時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

トランプ大統領選出の明暗(5):栄光の日々は戻るか

2017年02月08日 | アメリカ政治経済トピックス

 

 



 トランプ大統領の相次ぐ大統領令は、世界を巻き込んで、次々と問題を引き起こしている。イスラム圏7カ国からの入国を禁じた大統領令は、すでに火がつき、このままでは連邦最高裁まで行きそうな気配だ。上下両院共に共和党が優勢であるにもかかわらず、議会の存在など無視するかのごとく、大統領令を矢継ぎ早に出している。大統領権限の強さを見せつけるかのようだ(今になっても閣僚が決まらない内情もあるだろう)。トランプ大統領は、全て常識の範囲だと言っている。しかし、大統領の常識は他の人々の常識とは限らない。選挙運動中のトランプ候補は、オバマ大統領在任中の大統領令のいくつかについては「法律違反で行き過ぎだ」と批判していたのだが。

大統領令にあまり頼らなかったオバマ大統領
 一つの興味深いデータ*1に出会った。初代リンカーン大統領就任以来の120年間の大統領制の歴史で、前任者のオバマ大統領は第7代のクリーヴランド大統領以降、在任中の大統領令の発令が最も少ないという。年間平均で35件、在任中の合で277件という記録である。最も多かったのは、フランクリン・D・ローズヴェルト大統領の年平均307件、在任中の合計3,721件である。T.ローズヴェルトからタフト、ウイルソン、ハーディング、クーリッジ、フーヴァー、T・ローズヴェルト、トルーマン大統領の時代がかなりの高い水準を示している。その後はほぼ傾向として減少し、オバマ大統領まで続いてきた。トランプ大統領は就任以来、連日のように大統領令を発令してきたので、このままのペースで進むと、その数も増えるが、息切れするか反対への対応ができずに挫折する可能性も高い。

 大統領令以外にも、類似の効果を発揮する手段*2もあるので、一概には言えないが、大統領令に限れば、それが少ないという事実は、議会での検討あるいは法案の討議、成立などに比重が置かれていたということを示すと言えるかもしれない。トランプ流は議会民主主義を軽視することになり、このままでは自滅につながりかねない。現在のトランプ大統領のやり方には、共和党議員の中にも賛成しない議員が出ている。議会での検討を加えることは、しばしば時間もかかり、妥協を迫られ、期待通りの結果とならないことも多いが、内容は充実する。いうまでもなく、法案が成立することで社会的にも安定度と信頼性が加わる。

 トランプ大統領自身が「アメリカを再び偉大に」Make America great againと言っているように、現在はかつての栄光を失っていることは多くの人が認めているようだ。一般のアメリカ人は現状をどう感じているのだろうか。

高まるペシミズム
 いくつかの調査があるが、その代表的な一つ*3を見てみよう。調査が行われたのはトランプ大統領が当選した直後である。

 アメリカが向かっている方向についてはペシミズムがかなり高まっている。2012年のオバマ政権の選挙選当時行われた同じ調査では、回答した市民の57%が、「この国は誤った方向へ向かっている」と回答したが、トランプ当選決定後の昨年末では、74%が「誤った方向へ向かっている」と回答している。次に、アメリカが国民が望ましいと思う軌道を外れ始めたのはいつ頃と感じているのだろうか。これについては、アメリカ人は「過去数年間(30%)」というよりも「かなり前から」(44%)道を外れてきたと感じている。要するにオバマ大統領以前から衰退し始めていてとの認識だ。

「見るべきものは見つ」
 ちなみに、現在のアメリカ国民が「良き時代」と漠然と思っているのは、1950年代である。大統領では、J.F.ケネディの時代までと考えられる。アメリカは歴史上、ほとんどの戦争に手を染めてきたが、ヴェトナム戦争勃発以降、社会は傾向的に下降線をたどってきた。同じ調査の回答者の半数近く(51%)は、アメリカは1950年代以降、国のあるべき姿ではなくなっていると考えている。特にトランプ大統領を生んだ共和党支持層に多い。他方、ヒラリー・クリントンを指示した層の70%近くは、アメリカは改善されつつあったと回答していた。トランプには投票しなかった黒人、ヒスパニック層が多い。
  
 回答した国民の53%は、オバマ大統領は大統領としての仕事をうまくやってきたと考えている。この比率は、2014年の中間選挙の当時の38%よりも高まっている。オバマ大統領は初当選当時は世界的な声援に支えられ、大きな期待をかけられての政権発足だったが、その後は共和党の反対も強まり思いかけずも、不本意な終幕となった。それでも、今回の大統領選からの経過を経験した国民の多くは、党派の別を問わず、トランプ大統領が率いるアメリカの将来に不安を感じているのだろう。オバマ大統領については、当初の理想主義は後退させられたが、筆者はケネディと並ぶ優れた資質を持った大統領と思っている。政権最後になって、もう一期オバマにやってほしいとの願いも散見されたのは、大統領選があまりにも低俗過ぎたのだ。

 今世紀の半ば、2050年をメルクマールとすると、アメリカは栄光の日々を取り戻すことができるか(アメリカを論じることは、かなりの程度日本について論じることでもある)。トランプ大統領の強調する「強いアメリカ」を取り戻すことができるだろうか。その可能性は極めて薄いとブログ筆者は考えている。幸いその日を目にすることはない。



References

*1  "Obama issued fewer executive orders on average than any president since Cleveland"  Pew Research Center, January 23, 2017

*2 例えば、presidential memoranda, proclamationなどがある。しかし、120年の大統領制度の下で一貫したデータが記録されている大統領令 executive orderをここでは採用している。

*3  Public Religion Research Inatitute(PRRI), 2016 American Values Survey.

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