業界用語またはスラングといっても業界の意味するところは私が少しだけ知っている大学の物理学科で、そこで使われている言葉ということになる。
大学の物理学科に入学して驚いたことは先生が自分たちのことを物理屋といっていることだった。それは八百屋だとか魚屋といったものと同じ響きで聞こえた。
さらに、物理の研究室に入って仕事という語が特別な意味に使われていうことであった。これは物理用語としての仕事をいま言っているのではない。これはこれで説明を必要とするが、ちょっとおいておく。
研究室の先生方の使っている「仕事」とは「研究(論文)」のことであった。これはドイツ語でdie Arbeitが意味するところとも同じである。だが、これをE大学に勤め始めて数年のころに哲学の先生にこの仕事という語を使ったら、この方はドイツ語もとてもできる方であったが、この方には意味が通じなかった。
またある先生は「計算する」ことを「勘定する」という古めかしい(?)言葉を使われた。また、これは一般的ではないかもしれないが、累積度数分布の累積というのを積分と言っている方も居られる。
そういえば、これは業界用語ではないが、好奇心という語を先日ブログで使ったが、この語も使い方がちょっと違っている。私の好奇心という語は知的好奇心という意味である。この語はいつか朝永振一郎さんのエッセイによって知った語の使い方である。
朝永さんはアメリカの大学に若い研究者を推薦するときにその推薦の言葉の中にmental curiosity(知的好奇心)という項目があり、それが推薦のかなりの重要性をもっているということに気づいたと書いていた。
好奇心というと普通にあまりいい意味には使われない。週刊誌的な話題で、誰某のタレントと歌手だとかのゴシップだとかを知りたいという風なときに使う。
そういえば、昔はコンピューターと書かないとしっくりしない気がしていたが、最近は長年の工学部勤めの結果としてコンピュータと止める書き方をするのが私には普通になった。ただ、いまでも超伝導は超電導とは書き難い。
高橋秀俊著『電磁気学』(裳華房)のはしがきには回路と輪道とかの違いがあるとか、周波数と振動数といった言葉の違いが工学分野と物理分野であると書いてあった。
確かに物理屋は電場、磁場というが、電気工学者は電界、磁界という。天文分野でも京都大学では遊星というが、東京大学は惑星というとか。たかが言葉とはいえ、面倒なものである。