政府は、平成27年2015年3月6日(金)の閣議で、「防衛省設置法改正法案」(189閣法 号)を決定し、衆議院に提出しました。
法案は2本立てで、
(1)防衛省の外局として防衛装備庁(1400名、長官は次官級)を10月に設置する、
(2)内局(背広組)を統幕など(制服組)よりも上位に立てていた第14条を改正して同格(車の両輪)にするーーという内容です。
防衛省設置法は昨年も改正されており、防衛審議官が新設され、日米防衛協力のための指針いわゆるガイドラインの再改定の中間報告のとりまとめのためにワシントンに飛びました。
防衛装備庁は、現在審議中の平成27年度予算案に盛り込まれています。きょう提出された今次改正法案では、武器、弾薬、兵糧などの調達を一元化。防衛省はたびたび調達に関する不祥事を起こしており、そのたびに「防衛施設庁廃止」「調達実施本部(調本)の創設」「技術研究開発本部(技本)の設置」などの機構改革を繰り返してきました。今回は不祥事ではなく、昨年の「防衛装備移転3原則」の閣議決定にもとづき、哨戒機、潜水艦などの輸出を政府としてセールスしていく目的もあります。
一方、日本国憲法が定める平和主義を構成する絶対的な条件である、文民統制と自衛隊の関係。
「文民」とは、GHQが日本政府に示した「憲法草案」にある、シビリアン・コントロール(Civilian Controle)を日本語に翻訳して、帝国議会に大日本帝国憲法改正案として提出する作業で初めて日本語に登場した造語です。これに対して、「文官」とは、陸軍省・海軍省以外の省の官僚やそのOBを主にさす言葉です。ですから、例えば、近衛文麿首相は文民だけど文官ではないし、東久邇稔彦(東久邇宮稔彦)首相も文民だけど文官ではありません。広田弘毅首相は文官かつ文民であって、東条英機首相は文官でも文民でもありません。このためCivillianの日本語訳として「文民」という造語をつくったわけです。
これまでは、防衛省内で、文官(防衛省採用の背広組)が自衛官に優先することが文民統制(シビリアン・コントロール)につながるとされてきました。ところが、これはぜひ国会審議で明らかにしてほしいところですが、文民である総理や大臣らに情報が上がるのが遅れることにもつながっていたという指摘もあります。もちろん、自衛官の思いというのがあり、陸自出身の自民党参議院議員の佐藤正久さんは「なぜ防衛大学校に法学部がないんでしょうか」(昨年通常国会の外交防衛委員会の大臣所信に対する一般質疑)と語り、内局と統幕などの軋轢を披露しました。
この文官統制については、防衛省には、防衛大臣を補佐する文官として「防衛参事官」が3名ほど置かれていました。省で唯一、次官級に「参事官」という単語を使っており、国会でも大臣と並んで答弁していました。これが石破茂防衛大臣時代に改正されて、防衛参事官は廃止。代わりに「防衛大臣補佐官」が新設されました。定員は3名のはずですが、志方さんや森本さんが任命されながら3名フルに任命されたことはないと思います。そういったこともあり、次官級として「防衛審議官」が昨年新設。今回の「防衛装備庁長官」で文官の次官級ポストがもう1つ、新設されることになります。
この法案について、民主党代表の岡田克也さん(元衆議院安全保障委員長)は同日朝の定例記者会見で、次のように語りました。
「いろいろな経緯を考えれば、一つの大きな変化であることは間違いありません。ただ、具体的にそれがどういう影響を及ぼすのか。シビリアンコントロールの本質は、大臣・内閣・国会ということですから、これは、それとはちょっと次元の違う話ですね。しかし関係がないわけではない。そういったことをよく党の中で議論していただく必要があるのではないかと思います。
私は、現時点ではニュートラルと申し上げておきたいと思います」
と語り、まだ決めていないとしました。
関連して、同日の衆議院予算委員会集中審議4日目で、民主党の小川淳也さんが「文民統制について」の政府統一見解の提出を受けたうえで質疑しました。安倍晋三首相は「国民によって選ばれた首相が最高指揮官であり、同じように文民である防衛大臣が指揮する構造になっている」「自衛隊の活動は国会の決議も必要だし、国の予算も国会を通らなければならない。これこそがシビリアンコントロールだ。国民から選ばれた首相が最高指揮官だということで完結していると言ってもいい」と答弁しました。
ただ、「国会による議決」の中で、予算書の国庫債務負担行為の設定については、審議されてこなかったのですが、おととい4日(水)の衆議院財務金融委員会で日本共産党の1期生宮本徹さんが、平成26年度補正予算(成立済み)の中に、潜水艦の建造の国庫債務担行為が「景気対策」の名目で前倒し負担されたことをただしました。「軍事費を減らせば保育所の予算が増える」という稚拙な論理のなかで出て質問ですが、防衛省の国庫債務負担行為の設定が国会で審議されたのは極めてまれなことです。
防衛省設置法改正法案の概要や全文は防衛省ウェブサイトから取り出すことができます。
このうち、防衛省設置法12条の改正案は次のとおり。
[現行]
(官房長及び局長と幕僚長との関係)
第十二条 官房長及び局長は、その所掌事務に関し、次の事項について防衛大臣を補佐
するものとする。
一 陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚監部に関する各般の方針及び
基本的な実施計画の作成について防衛大臣の行う統合幕僚長、陸上幕僚長、海上
幕僚長又は航空幕僚長(以下「幕僚長」という。)に対する指示
二 陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚監部に関する事項に関して幕
僚長の作成した方針及び基本的な実施計画について防衛大臣の行う承認
三 陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚監部に関し防衛大臣の行う一
般的監督
[改正案]
(官房長及び局長並びに防衛装備庁長官と幕僚長との関係)
第十二条 官房長及び局長並びに防衛装備庁長官は、統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕
僚長及び航空幕僚長(以下「幕僚長」という。)が行う自衛隊法第九条第二項の規定
による隊務に関する補佐と相まつて、第三条の任務の達成のため、防衛省の所掌事務
が法令に従い、かつ、適切に遂行されるよう、その所掌事務に関し防衛大臣を補佐す
るものとする。
以上のようになっています。
ていねいに是々非々でのぞむ、安保法制国会になりそうな気配が出てきました。
【平成27年2015年3月6日(金)衆議院予算委員会】
集中審議4日目が開かれました。民主党の渡辺周さんは地方創生について、「東京からの移転をのぞむ官庁のリスト」の中に、種子島宇宙センターなどが盛り込まれたリストが自治体に示されているとただし、首相や地方創生章が謝罪しました。小川淳也さんは中川郁子・農林水産政務官の「路上キス」問題などをただしました。階猛さんはNHK会長、柚木道義さんは文科大臣の追及を継続。下村博文大臣は、任意団体の会長らが不正に寄付金控除を受けた可能性が浮上しました。もう本人のためにも辞任した方がいいでしょう。逢坂誠二さんは憲法改正などを質問しました。
あけて月曜日は中央公聴会、火曜日は分科会となり、衆議院通過をにらんだ緊張した来週になります。
関連エントリー)
2014年8月19日付)「「防衛整備庁」が第189通常国会の改正防衛省設置法成立前にウィキに「新設」」
2015年2月4日付)「清和会よ、「洋次郎」を忘れるな 公明党と自民党の安保法制再整備協議会が再開、来月法案の骨格とりまとめ」