時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

時空を超えて:今我々はどこにいるのか

2019年06月10日 | 午後のティールーム

 


まだブログとホームページの違いもよくわからなかった頃、大学の講義や演習とは直接関係ないが、長らく関心を持っていたテーマ、トピックスをメモがわりに記しておきたいと思い、若い学生諸君の力も借りて、HPを設計し、たどたどしく書き始めたのがこのブログ?の始まりだった。若い世代との話題拡大も一つの目的であった。

「危機の時代」を振り返る
インターネットの最大のメリットは、大学講義のようにテーマを制約されて話す必要もなく、かなり自由に論点、トピックスを移動できることが最大の魅力だった。ブログ・タイトルを「時空を超えて」としたのは、筆者の仕事としてきた「現代経済研究」(とりわけ労働問題)と、多忙なままに整理できなかった「17世紀ヨーロッパ研究」(とりわけ美術・文学)、そして17世紀から今日まで何度か浮上した「危機の世紀」のトピックスを、「タイムマシン」のように行きつ戻りつしながら、脳中に眠っている記憶を明示化し、時には多少の議論の材料としたいと思った。何れにせよ、試行錯誤だった。

筆者のその思いは多少満たされた。ブログで筆者の意図を知ったかなり多くの方々から、それまであまり語られなかった興味ある側面を知ることができた、あるいは一人の筆者が書いているのかとの話まであった。トピックスが縦横に変わることがそうした印象を持たれたのだろう。しかし、それこそがブログ筆者の意図したことでもあった。変化の激しい時代を生きる上でも、狭い話題に束縛されることなく、大きく広い世界を視野に入れておきたいと思った。アクセスしてくださる方には、右往左往するトピックスに当惑されたことだろう。

今日につながった17世紀絵画
ブログで取り上げてきたひとつのテーマ、17世紀の画家ラ・トゥールについては、記事を読まれた読者の方が、はるばるフランス、ロレーヌの地から感想を寄せてくださったこともあった。「時間」TIMEと「空間」SPACEという概念に基づいて組み立てたブログの仕組みが
働いてくれた。作品を見ただけでは全く分からなかった画家の生活、時代背景を知ることが出来て、カラヴァッジョを含め17世紀絵画が非常に興味ふかいものになったと感想を述べられた方もあった。17世紀ヨーロッパ市民社会の先進地域のオランダ絵画を見ているだけでは「危機の世紀」と言われたこの時代のヨーロッパを正しく理解することはできない。

2016年には、NHKで俳優モーガン・フリーマンによる「モーガン・フリーマン 時空を超えて」という宇宙を主題とする番組がEテレで放映され、世の中では「時空を超えて」とは宇宙のテーマと思われた向きもあったようだ。しかし、TIME AND SPACE というテーマは歴史、文学その他の領域でも大きな意味を持つ枠組みとなる。

「時空」を構成する概念
時間の概念の導入とともに、その推移に伴い空間は壊れ、それを支える様式・フォルムも壊される。歴史の次元では技術変化に伴い、時間軸上で時間は「速度」を増し、「過去」から「現在」の要素が急速に増加する。時間、空間の次元で「方向」DIRECTION、「フォルム」 FORMは、技術変化に大きく依存、影響を受ける。美術、文学、音楽などが知的活動を促進する。技術変化は時代によりその速度は異なるが、産業革命以降、電気、電信、電話、鉄道、自動車、航空機など次々と起動力を導入した。結果として、社会の伝統的な階層、ヒエラルキーも破壊される。それとともに、世界も次々と新たな展開を見せる。産業革命に関わるトピックスが、頻繁に現れるのは、こうした背景を意図してのことである。


「時間」と「空間」という抽象的概念から成る枠組みは、さらに過去、現在、未来、速度、フォルム、距離などの概念の導入で充実する。そして、画家、音楽家、芸術家などの次元に入れば、「時空を超えて」、「当時」(contemporary)と「現在(」contemmporary)を比較することも可能となる。17世紀に生まれ、活動したが、20世紀初頭まで美術史上忘却されていたラ・トゥールという画家の現代的評価が実現することになる。電灯の発明・普及で、蝋燭の光しかなかった17世紀の光と闇の世界は大きく変わり、その境界は、漠としたものになった。「光」(あるいは昼)と「闇」(夜)という二分された世界は、過去のものとなった。

今やこの世界から闇は奪い去られた。現代人はラ・トゥールが生きた17世紀の闇を知ることがない。そこは魑魅魍魎が徘徊し、魔女たちが支配する恐ろしい世界だった。しかし、現代は夜も電灯が煌々と輝いている。このことは、作品を観る者の環境、心象風景も変えてしまった。ラ・トゥールの作品に描かれた蝋燭一本の光に立ち戻ることはない。そして、いまや作品の裏側まで見通しうる人は少なくなった。時空を超える以外に、画家が思い描いた真のイメージを理解することは出来なくなった。

 


モーガン・フリーマンの番組の原題は”Through the Wormhole”となっている。ワームホールとは、天文学でブラック・ホールとホワイト・ホールの仮説的な連絡路(1593)を意味する。




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