自民党の佐藤勉・国会対策委員長は、平成27年2015年5月23日(土)付の日経新聞で、「状況次第だ。こっちも努力はする。首相や党役員の意見も聞いて判断したい。衆院議長の判断が最大のポイントだ」と語り、安保法制2法案(189閣法72号73号)を強行採決する可能性を示唆しました。
示唆(しさ)とは、政治家が方向性を示して世論の反応をうかがうことです。
佐藤さんは「米議会での首相の演説は歴史的な瞬間だった。あの場で発言できたのは誇りに思わなければならない。社長が言ったことを守るのが社員だとすれば、首相の思いに最大限対応するのが国対の役割だ。何が何でも意向に応えたい」と語り、4月29日の米議会演説で「今夏までに成立(成就)させる」と断言し、「公約化」したので、日本の国会が従うべきだとの考えを持っているようです。
平成11年1999年に衆議院議院運営委員長をつとめ、衆参ねじれ時の自民党国会対策委員長だった、大島理森衆議院議長の「判断が最大のポイントだ」としました。大島さんは過去の議長よりも国会運営に詳しいとの自負があり、前任の予算委員長時代は政府与党に有利な運営を続けていました。
仮に衆議院で強行採決するとなると、会期末からおおむね3週間から2週間前に、参議院に送るのが一つのめどと考えられます。
法案は来週5月26日(火)の衆議院本会議で審議入りする予定。
安保法制、国会審議こう臨む 自民・民主国対委員長
- 2015/5/23 3:30
- 日本経済新聞 電子版
今国会最大の焦点となる自衛隊の活動範囲を広げる安全保障関連法案が26日に衆院で審議入りする。自民党の佐藤勉、民主党の高木義明両国会対策委員長が、審議方法や採決時期などを巡り主張をぶつけた。
■自民・佐藤氏「一括審議は当たり前」
■民主・高木氏「とても1国会で処理できない」
――週明けからの審議にどう臨むか。
佐藤氏「国民目線でいかに大切かを分かってもらうという質問の仕方を考えている。だらだらと長く(審議を)やるよりは集中的に、みんなの意識が高い時にやるというのが私どもの方針だ」
高木氏「10本の法律を1本に束ねられた。その中に賛成と反対の両方があっても二者択一になってしまう。質問のテーマが拡散し、国民にもわかりにくい。逐条審議、逐条採決も考えないといけない。(審議には)外相、防衛相だけでなく、官房長官の出席も当然だ」
佐藤氏「審議をするのに必要な部分を項目別に分けているだけの話。総括的には1つの法案として出すのは当たり前だ。分けて説明しても国民の理解は深まらない。1つの法案なのでそんなに多岐にわたる質疑はないと思う」
――安倍晋三首相が米議会で「夏までに成立させる」と明言した。
高木氏「ご都合主義で野党の立場を考えない発言だ。立法府は政府の従属機関ではない。立法府の矜持(きょうじ)を示したい。国連平和維持活動(PKO)協力法も3国会にまたがった。今回はそのとき以上の案件だ。とても1国会で処理できない。2~3カ月で成立させるとは国会軽視も甚だしい」
佐藤氏「国会をまたぐことが慎重審議につながるということではない。米議会での首相の演説は歴史的な瞬間だった。あの場で発言できたのは誇りに思わなければならない。社長が言ったことを守るのが社員だとすれば、首相の思いに最大限対応するのが国対の役割だ。何が何でも意向に応えたい」
■佐藤氏「強行採決は状況次第」
■高木氏「まずは政府案の洗い出す」
――審議を尽くせば強行採決もあり得るのか。
佐藤氏「状況次第だ。こっちも努力はする。首相や党役員の意見も聞いて判断したい。衆院議長の判断が最大のポイントだ。だめだと言われればやらない」
――維新の党は代表が松野頼久氏に代わり、民主党に寄ったとの見方もある。
佐藤氏「松野さんの父は自民党の松野頼三氏。柿沢未途幹事長のお父さん(自民党の柿沢弘治氏)はだれか。下地幹郎さんも自民党にいた。DNAはどちらにあるか考えなければならない」
高木氏「野党はこれまで以上に連携を取る。維新とは幹事長と国対委員長間の会談を早速やる。野党全体の発言時間を確保できるよう求めていく」
――民主党は対案をつくらず、対決姿勢を強めている。
佐藤氏「それは民主党の事情だ。対案をつくるならちゃんとつくればいい。党対党の門戸は決して狭めない。民主党の長島昭久さんや松本剛明さんとか、どちらかというと問題意識は我々とかけ離れていない。ところがまったく反対の人もいる。党としてはこうだと打ち立てた上で議論に入るべきだ」
高木氏「まずは政府が考えていることで曖昧な部分などを洗い出す。それだけでも相当な議論だ。今は修正協議は全く考えていない。物事にはアクセルとブレーキがある。与党はアクセルだ。我々の役割はブレーキで、アクセルを踏んでやる必要はない」
――圧倒的な議席数を持つ自民党は野党にどこまで配慮すべきか。
佐藤氏「ずっと野党の声を聞いてきた。普通だったら全部(法案を)通せるんだから、(野党の要求を)聞かなくていい。譲らなければいけない事情もまったくないのに審議入りも26日まで譲った」
高木氏「政権が陥落した時の前々回の選挙から様変わりした。特別委員会でも理事は(自民は5人だが)民主は1人だけだ。同情してほしい。物理上、どうしようもない」
――民主党が政権を担当したことは国会対策にどう影響したか。
高木氏「政権を経験して追及が弱くなった面はある。物わかりの悪い野党にならなくてはいけない。野党になったんだから二重人格にならないと。問題点があれば審議をストップさせても、議論の時間を確保しなくてはいけない」
――自民党は首相官邸1強で議論が見えないという声もある。
佐藤氏「安全保障法制は党内で十数年議論している。簡単な議論でここまできたとは思ってもらいたくない。総務会でも(議員が)発言できる場面がある」
――安保法制以外にも、雇用や農業関連で重要法案が多い。
高木氏「ほかの法案が埋没しないよう何とかしなければいけない。労働法制、農協改革、刑事訴訟法改正案など、野党が弱いいびつな国会で大事な法案をばんばん入れるのも与党の戦略かもしれない」
佐藤氏「法案としてちゃんと議論している。安保が進んだからといってほかの法案に関わるという話ではない。場面が来ればちゃんと採決する。その中でも、(過去の国会で2回廃案になった)労働者派遣法改正案は優先的にやりたい」
(聞き手は政治部 山口啓一、宮坂正太郎)
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佐藤、高木両氏への個別のインタビューを基に対談形式に再構成しました。
以上。