時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

不法移民問題の根源

2005年12月07日 | 移民政策を追って

  11月23日、このブログで「豊かな地への決死行: アフリカからヨーロッパへ」を書いて4日後の11月27日、アフリカ・ヨーロッパ間で深刻化している不法移民問題の解決を目指して、送り出し国と受け入れ国が合同しての対策会議が来年開かれるとの新聞記事を読んだ。

  開催地はモロッコの首都ラバドである。 10月にあったスペイン・モロッコ間の外相会談で合議がなされたとのこと。モロッコは、同国と地理上、陸続きであるスペイン領の飛び地を目指すアフリカからの不法移民の経由地となり、これまでにも多くの問題が発生してきた。その様子の一端はこのブログに書いたこともある。

有効性を欠いた従来の政策
  大事なことは、こうした不法移民を減らすためにいかなる解決策が提示されてきたかということにある。とりわけ受け入れ国の側からすると、有形・無形、いかなる壁があろうともそれを乗り越えて入国してくる不法移民については有効な解決策が提示されてこなかった。 国境管理を厳しくしてきたが、解決にはほど遠く、押し寄せる不法移民の波の前に限界が感じられてきた。EUでもアメリカでも、受け入れ側になった先進国は、しばしば自国のこうした労働者に対する需要が根強く存在する。そのために、たとえ国境の障壁を高く設定しても、さまざまな抜け穴を潜って入国してくる移民労働者への対応に苦慮する。さらに、彼らが時間の経過とともに帰国せずに国内へ居住する実態にはきわめて難しい対応を迫られてきた。

受入国の利益に限定された視野
    アメリカ、EUでは、不法移民(労働者)問題が再び注目を集めている。9.11、フランスの「郊外」暴動など大きな出来事があるたびに、クローズアップされてきたといってもよい。アメリカでも現在移民政策にかかわるいくつかの議案が審議過程にある。しかし、これまでに不法移民を生み出す究極の原因まで踏み込んだ検討、そして政策は生まれていない。ブッシュ大統領の論点も、あくまでアメリカの国益だけの狭い視野に限られている。

  モロッコの会議では「不法移民を出身国に留め置く根源的な移民対策」の必要性を議論するとのことだが、やっと原点の議論を始めることになったかという思いがする。移民や難民は国境を越えて流出が始まる前に、政治的・社会的安定の確保、雇用の創出などによって抑止する政策が必要である。多数の流出が始まってしまってからは、なかなか有効な策が打ち出しにくい。たとえば、アメリカ・メキシコ間の国境は、かなりの部分を砂漠や河川などの自然条件をもって国境代わりとしてきた。最近では、このほとんど人工の障壁にする提案もされている。しかし、こうした対策がいかなる効果を生むかについては、定かではない。かりに実現したとしても、一時しのぎでしかないことはほとんど確かである。このモロッコ会議でも、実際にどれだけ踏み込んだ議論がなされるのか、多分に疑問ではある。

  アジア・アフリカなどの開発途上国支援については、ODAを含めてこの視点が不可欠なのだが、これまで明示的に導入されたことはない。送り出し、受け入れ側が相互に関わらない移民政策の時代はとうに過去のものである。

本ブログでの関連記事 
http://blog.goo.ne.jp/old-dreamer/d/20051123
http://blog.goo.ne.jp/old-dreamer/e/1559239db9c3cba83dd6dcc247a15ea7

Reference
アフリカ・欧州不法移民問題」『朝日新聞』2005年11月27日

コメント (2)
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