「「これが弁当?」
ちょっと面食らった。日本でもレストランや和食の店で「弁当」という名のついたメニューはあるが、一つの入れ物に、さまざまなおかずが詰められたものを想像しそうだ。
だがここでは、前菜、メインなどが一皿ずつに入って一度に出てくる。給仕がお重のように重ねた皿をテーブルの上に手早く広げた。メインの皿には冷めないようにふたがのせられている。
経営者のグレゴリー・グトゥリさん(38)にとって日本の弁当とは、「トレーにのったバランスの取れた食事が一度に提供され、時間の節約になるもの」というイメージだという。」
フランスでは"Bento"が浸透しつつあるというが、引用した記事を読む限り、「タイパ」、つまり時間の節約が主眼となっているようだ。
だが、これは、日本人の感覚とはやや違うように思われる。
「日本人がはじめて開発し、世界に送り出した商品は扇子であった――。卓抜な視点で日本人の「縮み志向」を鮮やかに説き、日本文化の本質や日本が工業化社会のトップに躍り出ることができた秘密を明快に分析する。「拡がり」に弱い日本的特性も指摘して、”数ある日本人論のなかでも最高傑作”といわれる名作。」
私はまだこの本を全部読んだわけではないので、誤解があるかもしれないが、「弁当」は、扇子や盆栽などと同じく、日本文化の大きな特徴とされる「縮み志向」の一種ではないかと思う。
したがって、時間だけではなく、空間の節約も目的とされているはずだ。
つまり、「空間」という観点からは、「たくさんの料理を大きな皿に拡げてディスプレーする」というのとは真逆の発想に立つということになる。
なので、具もご飯もぎゅうぎゅうに圧縮し、スペースを最大限活用するのが上手な弁当の活用法なのである。
さて、こういう縮み志向を推し進めていくと、私見では、ある動物に近づいていくと思う。
その動物は、今や生物学会や医療業界で注目を集めている、ハダカデバネズミ(地下適応)である。
「裸、つまり毛が無いことの理由は、ダニやノミなどの寄生虫に取りつかれるのを防ぐためだという積極的に裸になった説もあるようですが、そもそも地中生活をしているため、巣の中は、常に28℃-32℃ほどに保たれており、雨に打たれることも無いため、体温調節のための体毛は必要無いと考えられています。」
ハダカデバネズミをヒントにすると、次なる「縮み志向」のねらい目はファッション業界かもしれない。
イメージとしては、最小限の、かつ伸縮性に優れた素材で作られた、たたむと手のひらサイズになって小さな箱に何着か収納できる、そういう衣服である。
これを、例えば“Bento Suit” などとして売り出すわけだ。