時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

こしの都:古代のロマンと地域活性化

2008年06月04日 | 雑記帳の欄外

    昨年縁あって訪れた「こしの都1500年フェスティバル」の記念誌を寄贈していただいた。「こしの都」というのは、福井県越前市(武生、今立など)を中心とした地域である。この催しは、『古事記』『日本書紀』に記されているあるロマンから、スタートしたユニークな地域活性化プロジェクトである。

  昨年2007年から数えて1500年前、古墳時代の中頃、近江の豪族、彦主人王(ひこおし)と越の国の豪族の娘振媛(ふりひめ)との間に生まれ、父亡き後、母の振媛のもとで、越の国の大王として成長した継体大王が、507年に大和より迎えられて樟葉宮(くずはのみや)で即位し、倭国(日本)の天皇として国を治めたという話が原点となっている。

  継体天皇についての史料は限られていて、多くの謎めいた部分があるが、近年の考古学と歴史研究のめざましい進展で、新しい継体天皇像とその背景がイメージされるようになった。507年に即位した樟葉宮は現在の枚方市にあたり、淀川を通じて開かれた新しい都づくりを企図したものだった。

  継体天皇の名前は知ってはいたが、その出自がどこであったかなどの背景については詳しくは知らなかった。しかし、たまたま、このプロジェクトでその内容を知り、フェスティバルが開催されていた時に現地を訪れ、いくつかの史跡なども見て大変興味が深まった。

    継体天皇についても、近江出自説と越前出自説のふたつがあることを知ったのだが、この点もかなり面白い部分だ。今後、未発掘の古墳などから新たな証拠が発見される可能性も多々残っている。福井県もご多分にもれず、車社会になり、車なしに山里深く埋もれている見所をまわることはかなり苦しい。しかし、それだけに都会化することなく、ひなびた良さが残っている。長い歴史を持つ茅葺きの料亭なども残っており、楽しむことができた。

  福井はこれまで調査その他で訪れ、大変なじみが深いが、いつも郷土愛を支える人々の心の温かさが印象に残る。福井県は日本でも住みやすい県の上位を占めるが、その基盤にあるのはこうした人情だろう。

  地域活性化の試みは、これまで各地でさまざまに行われてきたが、持続的な発展へと結びついているものは少ない。活性化につながるための要因の検討とその関係を十分、息の長いプロジェクトとして生かす必要がある。昨年のプロジェクトも、地域の文化的遺産を広く再認識してもらうことがひとつの目標だったようだ。さまざまな世代の人々に地域への関心を持ってもらうように、短い期間にやや盛りだくさんなくらいの多くの催しが行われた。「国際平和映画祭JAPAN in こしの都」で上映された映画の中には、「ダライ・ラマ・ルネッサンス」も含まれていた。上映が今年だったら、大変な話題となったろう。

  この地域には、越前和紙、金属加工、漆器、繊維など、多くの素晴らしい伝統産業の素地がある。全国にあまり知られていないことが残念に思うほどだ。その意味で、「こしの都プロジェクト」は、地域住民の郷土再認識にはかなりの効果があったと思われる。しかし、これだけでは地域の持続的発展にはつながらない。単発的なプロジェクトから脱して、真の活性化へ移行させることができるか。今後の展開を楽しみに見守りたい。

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