Jacques Callot. Les Gobbis
BnF, Paris
ジャック・カロ Jacques Callot の名は、このブログ(カテゴリー参照)でも頻繁に登場しているので、ご存じの方は多いでしょう。17世紀を代表する銅版画家のひとり、ジャック・カロの作品が、まもなく国立西洋美術館でご覧になれます。『ジャック・カロ リアリズムと奇想の劇場』と題する展示で、来る4月8日ー6月15日が開催期間です。
「危機の時代」といわれた17世紀のヨーロッパ社会を広く旅し、その鋭い観察力で王侯貴族から貧民の世界まで、世の中のスペクトラムを曇らない目でリアルに、縦横に描いた画家でした。たとえば、このブログでも「画家が見た17世紀ヨーロッパ階層社会:ジャック・カロの世界」と題した覚え書きを記しています。
そして、他方でカロの頭脳は、ファンタスティックという表現がふさわしい、もうひとつの奇抜で創造力に溢れていました。それらの作品を見ていると、現代のアニメやSFの創始者ではないかとさえ思ってしまいます。実に、不思議な人物や生物が多数登場してきます。それは当時の社会のカリカチュアでもありました。
こうしてみると、ジャック・カロは「時代の鏡」 miroir de son temps (Georges Sadoul) という表現が文字通りあてはまります。
銅版画という色彩表現の上では、地味な技法ですが、そこに描かれた世界の緻密さと広がりは、17世紀に写真家という職業があったとしたら、かくやと思うばかりです。そして、版画の持つ多数の作品を印刷で制作できるという力は、この画家の思想を広く社会に伝播・普及させることができました。しかし、その作品数のあまりの多さに、作品集でも持たないかぎり、この画家の全容を知る人はそう多くはないはずです。その意味で、こうした展示は得がたい機会です。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥールと同じ年代、ナンシー生まれのこの画家が生きた時代は、時空を超えて、さまざまな危機に脅かされる現代の世界につながっています。ご関心をお持ちの皆様にお知らせしておきましょう。
以上、美術館のPRではないので、あえてリンクはいたしません(笑)。