨークで暮らす彼らの様子も分かってくる。用心棒のような仕事をしている彼らもいわゆる本当の悪党ではないのだ。イヴァンを探す4人がコニーアイランドのあたりを歩く場面など、ちょっとだけ切なくでもくすっと笑ってしまう。

働きもしない彼を何故あんなに信じているんだろうと彼女の行動が理解できない時間がかなり続いたのだが、次第に彼女が精一杯自分の人生を生きようとしている事が分かってくる。ラストシーンが忘れられない。

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監督のショーン・ベイカーは脚本も自分で担当しているが、エンディングロールではキャスティングにも名前がクレジットされていた。

 

 


プロジェクト・サイレンス

2025-03-01 20:15:51 | 映画鑑賞

妻亡きあと、娘を一人で育てる国家安保室の行政官。大統領選挙を控え仕事も忙しいが、娘の将来の為に彼女を留学させようとし、彼女を空港へ送る途中に橋の上で多重衝突事故に巻き込まれる。

深い霧の中、事故現場は混乱を極めるも、落ち着いて助けを待てばいいと思っていたが、追突事故に巻き込まれた中に含まれていた一台の輸送車が、濃霧の中の衝突事故をその場にいた全員を巻き込むパニック状態に変えていくのだ。

国家安保室の行政官とうい職業柄、危機管理の中の取捨選択能力に長けている父親。取り残された民間人救出の為に投入されたはずの軍隊が自分達よりも別の事を優先させようとしていることを見抜き、自分の職業というアドバンテージを活かしてなんとか橋からの脱出方法を考えようとするものの、どうも様子がおかしい。結局、橋の上に取り残された民間人は、自分達で橋からの脱出を考えねばならなくなる。

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事故が起きた時に橋の上にいただけという彼らに、危機を一緒に乗り越えるだけの団結力等あるはずもない。職業柄、皆に「助かる」と言い安心させた行政官も外部の協力が得られないと分かるや否や、自分と娘だけが助かればいいというような行動に出る。しかしそんな父親を諫める娘。更に次々とやって来る障害と試練。彼らが立ち向かわねばならない障害がとんでもないスピードと破壊力を持っている為、結局残された者だけで団結し脱出する方法を考えねばならなくなっていくのだ。

濃霧の中の多重衝突事故を回避不能なパニックにしてしまった理由にややびっくりするも、スピード感のある典型的なディザスター映画なので、そこに気を取られてばかりもいられない。

長髪を振り乱し愛犬と共に危機を乗り越えようとするレッカー運転手を演じるチュ・ジフンがトラブルメーカーと思いきや思わぬところで大活躍し、娘の事を一番に考えているもののその思いが娘に伝わらずに事故に巻き込まれる行政官を演じるイ・ソンギュンが危機を次々と乗り越える中で次第に娘との信頼関係を取り戻す。

パニックを前に立ち向かう彼らが変わっていき、皆が団結し困難を乗り越えていく姿を応援する90分だ。

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イ・ソンギュンの声を聞きたいと吹替版でなく字幕版を鑑賞。

25.2.28公開『プロジェクト・サイレンス』インタビュー映像解禁


夜明けのすべて

2025-02-25 20:39:21 | 映画鑑賞

パニックに悩む男性(演:松村北斗)とPMS(月経前症候群)に悩む女性(演:上白石萌音)が転職先の小さな会社で出会う。

転職先は二人の状況に理解のある会社だが、そんな中でも自分の症状と付き合う事が難しく時にコントロールが出来ない状況に陥る二人。何とか折り合いをつけようともがく二人と同様に、周りも二人の状況をどこまでどのように受け入れればいいのか・・それぞれが常に答えを探すような毎日が、静かに続く。

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映画を観ながら、集合の関係を学ぶ時に使ったベン図を思い出す。

重なる部分が多く社会生活をそれなりに暮らせる人と、重なる部分が少なく、時に多数の輪とぶつかり合うような二人。

そんな関係性を見ながら、そもそものベン図の概念とは違うとは思いながらも、円が重なる部分の事を考える。

プラネタリウムの場面も心に残るが、私が一番印象に残ったのは、日曜日の夜、偶然に職場で顔を会わせた二人の遠慮のない会話を交わす場面。

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公開当時、時間が合わず映画館に行けなかった。キネマ旬報ベストテンの報道を見て、今回配信で鑑賞。


ブルータリスト

2025-02-23 19:56:26 | 映画鑑賞

入場の際に渡されたリーフレットには、ハンガリー出身のユダヤ系建築家のラースロー・トートの短い略歴と一緒に、彼が再出発の地に選んだアメリカで設計したプロテスタント教会内の印象的な十字架のサインや、彼に設計を依頼したハリソンの書斎に置かれた長椅子等が写真入りで紹介されている。

映画はこのラースロー・トートがアメリカに渡ってからの30年の人生が描かれるのだが、リーフレットの下には『本書の内容は一部を除きすべて架空の内容です。』との一文。ただ、その一文が信じられないようなリアルな彼の人生と彼の携わった建築物の荘厳な佇まい。

15分のインターバルを持ってしても215分という時間は長く感じられる。ただ、太陽の動向に合わせて光が差し込み十字架を浮かび上がってくるように設計されているコンクリート製の教会や、巨大な採掘場、アメリカでの生活になじめない苛立ちなど繰り返し描かれる事で30年という時間の重さが感じられる。

アメリカへの移住が送れる妻と姪を一人待ちながらも、肉体的な辛さから麻薬に溺れる。実業家ハリソンの気まぐれに翻弄され、コストカットを宣告されても建築家として譲れない部分に対しては激高する様子を見せる。「自由の国」と思っていたアメリカが自分達を受け入れない事に対する消えない苛立ち。

オープニングに映し出される逆さまの自由の女神。イスラエルこそ自分が帰る場所とアメリカを去る事になる姪の存在など、移民の彼らを翻弄するアメリカの事を色々考える。

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建築家の人生を描いた映画らしく、真っすぐな道を進む様子が映し出される中、クレジットが右から左に流れていくオープニングとクレジットが斜めに流れていくエンディング。

 


セプテンバー5

2025-02-18 19:04:00 | 映画鑑賞

1972年9月5日のミュンヘン五輪テロ事件にアメリカABCテレビのスポーツ中継チームがどのように対峙したかが90分で描かれる。

夏の五輪がアメリカのビックスポーツ中継がない真夏に開催されるようになったオリンピック。昼夜逆転のオリンピックであってもアメリカは三大ネットワークと呼ばれるテレビ局それぞれが大規模なスタジオを構え、衛星中継枠を各局で分け合いながら放送しているようだ。事件の起きたイスラエル選手団の宿舎のすぐそばにスタジオを構えるABCも視聴率を確保すべく大所帯で中継に当たっているのが良くわかる。

銃声の音でいち早く異変に気付いた彼らは大きなカメラを移動させ生中継に備える。本国からの「報道局に任せろ」という指示を拒み、「現場から目の前で起こっている事を伝える」という彼らの瞬時の判断からも機動力のあるチームである事が伝わってくる。しかし平和の祭典である五輪最中に起きた襲撃事件故、全てが想定外と言ってもいい。犯人の呼び方から人の生命にかかわる瞬間をどのように扱うべきなのか。

生放送でパレスチナ武装組織をテロリストと呼べばそれは簡単に既成事実となってしまう。起きている事実を素早く伝えるのが報道の使命と言っても、観ている人々に起こっている事の全てを見せてしまう事がいいことなのかという逡巡。

生放送、生中継と言っても、スタジオの中では情報の裏どりと各映像の編集が同時並行で行われているのが良くわかる。一度流れてしまった映像、一度発した言葉は消す事は出来ない。スピード感のある映像からは、瞬時の判断と取捨選択の基準はなんなのか?という彼ら自問自答がグイグイ伝わってくる。

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当時、小学生だった私にとって、ミュンヘン五輪は記憶に残っている初めての夏のオリンピックだった。

幼かったので『男子バレーの金メダルとテロ事件』というキーワードを覚えているだけだったが、男子バレーの決勝戦を朝ごはんを食べながらラジオの生中継を聞いた事は今でも忘れない。日本ではそんな時代だったのに、あの当時からアメリカはあんなに大がかりなスタッフを現地に送り込んでいたのだ。


リアル・ペイン~心の旅~

2025-02-09 19:43:26 | 映画鑑賞

多くの人が行き交う空港で久しぶり再会する二人の男性。ショパンのノクターン第2番変ホ長調Op.9-2が流れる中、ニューヨークに住むデヴィッドと彼の従兄ベンジーの旅が始まる。(その後もショパンの曲が二人の旅に静かに寄り添う)

子どもの頃、兄弟のように過ごした二人の久々の再会。ユダヤ系の二人は祖母が亡くなった事をきっかけに一緒にポーランドでの『第二次世界大戦 ツアー』に参加する事にしたのだ。

二人が愛した祖母の辿った道を確認する旅のメンバーは、イギリス人のガイド、アメリカ人の夫婦と一人で参加の中年女性そしてユダヤ教に改宗した男性。目的は同じでも、初対面同士の旅は緊張するものだ。

計画性もありキチンと物事をこなしたいデヴィッドは相手との距離感を図りつつトラブルを回避する理性的な行動をするも、ベンジーはどこでも誰にでも壁を作らず相手の懐に飛び込んでいく。見ようによっては無作法ともとれるその振舞。ワルシャワ・ゲットーの英雄記念碑、ワルシャワ蜂起記念碑と歴史遺産を次々と見学していく中、ある時は銅像の前で全員で写真を撮り、ある時は痛みを感じる為に来ているはずなのにと高級車両で移動する事を拒否して一般車両に移る。そしてどこか痛みを感じる事が少ないホロコースト・ツアーの在り方に疑問までも投げかける。

しかし非日常という旅の中、逆に壁を作らず、常識にとらわれず、自分の感情を素直に吐き出す彼を自然に受け入れる同行者たち。

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空港から始まった二人の旅は空港で別れる事で終わりになる。旅を無事に終わらせるというストレスから離れてすんなりと普段の日常に戻っていくようにも見えるデヴィッドと、自由に旅をしていたように見えたベンジーは、すっきりと旅を終わらせる事が出来ない。

二人が旅で感じたリアル・ペインがどんなものだったのか考えさせられるエンディング。

 

 

 


ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件

2025-01-27 20:51:51 | 映画鑑賞

返還前の香港を舞台に、違法取引で巨大な財をなした男と、ICAC(汚職対策独立委員会)の捜査官として彼を15年もの間追い続ける男の話。

マレーシアに技師として渡るものの、仕事に失敗し、1980年代の香港に流れ着いた男チン・ヤッイン(演:トニー・レオン)と、私生活を犠牲にしてまで彼の逮捕に執念を見せる捜査官(演:アンディ・ラウ)。

株式市場の高騰に乗じてどんどん資産を増やし、秘書(演:シャーリン・チョイ)の名前を使い、何社もの会社を設立てマネーゲームに興じるチン・ヤッイン。

映画の中では、一介の技師だった男が苦労して変わろうとする様子は殆ど描かれない。たまたま話せた福建語のおかげでチャンスを掴み、次第に言葉巧みにお金を右から左に動かし、ある程度の金を集めるとそれを元手に株を動かし始める。金に目がくらんだ者に声を掛け、インセンティブを高騰した株で支払う事で更に取引額を増やし、そんな事を繰り返し続けて資産が膨らんでいると思い込ませるのだ。いずれも自ら手を下すというより、全て周りの人間を動かすという、どこか間接的な動きが多く、彼に強力な決定権があるとは思えない。カリスマ性は感じさせるものの、その実、中身がどんなものなのかは一つも見えてこないのだ。

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私は株について詳しくはないが、映画の中で繰り返される『株と現金の価値を一緒にする』という言葉がこの詐欺のキーワードだと理解。現金の価値は景気がどうなっても変わらない。1円は何年経っても何があっても1円のままだ。ただ、株は株式市場が高騰すればするほど価格が上がっていく。
株式市場の高騰がいつまでも続くような雰囲気を作り出し、市場が暴落すれば株の価格が下がる事を忘れさせるような雰囲気を作り出すのだ。
『株と現金の価値は一緒』と思い込んだ人間たちは益々踊らされていく。
チン・ヤッイン自身はその高騰を眺め、それに乗じて自身も大きく見せるものの、その実態は非常に不透明。大きな損を背負っても、あたふたするのは周りの人間だけだ。

派手なスーツに身を包むも、その実態をハッキリとは見せない男と、法でその男を裁こうとする男のなんとももどかしい15年もの間の戦い。

私は、結末になんとも虚しい思いを感じたが、実際にその時代を知っている香港の人達には、もう少し別の物が見えていたのかもしれない。

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蛇足

トニー・レオンが劇中で見せる派手なスーツの着こなし。少しだけブルーノ・マーズを連想する。


室町無頼

2025-01-20 21:21:11 | 映画鑑賞

応仁の乱の少し前。大飢饉と疫病、そして膨大な年貢に苦しむ民衆が溢れる京の街。そんな様子を知りながらも無策な幕府。

大泉洋演じる蓮田兵衛は、かつての友で今は悪党一味を率いて市中の警護を担っている骨皮道賢と袂を分かち、無策な幕府に反旗を翻す事を決め一揆の準備を進める。

風来坊のようにも思えながらも、大泉洋演じる蓮田兵衛の絶対的なリーダーであるという存在感が凄い。兵衛が反旗を翻すと言っても、闘う相手は幕府そのものではなく、悪党一味を率いて仕事を請け負っている骨皮だ。袂を分かちながらも、徹底的に反目するということでもなく、お互いに自分のいる場所で自分のやるべき事をやるというどこか潔い感じだ。

食べる物もなく、明日のわが身がどうなるか分からない中であっても、極端な悲壮感はそこにはない。それぞれ剣の達人であっても、兵衛、骨皮ともに、どこかアウトローの雰囲気が漂う。二人の立ち回りは素晴らしいが、いわゆる武士らしい雰囲気ではない二人の佇まいはどこか飄々としている。

風が吹きすさぶ中、繰り広げられる戦い。BGMの雰囲気も相まって、時代劇というより、いい加減だった保安官が町の人々を助ける為に立ち上がり、金持ちにやとわれたかつての旧友と刀を合わせるというような、どこか西部劇の雰囲気のようなものまで感じられる。西部劇が言い過ぎなら、無国籍な雰囲気が漂うといったらいいのか。立ち回りも素晴らしく確かに時代劇なのに、そんな自由な雰囲気が感じられる。

それだけスケールが大きいということだろう。


トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

2025-01-17 20:57:25 | 映画鑑賞

ダンシング・ヒーローが世界的に流行していた1980年代。香港に密入国し、なんとしても身分証を手に入れたかった青年洛軍がトラブルの果てに行きついたのが無法地帯の九龍城砦。黒社会のボスに巻き上げられたお金を取り返そうとして、自分からトラブルの中に飛び込んでいくのだ。

結局、魔窟と呼ばれる九龍城砦を取り仕切るルイス・クー演じる捲風の元で働き始める洛軍。迷路のような九龍城砦は、魔窟という姿だけでなく、その中で全ての物が揃う巨大なコミュニティだ。そんな共同体の中で友人も出来る洛軍だが、彼の出自が捲風が九龍城砦を取り仕切るきっかけとなった出来事と関係している事から復讐の嵐が吹き荒れる。

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捲風、リッチー・レン演じる彼の友人である秋兄貴、そしてアーロン・クォック演じる殺し屋の陳占。彼らの抗争と捲風が九龍城砦が取り仕切るようになった経緯などは、活劇のあらすじ風にあっさり紹介され、サモ・ハン演じる更に黒社会を牛耳るボスのしたたかさ等も洛軍が行うストリートファイトでサクッと描かれる。

彼らのバックグラウンドの説明に激しいアクションは欠かせない。まるで身体の痛みを伴う激しいアクションの中に彼らの人生の本髄があるかのようだ。

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九龍城砦そのものが生きているようにも感じられ、アクションを基本に全てが語られる映画だが、洛軍の出自が明かされてからのスピード感も半端ない。

走り回り、飛び越し、突き落とし突き落とされ・・・階段、壁、通路に置かれた箱、そして部屋の中の家具一式。狭い九龍城砦の中にあるもので、武器にならないものはない。生活に密着したアクションから目が離せない。アクション監督は谷垣健治。次々と破壊される壁や家具を見ながら、そのアクションシーンの段取りの細かさを想像せずにはいられない。

更に自分の存在意義、自分たちの友情、守りたい者と戦うべき相手・・・これらの為にも、最初から最後まで痛いアクションが続き、その熱量が半端ない。

冒頭、あらすじ風にあっさりと紹介された捲風、秋兄貴そして殺し屋の陳占の関係性も、痛いアクションが続く中で次第に分かってくるようになっているし、九龍城砦の成り立ちから香港の中国返還に伴う立ち退きの利権関係。これらの歴史も全て痛いアクションとともに語られる。そしてフィリップ・ン演じる場の空気を読まない癖強めの男の人格まで、とにかく全てが痛いアクションではっきり分かるようになっている。

 


FPU~若き勇者たち~

2025-01-12 19:02:12 | 映画鑑賞

内戦が激化するアフリカの国に平和維持活動の為、組織警察隊「FPU」を派遣する事になる中国。

国連から要請された部隊ではあるものの、政府軍とは反政府組織の対立が激化している中でアフリカから遠く離れた中国からの派遣ということで現地での活動の壁は思いのほか高い。

選ばれた隊員たちの志は高いものの、若さゆえの経験不足から、命の危険と向き合う現場ではやや空回りすることもあり、他国の派遣兵士達とも衝突が絶えず。

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オープニングから「国連常任理事国として「FPU」を派遣し、アフリカの国の安全を守る為尽力する中国」というアピール感の圧が凄い。

ただ、実際に派遣される「FPU」のメンバー達からは、内戦に巻き込まれた一般の人々の安全を守る為に尽力するという心意気、更になんとかして頑張りたいという若者らしい根拠なき自信の為に危ない橋を渡る事になる様子が感じられるだけで、彼ら自身の行動からはそんな圧は感じられず。

映画のサブタイトルにもあるように、若き勇者たちになる様子が、大量の火力、大量の弾薬、更には甚大な被害を引き起こす巨大台風等を背景に熱く熱く描かれる。安全を守る為に派遣された警察隊でありながら、更に「指示があるまでは発砲するな」という台詞が何度も繰り返されながらも、爆発の規模も飛び交う銃弾の量も半端ない。平和維持の為とは言葉ばかりでどう考えても戦闘としか思えない場面が続くが、若手メンバー中心の「FPU」はひるむ事がない。そしてホアン・ジンユー演じる分隊長とワン・イーボー演じる狙撃手の葛藤もアクションも、大量の火薬と弾薬の中でキチンと描かれる。

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与えられたミッションをクリアしようとする若者達の葛藤と迫力あるアクションシーンがキチンと描かれれば、映画としてのミッションも成功かと思うのだが、そこはもう一押ししたいという気持ちがあるようで、現実でも「国連常任理事国として「FPU」を派遣し、紛争地域の安全に尽力している」というアピールのあるエンディング。

 


はたらく細胞

2025-01-10 20:41:50 | 映画鑑賞

体内で働く37兆個もの細胞が擬人化されて、隙間なく体内ではたらく様子がずっと映し出されるのだ。とにかくその目まぐるしさで、身体の中が大きな宇宙であることが視覚情報としてビシビシ伝わってくる。

永野芽郁演じる酸素を運ぶ赤血球はその生真面目な勤勉さで身体のリズムとエネルギーを整え、佐藤健演じる白血球は、体内に入った細菌やウイルスを追い出す為に常にフットワーク軽くファイティングポーズで動き回る。

擬人化されたからこそはっきりと分かる各細胞の働き方とその目的。

可愛らしい見た目と、各細胞の活躍の意味を覚えられるからと親子連れで楽しめる映画かと思いきや、小学校低学年では見る前にちょっとした予習が必要にも思えるし、生活習慣でボロボロになった体内環境の切なさなど小学生には分かるはずもない。可愛さよりも怖さ倍増だ。

『健康に留意しないと・・・』と心の片隅でちょっと不安な大人に響く内容だと思う。抗がん剤の投与場面等、口頭で説明を受けるよりも視覚に訴えるものがあり、その厳しさが良くわかる。