オバマ大統領が就任以来ほとんどなにも着手していないと批判されている分野がある。移民法改革である。最大の問題はいうまでもなくメキシコ国境の問題であり、毎日のように国境のメキシコ側での殺人事件や国境地帯でのパトロールとの衝突が報じられている。
オバマ大統領は、無為無策との批判に、7月1日、ようやく移民法改革に着手する旨の演説を行った。
新政権成立以降、連邦レベルの政策の空白に業を煮やした州や地域が独自に対応して新たな問題を生んでもいる。最近ではアリゾナ州の不法移民への厳しい対応やネブラスカ州の町での騒動が論議を呼んでいる。これらの地域には、それぞれの理由もある。アリゾナ州は不法越境するメキシコ人にとって、通過点になっている。そのためもあって、麻薬取引なども発生しやすい。アリゾナ州の厳しい新法では、アメリカ生まれのラティーノでも自動車免許証を携帯せずに外出すると、逮捕される可能性もある*1。
他方、ネブラスカの例*2を挙げると、この州の小さな町フレモントに最近食肉加工の工場が進出してきた。土地の安さと労働組合が組織化にあまり関心を寄せていないことが主たる理由だ。ところが、工場の進出を追いかけるように仕事を求める移民労働者が流入してきた。
2007年時点でネブラスカ州の外国人比率は5.6%と1990年の3倍以上になった。全体の比率としては、さほど高くはないが、移民労働者が集中する地域では問題が頻発している。たとえば2008年にはヒスパニック系とソマリア人の食肉加工労働者の間で衝突が起きている。
就任以来今日まで、さしたる手段を講じてこなかったオバマ大統領にとって、取り得る対応は少なくなっている。今回オバマ大統領が述べたことはほとんどブッシュ前大統領が「包括的移民法改革」として提案していた内容と変わりがない。すなわち、国境の安全保障・警備を強化するとともに、1100万人ともいわれる不法移民を審査の上、アメリカ国民に受け入れてゆくという方向だ。
しかし、ハッチ議員のようにこの方向に反対の議員もおり、議会も法案再検討の意欲を失っている。あのマケイン上院議員はアリゾナ州の新法に賛成しているようだ。ケネディ上院議員を失った今日、民主、共和両党をとりもつ実力者もいない。オバマ大統領としては中間選挙を控え、実質的な提案と推進の努力が求められているが、手の内にはブッシュ政権の残骸しか残っていないようだ。 (アメリカ司法省は7月6日、アリゾナ州新移民法は違憲として、同州連邦地裁に提訴した。州法は7月29日が施行日となっている。)
ところで、日本の入国管理政策では、富裕な中国人観光客の懐頼りというさもしい施策が話題を呼んでいる。アメリカとメキシコのように、日本が中国と地続きでないことを喜ぶべきなのだろうか。
*1 アリゾナ州の新法は同州在住の移民について、外国人登録証の常時携帯を強制する一方で、不法滞在者か否かの職務質問を警官に義務づけている。
*2
Reference
'Our town' The Economist June 26th 2010