移民送金の役割
重要な3つのR
外国人(移民)労働者が本国(母国)の発展に果たす役割については、さまざまな側面を考えねばならない。基本的には3つのRと呼ばれるRecruit、Remittance、Return という主柱の役割を果たす要因の関係がいかに維持されるかにかかっている。 簡単にいえば、いかなる人が海外へ出稼ぎに行くか(Recruitement)、どれだけの額あるいは比率の送金が本国へ行われるか(Remittance) 、そして海外で働くことを通して習得した技能や送金が労働者の帰国によって、どれだけ母国の発展に貢献するか(Return, Reintegration)という3つのR、相互の関係である。この間に「良い」関係が生まれると、海外出稼ぎが相手先国ばかりでなく、自国の発展に貢献する循環への道が開かれてくる。
「良い循環」の形成
現実には、移民(外国人)労働者は一度自国の国境を越えて外国へ出てしまうと、自分の意思とは異なった結果につながってしまうことが多い。本来、3-5年程度の間海外で働いた後、帰国して外国で獲得した熟練や資金を家族、そして究極には母国の発展に貢献することが期待されている労働者が、帰国せず出稼ぎ先へ定着してしまい戻ってこない、海外からの送金が少なくなる、母国へ送られた資金が浪費され生産的目的のために使われない、帰国しても希望する仕事がない、などの問題が生まれる。このような「漏出」が多いと、「良い循環」の形成が阻害される。
こうした状況が定着すると、無駄が多く移民に期待される効果が薄くなる。望ましい発展の形は、外貨送金が自国の生産的目的に使われ、雇用機会を増やし、それに伴って海外出稼ぎが次第に減少する方向である。アジアの例を見ても、かつては移民を送り出していた国でも、経済発展の軌道に乗って、移民の必要がなくなり、逆に受け入れ国へと転化している国も多い。日本、韓国、台湾、シンガポールなどである。
移民送金の重要性
この過程で、海外出稼ぎへ出た人々が、本国の家族などに送金する「移民送金」については、さまざまな評価がなされてきた。最近発表された世界銀行の報告によると、2004年に海外で働く労働者から自国に送金された額は、1670億ドルを越えたことが判明した。
この額は、開発途上国に投下される直接投資額に相当する。また、こうした国々への海外援助の2倍以上に達している。さらに、世銀報告では、銀行送金など公式なチャネルを通してではなく、インフォーマルな経路を通しての送金を含めると、この送金額は1.5倍になるという推定がされている。
また、注目すべき別の点は、こうした送金額の30-45%がマレーシア、南アフリカなど他の開発途上国から送金されていることである。 送金先は偏在している。開発途上国に平均的に広がっているわけではなく、特定国に集中している。インド、中国、メキシコ、フィリピンなどが外貨送金の受け取り額の多い国である。これらの国々では、受取額が100億ドルを越えている。また、GDPに占める比率もかなり高い。フィリピンなどの場合、13.5%という大きな比率である。 最近よく目にするBRICs(Brazil, Russia, India and China)は、受け取る送金額も大きい。
経済学者の間ではしばしば移民の外貨送金は海外からの直接投資やその他の資金フローと同様に、利潤動機に基礎を置いて、経済発展にプラスに寄与すると想定されることが多いが、必ずしもそうではない。海外送金と経済発展の間にはマイナスの相関があるとの研究もある(IMF Staff papers, Vol. 52, No.1)。
海外からの送金が生産的な意味に使われているかは、国によっても異なる。フィリピンのように送金金額やGDP比率は大変大きいが、国内の雇用機会が十分でなく、海外出稼ぎ労働者の数は減少する兆しがない国もある。自国にい本来ならば必要な人材が流出してしまう。自国の失業者数の増加による政治不安解消などもあって、政治家はしばしば海外出稼ぎを支援する。
ディアスポラの悲劇
海外出稼ぎのために、家族が離散し、家庭、そして民族までもが崩壊してしまう現象 Diaspora も大きな問題である。 出稼ぎに行くときは予定の貯金ができたら帰国すると思い定めていても、気がついてみると10年以上経過し、結婚や子供が生まれ、帰国の動機を失ってしまう。あるいは帰国しても、かつての母国に受け入れられず、何度も出稼ぎを繰り返す人々もいる。いずれの人たちも、精神的、経済的双方の意味で自分の母国を失う(Heimatloss)ことになる。
インドや中国のように多数の国民が海外へ流出し、その外貨送金がきわめて大きな額になっている国もある。こうした外貨送金の絶対額の大きさに期待をかける開発途上国も多い。しかし、海外滞在期間が長くなるほど、本国への送金が少なくなってくることも分かっている。海外にいるインド人の数や比率にからみると、インドはもっと海外送金があってもおかしくない。インド人経済学者の間には、本国は在外インド人から税金を徴収すべきだとの議論もある。
経済発展と海外出稼ぎ、移民をいかに位置づけるか。海外送金はその成否を定める大きな鍵のひとつである。グローバル化の急速な進展の中で、海外送金についても新たな観点からの再検討が必要になっている。
Reference
Chami, Ralph, Connel Fullenkamp, and Samir Jahjah, "Are Immigrant Remittance Flows a Source of Capital for Development?", IMF Staff Paper, Vol.52, No.1, 2005.