「私の知的鍛錬法」で知った、立花隆の「田中角栄研究」は科学書であるという評価は面白い。これはどういうことかというと立花隆は全部公表されたデータを使って田中角栄を首相からの辞職に追い込んだという。
その本に使われたデータは立花さんとかそのスタッフがどこかの倉庫に忍び込んで盗み出してきたものではないという。まさにその通りなのであろう。だから「田中角栄研究」は科学書であるということは正しい。
そう言えば、ロシアの化学者メンデレ-エフが火薬の合成に必要な材料の情報を得るためにドイツに派遣されたが、その材料の配合の割合を探り出して来いとロシア政府から依頼されたときに「いいですよ」と言って、双眼鏡とノートをもってドイツに出かけたという。そして火薬工場への引込み線に入る貨車の荷物の材料の量を調べて、結果的には火薬材料の配合率を調べてめでたく帰国したという。
ロシアの政府がドイツ国の政府に火薬の材料の配合の割合を聞いても教えてはもらえないということから、その情報を知るためにメンデーレーフを起用したことはまったく当を得ていた訳である。
このエピソードをどの本で読んだかはまったく覚えていない。少なくとも私のもっている本ではない。どこか図書館で借りた本だったと思う。
いわゆる007が活躍するような諜報活動ではなくて、科学者が役立ったというのはまったく私たちの予想を裏切るものである。これとは違うが、朝永振一郎が書いている例では科学者のローレンツがオランダでのゾイデル海の堤防の工事に関わったという話がある。
ローレンツは科学者であって、まったく土木工事には関係した技術者ではない。ところがオランダ政府はその堤防工事の責任者に選んだという。8年の歳月を要したが、彼の研究は実を結び、その後の高潮のときにはローレンツの予想通りのところで潮位は来てぴたっと止まったという。
堤防の他の箇所は破損したり、決壊したりしたところがあったらしいが、ローレンツの設計した箇所は何事もなかったという。そしてその手法は地道な科学研究の処方であったことは朝永さんのエッセイに詳しい。
昨今の原発事故や地震とそれにより引き起こされた津波の被害を思うときにこのような教訓は何かの役に立つのではないかと思う。
確かに地震は難しいし、それによる津波も難しい。また、原子力も難しいかもしれない。だが、まだ考え方が悪いところがあるのではないかと考えてみる必要もあろうか。