このブログで「頭脳流出」 brain drain問題にからめて、シンガポールなどの先進医療事情を紹介したことがあった*。その後、2005年12月2日BS1「地球街角アングル」は、この問題を直接、題材にとりあげた。人口が少ないという制約の下で、新たな発展の方向を模索してきたシンガポールは、そのひとつの突破口を医療分野に見出したようだ。
人口の少なさは制約ではない
自国の人口が少ないことはいかんともしがたいとして、自らは世界でも最高度の医療水準の供給国を目指し、顧客ともいうべき患者は、経済水準が近年急速に向上している中近東、インドネシア、マレーシアなどの近隣諸国を想定している。まさにグローバル化を前提としての政策設定である。 この国は自国を活性化し、発展させて行くための政策構想がきわめてしっかりしている。
シンガポールは医療立国の条件として、高度な技術、安全性、ケアの水準の高さを目指している。世界的に有名なホテルで知られるラッフルズ財団のラッフルズ・ホスピタルは2001年に設立された。そして、すでに患者の30%、3万人が外国人である。患者の国籍は100カ国を越える。
巧みな設定
シンガポールの先端医療は、設備の点では世界最高水準に達していると誇示している。医師の教育水準も高く、国立大学病院で徹底教育し、2年ごとに免許更新を義務付けている。 費用の点では、心臓手術などを受けるとさすがに数百万円もかかるが、患者は医療サービスの内容を信頼し、それなりに対応しているという。また中東諸国は近年、総体として豊かであり、シンガポールで治療を受けたいという患者も増加している。これについて、UAEの政府は医療費に加えて、月額70万円の補助をするという。治療、療養中は付き添いの家族が滞在する家賃なども月35万円もかかる。UAEなどからの患者はそれでもなんとかやっていけるという。うらやましい話である。
ラッフルズ・ホスピタルなどは、こうした外国人患者専用のスタッフもおり、チャンギ空港まで出迎える。 シンガポールのコー・ブーワン保健相は、すでに世界6位の医療大国であり、国全体としてみると外国人患者数は年23万人を越えているという。
日本が考えるべき方向
日本の医療制度改革の議論をみると、薬価や診療費の改定、医療費の負担増など、視野が国内に限られている感じがする。医療の対象とする人口を日本国内に限定する必要は少しもない。人口の減少自体は過度に恐れることはない。重要なことは少ない人材をいかに活用できるかにかかっている。日本がこれまで蓄積してきた高度な医療水準を活用、発展させ、世界が頼りとする「医療立国」の構築をすることは大きな意味を持つのではないか。外国人の看護士受け入れ問題もこうした視点からみると、新たな展開の道が見えてくる。人口減少で国力の減衰や活力の喪失が懸念されている時、グローバルな視点からの斬新な構想が必要になっている。
*本ブログ関連記事
http://blog.goo.ne.jp/old-dreamer/e/4f23206fd5d4dba21c5c9bf96e98ec51