ノルウエーの詩人P-H ハウゲンによるジョルジュ・ド・ラ・トゥールに
ついての詩集
暑さから逃れて
酷暑、豪雨、旱天と異常気象が矢継ぎ早に日本列島を襲った夏だった。ある日、猛暑の昼下がり、近くの行きつけのイタリアン・レストランに入る。若いイタリア人の経営で、予約が必要な人気の店だ。幸い空いていた。間もなくお隣の席に、中年の外国人男性が一人座った。手持ち無沙汰のように見えたので、コーヒーの時に、「イタリアからいらしたのですか」と聞いてみた。
すると、思いがけない答えが戻ってきた。「いいえ、ノルウエーですよ。妻は日本人で子供も日本の学校へ行っています」との答えである。近所に外国人が増えたことは、感じていたが、ノルウエーの人までとは思わなかった。なにかと住みにくくなった日本だが、住んでくれる外国人もいることは有りがたいことだ。
原発がない国
早速今年の猛暑が話題となる。日本の暑さは厳しいが、今はなんとか過ごしていますよとのこと。かつて管理人が訪れたオスロー、フィヨールド探訪の拠点ベルゲンなどの話になる。ベルゲンは雨の多いことで有名で、すぐにその話に移る。ちなみにノルウエーは国土面積は日本とほぼ同じだが、人口は450万人くらいで、自然環境、社会環境はまったく異なる。うらやましいことに水力、石油、天然ガス、石炭とエネルギー資源に恵まれ、国内発電能力の大部分は水力で充足している。原子力発電は基礎研究はしているが、発電所の計画もない。しかし、他の北欧諸国同様、核燃料廃棄物の放射能の減衰年月と〈安全性〉を考えて最終格納場所まで研究されているようだ。
こんなことを話題にする日本人はほとんどいないようで、会話は弾んだ。外国に住んでいて、自国のことを知っている人に出会うことは、一寸した驚きで、また喜びでもある。こちらも、最新情報を教えてもらう。
ラ・トゥールに出会う
さらに話は思いがけない次元に飛ぶ。ノルウエーの詩人パールーヘルゲ・ハウゲン Paal-Helge Haugen(1941-) の詩集 『ジョルジュ・ド・ラ・トゥール瞑想』 Meditations on Georges de La Tour のことである。日本では、フランス通といわれる人の間でも、意外に知られていない画家である。ハウゲンはノルウエーでは著名な詩人でスエーデン・アカデミーの文学賞を含めて、ノルウエーの主たる文学賞5つを受賞している。
Paal-Helge Haugen 氏イメージ
ラ・トゥールに関する同氏の詩集がノルウエーで出版されていることは、聞いたことはあったが、英語版が刊行されたことは最近になって知った。この17世紀フランスを代表する画家については、実にさまざまな試みがなされてきた。その一端はこのブログでも記している(まとまった紹介を考えてはいるが、果たせていない)。日本ではほとんど知る人も少ないが、世界中でこの画家と作品を題材とした文学作品は数多く刊行されている。
さて、このハウゲンの詩集は、1990年にノルウエー語で書かれ、同国批評家賞 Norwegian Critics' Prize を受賞した。そして1991年に英訳もされたが、今年2013年にはノルウエー語と英語並記の詩集が刊行された。17世紀激動の時代に数奇な生涯を過ごしたラ・トゥールという画家の世界と作品について、詩の形式で思索、瞑想したものである。ラ・トゥールの時代と作品について、かなり詳しくないと、理解不能と思われる。
ラ・トゥールが生きた17世紀ロレーヌの闇と、北欧ノルウエーの闇とは、同じヨーロッパであっても、かなり異なる。しかし、この画家には時代や国境を超えて共鳴しあうなにかがある。
この詩集が刊行された今年春の出版記念会 Book Raunch において、ハウゲンの作品の一部が紹介かたがた朗読されている。読んでいるのは英語版への翻訳者Roger Greenwald である。この朗読を聞いて、共鳴できる方は、相当のラ・トゥール・フリーク(?)であることは間違いない。
詩集の概略と朗読の動画サイトはこちら。
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Read by Roger Greenwald
ちなみにハウゲンが詩の対象としたのは、ラ・トゥールの「ヴィエル弾き」を含む五点の絵画です。
Paal-Helge Haugen, Mediations on Georges de La Tour, Translated by Roger Greenwald, BookThug, Canada, 2013.