時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

少し離れて見る世界(6):民主主義とはなんだろう

2014年03月31日 | 特別トピックス

 



Photo YK




    

 これまで、折に触れ、少しずつ話題としてきた「民主主義」というテーマだが、最近では単に政治哲学の分野に限らず、経済、社会の広い分野で、問い直されている。とりわけ、問題として浮上しているのは、民主主義、あるいは民主制というイデオロギーが、現実の世界でどれだけ実現し、どのように評価されているのかという点にある。

  必ずしも日本に限ったことではないが、議会制民主主義も無党派層の増大、投票率の低下など、議会制度が前提としてきた国民の政治参加が十分機能しているとはみえない現象がいたるところに出てきた。


民主主義国 vs. 非民主主義国
 
今世紀に入って、世界の民主主義国といわれる国々の多くが、原因はさまざまではあるが挫折や後退を経験している。とりわけ、国家財政上の問題を抱える国々は、実質的に破綻している。他方、非民主主義国というグループに分類される中国などは、自分たちの制度・体制は、民主主義国よりもはるかに効率的に機能していると誇示してきた。民主主義あるいは民主制とは非効率を内在しているのだろうか。

  このように、民主主義という言葉は、いたるところで良く聞かれるが、実際にはいかなる内容が実現すればそういえるのか、少し考え直すと、実はあまりよく分からない。大新聞などの紙面には、毎日登場している言葉だが、あまり意味の無い修飾語のようにつかわれていることも多い。少なくも、民主主義が問われる時に、その問題に関係する人々の間にどれだけ共通の理解、基盤が形成されているか、疑問に感じることがある。

 この小さなブログで、こうした大問題の細部に立ち入るつもりはないのだが、たとえば日常使う辞書では、民主主義とは、「基本的人権・自由権・平等権あるいは多数決原理・法治主義などがその主たる属性であり、またその実現が要請される(『広辞苑』第6版)、「政治上だけではなく、広く人間の自由や平等を尊重する立場をいう」(明解国語辞典」などと説明されている。
しかし、その状況が実現しているか否かを具体的な場で判定するのはかなり難しい。さらに民主主義という言葉は、多様性を持ち、歴史的にも変化をとげてきた。そのため、人々の抱くイメージもかなり異なっている。

 一般に民主主義が制度、民主制として実現している国としてあげられるのは、西欧の場合が多い。非西欧の国の中では少ないが、いちおう日本も含まれているようだ。その日本で、国民がいかに認識しているのかもあまりはっきりしない。

遠く離れたトクヴィルの時代

 1830年代にアメリカへ旅したフランスの政治家トクヴィルは、その見聞を基に『アメリカの民主政治』を著した。その中で、ローカルな政府がデモクラシーを最も良く発揮できると述べている。そこでイメージされた状況は、アメリカ独立期のタウン・ミーティングのような場合と考えることができる。しかし、当時考えられたデモクラシーと、現代のそれとはかなり異なるとみるべきだろう。トクヴィルの描いたようなイメージは、いわば「古典的民主主義」ともいうべき類型と考えられる。

 それに対して、現代の民主主義は、経済学者シュンペーターが議論展開の源になった「エリート民主主義」ともいうべき概念に近いようだ。言い換えると、主権者の意思の一致、実現が、現実にはほとんど存在していないことを論証した上で、政治家を議会メンバーとして選出する政治家主導の状況といえる。。

 しかし、「エリート民主主義」あるいはそれに類似した民主主義も、さまざまな欠陥を露呈してきた。その間に、「参加型民主主義」や「直接民主主義」など、異なったタイプの民主主義が、地域や職場などの次元で有効であると主張されるようになった。しかし、多くの人が納得し、賛同する普遍性の高い民主主義の類型は、まだ見出されていないようだ。

 現代の状況は、さまざまなタイプがそれぞれに問題を抱え、普遍性を主張できず、混沌としたままに動いているといえるだろう。

いまだ答が出ない問
 このブログの管理人は政治哲学などとはまったく無縁の分野で過ごしてきたが、最近思いがけず手にすることになった、民主主義の現状についてのいくつかの論評を読みながら、現実の世界はトクヴィルがアメリカを旅した時代と比較して、どうもさほど進歩しているとは言いがたい状況にあると感じるようになっている。いったい、人間の世界は、これからどこへ向かうのだろうか。これは、若い頃に考えさせられた「進歩とはなにか」という問に、いまだ答を出せていないということでもある。

 

 

 
  

Reference
'What's gone wrong with democracy and how to revive it.' The Economist March 15th-17th 2014. 

コメント
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