私たちの自営の教室もR氏を講師として、9月30日に新学期が始まった。およそ2ヶ月の夏休み後の再開である。昨日から新しいメンバーが一人加わった。小児科の医師の、I さんである。白髪の I さんはかなりのお年であるので、おいくつかと失礼ながら尋ねたら、81歳とのことであった。私よりも10歳も年上である。旧制の高等学校で大分ドイツ語をやられた方らしい。
きれいなドイツ語を話されるが、「自分は聞くほうが苦手だ」と自己紹介のときにおしゃった。テープを聴いてそれを私たち全員で再現するという時間があるのだが、その時間を私たちはテキストを閉じてドイツ語を聴くことに集中する。だが、I さんにはR氏がテクストを見てもいいという指示をされた。これは適切な処置であったと思う。
クラスの後で、I さんが、楽しかったと言っておられたので、かなりのドイツ語好きとお見かけした。普通にはドイツ語を聞いてわからないと苦痛なものである。これは特にドイツ語を専攻している人には耐え難いところがあるようだ。
そこらへんが、私たちドイツ語の非専門家とはちがう。私たちはまったくわからなくても一語か二語聞き取れただけでも鬼の首を取ったように嬉しいものだが、専門家は少しでもわからないところがあれば、打ちのめされたようになってしまう。
正直言うと専門家でもすべてわかることはないのだと思うが、ご自分たちに課した基準がそれほど高いということであろう。だが、聞き取り力はすぐにはつかないものである。これは字で読んだら、すぐにわかるような言葉でも音声として聞くと、聞き取れないということが多いのである。
私などはおおよその聞き取り理解しかできなくて、正しく聞き取れているかといえば、どうもそうではない。だが、私はドイツ語に対する外国人であるのだから、うまく聞き取れなくてもしかたがないと思っている。少しでも聞き取り力が増すように一日一日研鑽を積むしかない。