もしかして愛知県の片田舎への電車が間に合わないかもしれないと思い
一泊して観ることにした新国立劇場の「ワルキューレ」
数日前から予習をしてこの日を迎えた
派手な1.3幕は眠らない気はしていた
でも2幕は長いし延々と会話ばっかりで、睡魔に襲われたら(ブリュンヒルデじゃないけど)
寝てしまわない自信がなかった
ところが、何の事はない心配は杞憂に終わった
それどころか、2幕が思いの外面白かった
ストーリー的に指環の重要な要素がたっぷりはいっていて
4部作が何故「ニーベルングの指環 」と名付けられて
本当の主役は誰なのか ということも理解できたような気がした
まずは順を追って第一幕から
一幕は今回に限らず聴く機会は多いので楽勝な感じで舞台に集中
斜めになった安定感のない青い色彩の舞台
剣の刺さった大木も斜めに生えている
それが象徴的にどんな意味がるのかは自分には分からない
ただ、シャープできれいだなが第一印象
そのきれいと感じたのはジークムントとジークリンデの盛り上がる
月の光が差し込むところではなくて
フンディングの仲間が家に入る扉を開けて外の光が家に差し込むところ
ここは視覚的に印象に残った
そして一幕で一番印象に残ったことと言えば「人の声の凄さ」
鍛えられ訓練され、そして才能にも恵まれた人たちの声の凄さ
これは本当にすごい
この日のキャストは
残念ながら知らない人ばかり
セリフや歌詞を見て聞かなければならないオペラやリートは
目がしょぼくなっている自分はあまり聴かない
単純に歌詞のない音楽だけであれこれ想像するほうが楽でいい
ところが、実演で言葉と音楽が混じり合うとこうした分野も捨てがたい
この日の歌手たちを比較対象できるくらいの知識とか
たくさんの歌手の歌を聞いていれば聴く楽しみ方は違っただろうが
この日はただストーリーに集中して聴くだけしかできなかった
(それで十分なのだが)
声の凄さは体格に比例するかもしれない
パヴァロッティはとんでもなく肥満だったし、今回の主役級もみんなふくよかな体型
ドラマを観るなら興ざめしそうだが、それを圧倒的な声の力でカバーし
おデブさんは気にならなかった
昨年ウィーンで見たパルジファルはおデブさんが気になって最後まで集中できなかった
(衣装も薄汚かったし)
音楽はウエルズングのライトモチーフや剣のそれはもう少し効果的に鳴らしたり
暗示したりできそうな気がしたが、とにかく一幕はただただ声がすごいに尽きた
2幕、普段よく聴かない部分だ
この聴かないことが却って良かったかもしれない
先取りして音楽を待つのではなくストーリを楽しめた
浮気性の神(ヴォータン)、その浮気にもそれなりの理由があるのだが
ちゃんとチェックしている正妻の迫力に負けてしまい、自分の心を偽って
せっかく期待して産ませたジークムントを自らの力で滅ぼしてしまう運命を選択する
ここにすでにアルベリヒ(ニーベルング)の呪いがかかっている
4日間かけて上演するこのシリーズを通称「ニーベルングの指環」と呼ばれるのは
このアルベリヒの呪いのかかった指環を中心にして物語が進められからだ
特に表立って指環が出てくるわけではない、出てくるのは呪いにかけられた運命だけ
そしてその指環を最初手にしたのは「愛を諦めた」生物としてのアルベリヒ
愛を諦めた代わりにその指環は「世界を征服できる」力を持つ という設定が面白い
この指環は策略によってヴォータンに取り上げられてしまったので、その取り上げられる瞬間に
指環を持つものには不幸な運命を!という呪いをかける
本当にオペラの題材としてはあまり美味しくない内容だ
権力闘争とか欲とか裏切りとか、、
話がそれてしまった
とにかく2幕は面白かったということ
そしてこの2幕は指環を楽しむためのいろんな情報が詰まっているということが分かった
しかし、それでもここの音楽は実演でないと聴き続けられないだろう
3幕
ストレッチャーが出てきた
ワルキューレの仕事(死んだ英雄をワルハラに運ぶ)を考えるとそれも分からないではないが、
いざ目前に現れると少しショックだった
音楽は2幕から雄弁に語り始めている
ライブの良さ、勢いに乗ったもの勝ちのようなもので
歌手の呼吸と音楽が寄り添って、舞台を見ないで楽譜を見て演奏しているのが
不思議な気がする
やっぱりオーケストラはオペラの演奏をすると呼吸とかノリとか
一ランクアップするかもしれない
さて有名なヴォータンとブリュンヒルデの別れ
不覚にも一瞬泣きそうになった
健気で真に勇敢な父思いの娘との別れ
そして、次に登場する英雄を暗示させる音楽
ワルキューレは終わったが、作品として単独で取り上げられるといっても
何か消化不良の気持ちが残る
先がどうなるか?その気持ちのほうが強い
まるでミステリーのとてもいい場面で中断されているような気分で落ち着かない
次の「ジークフリート」「神々の黄昏」が今すぐにでも聴きたい気分だが
会場に貼られたポスターをみて驚いた
来年6月に「ジークフリート」10月には「神々の黄昏」が上演されることになっていた
トリスタンやパルジファル、タンホイザーはまだしも指環はちょっと!
と思っていたが、いろんな解釈ができるこのシリーズは
「ハマってしまう」かも知れない
(でも、ホント妙な物語)
とりあえず、来年も行くぞ!